発売以来、50年以上の長きにわたり同じデザインで販売されている「キッコーマンしょうゆ卓上びん」。長年変わることなく、全国の食卓で使われているこのパッケージにこめられたデザインの工夫について、キッコーマン株式会社 コーポレートコミュニケーション部の担当者に聞きました。

キッコーマンしょうゆ卓上びん

――最初に、輸送用に必要な容量の大きなびんだけでなく、家庭でそのまま使える卓上のびんを生産することになった経緯を教えてください。

弊社では、1955年(昭和20年)に1リットルびん詰のしょうゆを発売しましたが、発売以後、これよりもさらに少容量の容器を希望する声が高まってきました。

当時のご家庭では、買ってきたしょうゆを小さなしょうゆ差しに移し替えて使っていたのですが、注ぐたびにしょうゆが垂れ、容器やテーブルを汚してしまっていました。そこで、買ってそのまま卓上で、しかも快適に使える少容量の容器を開発することになりました。

――「キッコーマンしょうゆ卓上びん」をデザインした人物は?

株式会社GKインダストリアルデザイン研究所の栄久庵憲司さんです。

――栄久庵憲司さんは今やプロダクトデザインの大家として知られていますが、同氏が率いるGKデザイングループは1952年(昭和27年)に設立されており、その当時はまだ新しいデザイン事務所であったと思います。栄久庵憲司氏にデザインを依頼したいきさつを教えてください。

当時の担当者が、当初より容器メーカーではなくデザイナーの方に開発を依頼することを決定しておりました。その上で、何人かのデザイナーを訪ねた結果、栄久庵憲司さんにお願いすることになりました。

――この卓上びんのデザインで最も工夫された点はどこにあるのでしょうか?

注ぎ口の形状です。この容器は「液だれを起こさない卓上びん」を目指して開発が進められていたのですが、注ぎ口の模型を多く試作しても、なかなかその課題は解決しませんでした。しかし、注ぎ口の上部よりも下部を短くしたところ、液だれがなくキレもよくなったことから、この形状が採用されています。

――卓上びんのキャップの色を赤にした理由をお教えください。

しょうゆの赤褐色とのコントラストが美しく見えるようにするためです。

――素材にガラスを採用しているのはなぜですか?

ガラスは透明なのでしょうゆの残量も一目でわかり、かつしょうゆの色を美しく見せることもできます。また、しょうゆとキャップの間にできる空白の美しさを演出するためでもあります。

注ぎ口の上部よりも下部の方が短くなっており、この形を採用したことで、しょうゆを注ぐ際の液だれが解消されたという

しょうゆとキャップの間にできる"空白の美"も考えてデザインされている

――50年以上デザイン変更がなされていないのは、それだけ長年にわたり愛されている結果だと思います。その一方で、発売当時と現在で比較した際に、受け入れられている地域や用途などに変化はありましたでしょうか?

詳細なデータは公開していないのですが、1961年(昭和36年)の販売以来、今日に至るまで国内外で累計で4億本以上を販売しています。

――では、これまで50年以上変わらぬデザインが踏襲されてきた「キッコーマンしょうゆ卓上びん」のデザイン変更が検討されたことはあったのでしょうか?また、今後デザインを変更されるご予定はありますか?

何度かデザインの変更を検討したようですが、「変更のしようがなかった」と栄久庵さんがおっしゃったそうです。それだけ完成されたデザインであったということがわかります。現在のところは、デザインを変更する予定はございません。

――最後に、長らく日本や世界の食卓で使われてきたこの卓上びんのデザインの工夫について「ここはぜひあらためて見てみてほしい」という部分を教えてください。

卓上びんの首の部分を持ってしょうゆを注ぐ時、特に女性の手の大きさだと小指が上がり、美しい手の形になります。置いた時のデザインとしてだけではなく、しょうゆ差しとして「使う」時にも美しくあることに配慮したデザインであることを、改めて感じていただければ、と思います。

――ありがとうございました。