英国国立オープン・ユニバーシティ ビジネススクール 日本事務局 中島さち子氏

MBA取得は国内で一時盛り上がりを見せたものの、現在日本企業の間で十分に浸透しきっていない感がある。しかし、大企業を中心にグローバル人材育成ニーズが急速に高まるなかで、いま、MBAに再び注目が集まっている──世界初の遠隔制の大学であり、1983年開学以来、91カ国以上、23000人ほどのMBA修了生を送り出してきた英国国立オープン・ユニバーシティ ビジネススクール 日本事務局の中島さち子氏に、グローバル社会における「MBA」の意義と価値とはどのようなものかについて話を聞いた。MBAは、なぜこれほど国際社会で尊重されるのだろう。

なぜ日本ではMBAの評価が低いのか?

──いま国内ではMBAはどのような状況にあるのでしょうか。

中島氏: 国内には優れたMBAもたくさんありますし、何よりもMBAを取りたい!と考える一人ひとりの方々の思いや夢は素晴らしいと、日本事務局をしながら日々感じています。

MBAを学びたい方の動機はさまざま。グローバルビジネスで活躍したい方、職場に良いchangeを起こしたい方、経営管理の視点を理解したい方、スキルアップしたい方、起業したい方、転職を考える方、趣味として学びたい方・・・多種多様な各自の夢や思いを持って、みなさまがたくさん迷った上で、各自のMBAへの扉を開いています。

ただ、現在は、国内ではMBAの品質を保証する第三者認証機関が存在しません。文科省もMBAの認証は行っていないため、例えば会計学修士なども国内ではMBAを名乗ることができますが、国際社会では内容的に「MBA」とは認められない現状があります。その結果、本来、一般的かつ実務に生かせる学び(グローバルスタンダードな経営管理学)であるべきMBAの定義が、国内では十分に理解されないままとなってしまっている面があるようです。

──しかし欧米を中心に海外では、MBAを修了した人材に対する企業からのニーズはむしろ高まっていると聞きますが。

中島氏:そうですね。海外では認証機関がしっかり存在するため、実務に繋がる学習カリキュラムが充実しています。MBA取得者に対しては、どのようなスキルを徹底的に習得したかについての信頼性が極めて高いため、MBAを修了すると海外での評価が全く違ってくる、ということなので しょうね。

一方、国内の大学で国際認証を1つ以上持っている学校は慶應ビジネススクールと名古屋商科大学大学院の2校だけです。アジアの中でも少ない数です。認証機関では数年に一回、認証校の更新を行っており、カリキュラムなどを精査して、もし基準に達していないと判断すれば認証を取り消すこともあります。厳格な評価を行っているからこそ、MBAを修了した人に対する評価もまた高くなるという仕組みです。そのため、外国では国際認証を持っていないMBAは、残念ながら一般的にはあまり評価はされないようです。

──国内では一年間でMBAを修了可能なビジネススクールもありますが、そうしたMBAを選択することについては、どのように考えていますか?

中島:第一に、ご自身で未来のキャリアをどのように描いていきたいのか、どういう人物になりたいのか、今どういうスキルを身につけたいのか・・・そうした「各自の未来像」を自分なりに考え抜いた上で自分に合ったMBAを選択されていれば、それはすばらしい選択であると考えます。ただ、「MBA」とは現実のビジネスの場で使えてこそ初めて意義があるものであり、ただの「資格」ではなく、むしろ実際的なビジネス上の「道具」です。

「MBA」というグローバルスタンダードな道具を本当に使えるようになるまで、職人さんのような、学習と実務を密接に結びつけながら山谷乗り越えていっていただく過程が必要になります。例えば国際認証のあるカリキュラムで学び、十分な時間をかけ、苦労した場合は、それだけ多くのものが得られるのは間違いないと思います。

──市場のグローバル化にともない、最近は日本でもグローバル人材教育の必要性が叫ばれるようになってきましたが、再びMBAに注目が集まるきっかけとなりそうですか?

中島:グローバル人材教育は、MBAに対するニーズが国内で高まる大きな動機になると考えています。経営管理のグローバルスタンダードとしてのMBAに対して正しい理解がなされるようになれば、国内でも再び盛り上がるのでは、と期待しています。