スーパーコンピューターに代表されるHPC(High Perform ance Computing)の世界で成功を収めてきたSGI。その高い技術力を生かし、現在はビッグデータ市場にも注力している。実際、同社におけるHPC 事業の成長率が7~8%なのに対し、ビッグデータ事業の成長率は25%~40%にも及ぶという。そんな新たな展開を見せる同社のグローバルマーケティング戦略について、米国SGIのシニアバイスプレジデント兼CMO(最高マーケティング責任者)のボブ・ブラハム氏に話を聞いた。

世界で成果を上げる"日本発"の産業別特化型セールスチーム

CMO(最高マーケティング責任者)のボブ・ブラハム氏

まず、SGIのマーケティング戦略の1つ目の柱となるのが、長年にわたってHPCの分野で築いてきた実績のある市場での垂直展開だ。ブラハム氏は、世界、そして日本で注力していく市場として、メディア、製造業、大学やその他の研究機関、そして政府機関を挙げる。 「これらの市場では、我々の製品は知名度も高く、かなりの信頼性とともに受け入れられています。そういう顧客企業の人々からは、『ぜひ一緒に仕事をしたい』とも言ってもらえます。そこで、我々が強みを持つ垂直市場に関しては、それぞれの産業別に特化したセールスチームを構成して重点的に販売そして提案活動を展開しています」(ブラハム氏) セールスチームのスタッフは、誰もが高い専門性を有しており、またそれぞれの市場に特有の事情を理解している。また、そんなセールスチームの他に、ドメインスペシャリストと呼ばれる各産業分野の専門家もヘッドクォーターに配置しており、世界中のセールスチームのベストプラクティスをドメインスペシャリストを通じて共有することで、新たな知見を得てビジネスに生かせる体制を整えているのだという。

「このような体制により、1つの成功体験から新たな顧客を増やしていけるようになった。産業別に特化した活動を集中して実施するようになってからわずか9ヶ月という早い段階で目覚ましい結果が表れている。フォーカスした産業での売上が急激に伸びているのだ。実は、こうしたマーケティング活動をリードしているのは、他でもない日本のメンバーである」とブラハム氏は強調する。

産業別に特化したセールスチームを設置することになったきっかけの1つは、これまで日本SGIがソリューションセールスに注力していたことにあるという。顧客にソリューションを売り込もうとすると、自然に産業ごとのソリューションを提案して構築することになり、それがビジネス課題を抱える顧客から高く評価されることへとつながっているのである。

顧客への価値提供を目指した技術でストレージコストを10分の1に

SGIが描くマーケティング戦略のもう1つの柱となるのが、“3つのC”へのフォーカスだ。3つのCとは、「Customer(顧客)」、「Company(企業)」、「Compettiter(Competitor)」を指している。

まずCustomerについては、外部的な要因により大きな変化に対する決断を迫られている顧客に対し、積極的にソリューションを提供していくという。外部的な要因とは、モバイルやソーシャルメディアの活用やクラウドへの移行などだ。他にも、ソフトウェア、ハードウェアともにベンダーが大きな変更を行った際には、顧客も対応に迫られることになる。 次のCompanyに関しては、SGIのDNAに焦点を当てつつ、パートナーとの協業により力を入れていくという。

「当社のソリューションに、パートナーのハードウェアや、ソフトウェア、サービスをどう組み込んでいくかというところに注力している。他社のエコシステムのプラグインを盛り込むこともある。我々だけでビジネスができるわけではないので、優れた頭脳を取り入れるなど、中小から大企業まであらゆるパートナーと協業してお互いの成功を目指していく」

かつてのSGIは、占有技術に基いてビジネスを展開することにこだわっていた。例えばマイクロプロセッサも自社開発が基本だった。それが現在では、インテルのプロセッサを搭載し、OSもLinuxを採用するなど、標準化技術を取り入れたうえで、革新的なテクノロジーを展開することに成功しているのである。

最後のCompettiterでは、従来のようにプロセッサの性能など“数字”にこだわるのではなく、どれだけ独自のポジションを築いて顧客にとって価値のあるソリューションを提供できるかにこだわっていくという。例えば、SGIが提供しているストレージソリューション「SGI InfiniteStorage」は、競合他社の製品と比べてコストを実に10%にまで削減することができるという。HPCも他社製品の半分のコストに、そしてHadoopの導入では本番稼働までたった1日で完了させるなど、顧客にとっての大きな価値を提供しているのである。

ちなみにSGI InfiniteStorage Gatewayは、データのライフサイクル管理の視点から、アクセス頻度などに応じてストレージを選択することができ、その結果、システム全体のコスト削減や省エネルギーを実現するというエンタープライズ、データセンター向けの専用アプライアンス製品だ。使用頻度の少ないデータは自動的により低コストなストレージメディアに移しつつ、SGIの独自技術によってデータへのアクセスは迅速に行うことができるようになっている。例えば、テープメディアに保存されたデータの検索には、通常であれば2日から2週間も要するが、SGI InfiniteStorage Gatewayであればたったの1、2分で検索ができてしまうのである。

SGI InfiniteStorage Gatewayによるデータ管理の仮想化

「SGI InfiniteStorage Gatewayが顧客に提供する価値は、データの効率的な移行とストレージコストの削減だけではない。データの移行は自動的に行われてインデックス化までされるので、データ管理に要する労力とコストまで削減できるのだ」とブラハム氏は言う。

ビッグデータ市場での勝利を目指したパートナー戦略

こうしたマーケティング戦略に基づき、SGIでは今後ビッグデータ市場でのビジネスを加速していく構えだ。同社では、ビッグデータ市場の「プレイヤー」を「スタックプレイヤー」「プラットフォームプレイヤー」「ポイントソリューションプレイヤー」という3つのタイプに分類しており、SGIが属するのはこのうち2つ目のプラットフォームプレイヤーとしている。

スタックプレイヤーというのは、サーバー、ストレージ、ネットワーク、ソフトウェアといった、ビッグデータのあらゆるレイヤを自社だけで網羅しようと考えているベンダーである。ブラハム氏は、IBMやHP、オラクルなどが相当するとしている。

これに対してSGIが含まれるプラットフォームプレイヤーは、ビッグデータにおけるプラットフォーム部分のソリューションの提供にフォーカスするベンダーである。これはSGIの他、EMC、デルなども含まれるという。

「プラットフォームプレイヤーとして我々が目指しているのは、ハイエンドの市場だ。全体の中で10%に過ぎない規模かもしれないが、今後の著しい成長が見込める分野でもある。そこでは、より高性能なプラットフォームが必要とされることだろう」(ブラハム氏) そして3つ目のポイントソリューションプレイヤーというのは、インフラ、ネットワーク、ストレージサービス、ソフトウェアなどのレイヤのうちのいずれか、もしくは2つか3つに強みを持っているソフトウェアベンダーを指す。MarkLogicやCloudera、SAP、Red Hat、SUSEなどがこれに該当するという。

「我々が勝利をものにできるかどうかは、この第三のカテゴリのプレイヤーであるポイントソリューションプレイヤーと、いかにうまくタッグを組めるかどうかにある。来年から再来年にかけては、このような戦略に基づいた新たなパートナーの発表もあることだろう。スタックプレイヤーはどこも非常に強力だが、タッグによってお互いの強みを生かすことで勝利し続けていきたい」──ブラハム氏は強く訴えた。