既報の通り、今年のCESでNVIDIAは新たなモバイルプロセッサの「Tegra K1」を発表した。昨年のCESで発表した「Tegra 4」に続く製品となるが、グラフィックスコアが刷新されてPCと同じ"Kepler"アーキテクチャが採用されたほか、32bit版に加え、独自コア"Denver"を用いる64bit版が用意されるなど、名実ともにモバイルの世界にPCのパフォーマンスをもたらそうとする製品となっている。

PC/GeForceとモバイル/TegraのGPUアーキテクチャではできることに大きく差があったが、Kepler採用のTegra K1によってこの境界をなくした

NVIDIAでは、Tegra K1を「192コアのスーパーチップ」と称している。ここで言う192のコアとはGPU、具体的にはCUDAコアの数を差している。Tegra 4のスペックではバーテックスシェーダ24基、ピクセルシェーダ48基の計72基をGPUコア数としていたので、コア数だけでも2.6倍以上のスペックアップに相当するわけだが、CUDAコアは処理に応じてコアの役割を動的に割り当てられる統合型シェーダなので、Tegra K1ではGPU全体の稼働効率も高くなっており、さらなるスペックアップが期待できる。

Tegra K1の32bit版は、最大2.3GHzで動作するARM Cortex-A15コアをCPU部分に採用。詳細はまだ明らかにされていないものの、「4-Plus-1」の構成を採るとされており、Tegra 3および4で採用されていた、4つの高性能コアと1つの省電力コアを組み合わせたものになっていると考えられる。

もうひとつの64bit版は、「Denver」のコードネームで呼ばれていたNVIDIAの独自コアを採用。ARMアーキテクチャを64bitに拡張した「ARMv8」アーキテクチャと互換性のあるCPUコア(同じアーキテクチャをサポートするCPUとしてはAppleのA7チップがある)だが、NVIDIAによれば、シングルスレッドおよびマルチスレッド両方の性能が高いのが特徴という。Tegra K1はこのDenverコアを2基搭載しており、動作周波数は最大2.5GHz。32bit版とピン互換になっており、同一設計で32bit、64bit両方の製品を実現できる。実際には、モバイル機器ではPCのようにCPUのみ異なる多数の機種を投入するという例はあまりないため、製品を販売する市場のニーズやコスト要求に応じて32/64bitを選択したり、技術動向を見ながら任意のタイミングで32/64bitをスイッチできるといった点がメリットになるのだろう。

Denverコアを搭載する64bit版Tegra K1のダイイメージ

Xbox 360やPlayStation 3を上回るスペック

NVIDIAでは、これまでもモバイルプロセッサとしては高いグラフィックス性能を有していることをTegraシリーズの長所としてアピールしていたが、Tegra搭載デバイスに最適化したアプリケーションをソフトウェアベンダー各社が開発するモチベーションにつながっていたかというと、いまひとつ盛り上がりに欠ける状態が続いていた。これに対して今回のTegra K1では、PCと同じアーキテクチャを採用し、OpenGL 4.4やDirectX 11といったメジャーなAPIをフルサポートすることで、グラフィック描画エンジンや物理演算エンジンといった、ゲームの核となるプログラムを共用ないし比較的軽微な変更で流用可能となっている。

顔の表面をリアルタイムでレンダリングするデモの「Ira」。画面右半分がTegra K1の能力をフルに引き出した状態だが、瞳の内側の光なども精密に表現されている

CESに合わせて行われた発表会で、NVIDIA社長兼CEOのJen-Hsun Huang氏は「Tegra K1はモバイルコンピューティングを、デスクトップコンピューティング、スーパーコンピューティングと同じレベルに引き上げる」と宣言し、その結果得られるメリットとして、ソフトウェアベンダーはコストを最小限に抑えながら、より多くのユーザーにゲームを届けることができるようになると説明した。

「従来は例えば(PC向けの)OpenGL 4.3と(組み込み・モバイル向けの)OpenGL ES 3.0ではできることが大きく違っていたが、それらが単一のアーキテクチャになることで、財務リスクを減らしながらより大きなフットプリントにリーチできるようになる」とHuang氏は話し、ゲームの表現がより映画的になり制作コストが肥大化する中、PC向けに開発したゲームをモバイル機にも容易に展開できるようになれば、制作費用の回収などビジネス面で大きなアドバンテージがあるとアピールした。「Tegra 5」でなく「Tegra K1」と名付けたのも、PC向け製品と同じKeplerアーキテクチャを採用した製品であることを明示するためという。

スペックの比較としては、家庭用ゲーム機のXbox 360やPlayStation 3がDirectX 9世代相当のグラフィックスを100Wの消費電力で実現しているのに対し、Tegra K1はわずか5WでDirectX 11をサポートしそれらよりも高い性能を実現するとしたほか、ベンチマークソフト(GFXBench 3.0 GL Gold, Manhattan)で測定したパフォーマンスは、Apple A7の2.5倍以上としている。NVIDIAの報道発表資料では、QualcommのSnapdragon 800やApple A7といった、ライバルとなる高性能モバイルプロセッサに比較して、Tegra K1は1.5倍の電力効率を実現したとしている。

Xbox 360やPS3といった従来の家庭用ゲーム機を上回るスペックを、わずか5Wの消費電力で実現する。ただし、5Wという数字はノートPCやタブレットには魅力的だが、スマートフォンにそのまま適用するには大きいことには注意する必要がある