問題となるのは店舗側のソリューションだ。先日、Appleが申請して公開されたばかりのモバイルペイメントに関する特許を紹介したが、このように同社自身は以前より店舗や各種会場での決済システム参入に興味を持っているのは間違いない。だがレポート中でも説明したように、決済まわりの事情は年単位で大きく変化しており、この特許が申請された2年半前とは大きく事情が変わってきている。仮に店舗へのシステム導入に目を向けるとしても、おそらくは違ったものとなるだろう。

技術面にも課題あり

現在、Appleが店舗向けソリューションで注目している2つの技術が「iBeacon」と「バイオメトリクス認証」だ。iBeaconはすでにApple Storeでの展開がスタートしており、店舗に近付いたユーザーのiOSデバイスに対して店舗情報をプッシュ配信するのに用いられている。

iBeaconはBluetooth Low Energy (BLE)の技術の一部で、対象とのおおよその距離を計測できるほか、ユーザーを認識しての情報配信が可能だ。AppleのiBeacon以外にも、PayPalが「PayPal Beacon」の形で店舗向け決済サービスを発表していたり、Estimoteが近接センサーの一種として各種ソリューションを提供していたりと、利用範囲が広がっている。

一方でApple Store以外の事例は小粒に留まっており、追加投資等や検証にかかる時間等の問題から、本格的展開にはまだ少し時間が必要だという印象を受ける。バイオメトリクス認証については、AppleがiPhone 5sで導入した「Touch ID」の指紋センサーがあるが、プライバシー関係の懸念に加え、センサー自身の精度の問題や実装時の認証手段等で課題も多い。便利ではあるが、まだ本格利用には同じく時間がかかるという意見だ。

以上を踏まえると、当面は決済インフラの開放に留まるだろう。PayPalのようにオンライン決済の代行を行ったり、あるいは各種サービスでの支払い手段の1つとしてiTunesのアカウントを指定できたりと、支払い情報をサービスごとに分散せずに済み、さらにモバイル端末でクレジットカード情報の入力もしないで済むと、利便性の面が強調されるとみられる。

将来的には単一アプリがモバイルウォレットの役割を果たし、スマートフォンの操作だけで多くの商店やサービスで買い物が可能になる、といった使い方が提案されるようになるかもしれない。その際、前述のiBeaconやバイオメトリクス認証などが利用される可能性がある。