通信システム用の基板やハイエンドのサーバ機器用の基板を設計する際には、必ず階層的なアプローチをとります。最初に行うのは、CPUやフレーマー、NPU(Network Processing Unit)、FPGA、プロトコル・スイッチといった重要な構成要素のICを選定することです。続いてI/O用のデバイスとグルー・ロジック(通常はFPGAで実現)を選定します。そして、最後に選定するのがクロックと電源です。従来、基板の設計者は、主要な構成要素の選定と接続、言い換えれば主に基板のアーキテクチャの設計を担当していました。

その状況は、OTN(Optical Transport Network:光伝送ネットワーク)のような複数のプロトコルに対応する、より高速なI/Oインタフェースが登場したことで変化しました。クロック・ツリーの設計が急激に複雑になったのです。例えば、その時点で回線上で使われているプロトコルによっては、異なるクロック周波数が復号に必要になるケースがあります。また、多くの場合、I/Oインタフェース上でのデータのアンダーランやオーバーランを防ぐために、クロック周波数を動的に変更することが求められます。

それだけでなく、I/Oインタフェースに対して求められる速度と性能を実現するには、周波数領域でのクロックの精度を大きく高める必要があります。ということは、デジタル技術を専門とする基板設計者も、フーリエ変換やボード線図など、アナログ設計で用いられるあらゆるツールの使用方法を習得しなければならないのでしょうか。

幸いなことに、そのような状況を回避することを目的とした手段がいくつか提供されています。主にデジタル技術を専門とする基板設計者であっても、基礎から学習を始めることなく、必要なクロック生成が行えるよう支援するツールが存在するのです。今回は、IDTなどが提供しているツールの紹介を交えて、昨今のクロック・ツリー設計においてポイントになる事柄を説明します。

現代の基板設計が抱えるさまざまな課題

基板の設計は非常に大変な仕事です。完全な回路図を作成し、それを実装するために必要なすべての作業を行うには、互いに競合する多数の要件に対して適切な妥協点を見つけ出すことが必要になります。以下に具体例を挙げましょう。

  • マーケティング・チームは、ケネディ宇宙センターにあるスペースシャトルの組立棟にさえ納まるかどうかというほど巨大な機能の集合を要求している。それに対し、機械設計チームが基板用に用意したのは、企業のロゴの真裏に位置するマッチ箱ほどの小さなスペースだった
  • CTO(最高技術責任者)のオフィスは、先週SF映画で観た技術を実現しようと提案しているが、購買チームは、真空管の3/4ほどの長さしかない「承認済み部品リスト」にすでに掲載されている部品しか使用してはならないと主張している
  • ソフトウェアのチームは、開発済みコードの移植作業が発生することを理由に、新たなプロセッサについての検討を拒否している。それにもかかわらず、RAMの容量については前世代の設計の8倍にしたいと要求しており、さもなければ性能の問題が生じるのではないかと懸念している
  • 電源のチームは、200Wの電力の増量を何とか実現してくれたが、120VACでしか供給してくれない。必要な電圧に変換しようとすると、電源側ではなく、基板設計側で熱に関する要件を満たすことができない
  • 熱に対する要件としては、前世代の設計よりも20%低減するよう求められている。しかし、エアフローの温度が、基板に達した時点ですでに75℃に達している

このような状況に対処し、やっとの思いで関係者全員の合意を得た物理層のチップのデータシートに目を通すことになります。そして、リファレンス・クロックの仕様が定義された3ページにわたる表を確認します。そのリファレンス・クロックの仕様には、周波数に加え、おそらくはデューティ・サイクルも記載されているでしょう。

ここまでで作業は完了のはずです。そうでなければ困ります。何しろクロック・ツリーに関するあらゆる選択/追加のために上司から与えられた時間は、回路図の最終レビューの直前のわずか2日間だけだったのですから。

基板設計者のほとんどが知っているとおり、もはやクロック・デバイスの選定が容易であることはまずありません。ただ、タイミング製品を提供している主要な企業は、顧客が抱えるこの問題について強く認識しています。そして、アナログ設計の博士号を持っていない人でもクロック・ツリーを素早く完成できるように支援するツールを提供しています。

以下では、クロック・デバイスの選定方法とデザイン・インにおいて対処すべきいくつかの問題を取り上げます。そのうえで、それぞれの作業に対して提供されているサポートについて説明します。

基板において、クロックの役割は、アーキテクチャの各構成要素が求める要件を満たすためのサービス機能を提供することです。そのため、基板設計のフローにおいて、各構成要素が選定されるまではクロックの仕様のすべてを確定することはできません。一部の複雑な通信システムでは、アーキテクチャの設計段階でネットワークにおける同期といった一部のタイミング要件に対処することにも注意が必要です。

構成要素を選択したら、消費電力、基板の面積、エアフローの要件に対処することが基板設計者の役割になります。また、コネクタやフェースプレート・スイッチ、LEDなど、慎重な配置が求められる部品の追加も行います。ここまでの作業を終えると、多くの場合、グルー・ロジック、電源、クロックなどの部品用の基板面積や、許容される消費電力、コストはほとんど残っていないでしょう。