コンピューター上で日本語入力を行うには、日本語IME(インプットメソッドエディター)が必要である。だが最近はIMEの存在が軽んじられている、と感じるのは筆者だけだろうか。確かにOSが標準搭載するIMEの変換精度は高まっているものの、単に「日本語を入力する」場面と、「文章を作成する」場面とでは、IMEに求める性能が大きく異なる。

図01 今回発表された「一太郎2014 徹」や「ATOK 2014」のパッケージ

そこで注目したいのが、長年ワードプロセッサーとIMEをリリースしてきたジャストシステムの存在だ。同社はほぼ例年、長い歴史を持つ日本語入力プログラム「ATOK」シリーズと日本語ワープロソフト「一太郎」シリーズを発表してきたが、今年もまた、2014年2月7日に発売する新製品(およびクラウドサービス強化)を発表した。

一太郎は高品質な日本語文書の作成能力をさらに高め、ATOKはタイプミスの軽減とマルチデバイスへの対応を強化したという。ここでは、既存ユーザーが新たなATOKにバージョンアップすべきか、また文章作成に携わるユーザーは新たに買い求めるべきかを主眼に、発表会のレポートをお送りする(図01)。新製品のラインナップと概要は、以下の別記事を参照いただきたい。

ジャストシステム、日本語表現にこだわった「一太郎2014 徹 (てつ)」
ジャストシステム、変換動作を高速化した「ATOK 2014 for Windows」
ジャストシステム、「ATOK Passport」にクラウド連携の推測変換機能

図02 一太郎2014 徹の機能解説を行ったジャストシステムの大野統巳氏

ここ数年の一太郎は、アプリケーションのイメージを表す一文字を製品名に採用してきたが、今年の一太郎は「徹(てつ)」を採用。製品説明を行った同社コンシューマ事業部企画部の大野統巳氏は、「『徹』という漢字は、徹底するなど最後まで物事をやりとおす、といった意味を持っているが、今回は一太郎の機能をブラッシュアップし、さらなる高品質な文書作成を目指して名付けた」と述べている(図02)。

同氏が説明したように「一太郎2014 徹」は、適切な日本語文字表現を実現するため、Unicode上で異体字などを扱うための「IVS」(Ideographic Variation Sequence)に対応。日本各地の地名や人名に用いられる異体字の表現を拡充し、扱える文字数を約13,000字から約58,000字にまで広げている。さらにIPA(情報処理推進機構)の協力を経て、IPAが作成した「IPAmj明朝フォント」を標準搭載した。

その結果、Word 2013など異なるIVS対応アプリケーションへのコピー&ペースト時も、字形が保持されるという。これは一太郎2014 徹が文字コードレベルで表現可能になったためだ。なお、IVS未対応フォントを用いる場合はその限りではない(図03~04)。

図03 ISV未対応フォントを用いている場合、字形が変化してしまう

図04 ISV異体字対応環境であれば、異なるアプリケーションでも再現が可能

この他にも罫線作成機能の強化や、文書のバックアップ回数を500回に増やすといった新機能を備えているが、注目は電子書籍作成機能の強化である。既に以前の一太郎シリーズでも電子書籍作成に対応してきたが、新たに複数の電子書籍用レイアウトを追加し、EPUB形式の奥付作成や目次設定、さらなるデザインの強化などが図られた。また、Kindle(mobi)形式で出力する際は中間EPUBファイルが作成可能といったように、さまざまな用途に用いることができるという(図05~06)。

図05 電子書籍向けのレイアウトを多数用意することで、本格的な電子書籍を手軽に作成可能になるという

図06 一太郎2014 徹における電子書籍作成機能の強化ポイント

さらに上位エディションの「一太郎2014 徹 プレミアム」には、字遊工房フォントの収録など特徴的なポイントもあるが、ここからはもう一方の新ATOKに注目したい(一太郎シリーズのラインナップは機会があれば詳しく触れたい)。同社の井内有美氏は新ATOKを開発するにあたり、「Windows版で先行導入した技術を他のプラットフォームに展開し、特性が異なるデバイスでも快適な入力環境の実現を目指した」という。

「ATOK 2014 for Windows」はハードウェアスペックを事前に調査し、自動的に最適な設定を用いることで、変換動作や変換候補表示などを高速化する「アクセルモード」を備えた(Windows版およびOS X版)。同社によると前バージョンであるATOK 2013と比較して、動作速度が最大で25%高速化したという(図07)。

図07 「ATOK 2014 for Windows」に搭載されるアクセスモード。最大25%の高速化につながるという

入力中の文字列から適切な言葉を推測する「推測変換エンジンの強化」も、新たな特徴の1つだ。例えば「消費税率」と入力する際に「そうひぜ」とタイプミスした場合も、正しく変換するための候補を列挙してくれる。同機能はカタカナにも適用され、例えば「デモンストレーション」を「でもすと」と入力した場合も、適切な候補を提示する。文章作成の大敵だった入力ミスによる誤字は、大幅に減らせるはずだ(図08)。

図08 推測変換エンジンを強化することで、入力をミスしても適切な変換候補が提示される

この他にも、IME無効時にローマ字入力などを行った際は、そのまま「Ctrl + Backspace」キーを押すことで変換状態にする機能や、外来語をより分かりやすい日本語へ変換提案する機能、桁数の多い数字を入力する際に桁数や区切りを自動入力するナビゲート機能も備わった。新たなATOKは、文章作成時における文字入力の補助が主な強化ポイントといえるだろう。なお、以前から省庁再編時の名称変更などに対応していた名称変更アシスト機能は、上場企業名にも対応した。新たなキーワードに対応するために、辞書のブラッシュアップも行ったという(図09~12)。

図09 IMEオフ時にそのままローマ字入力してしまうトラブルから回避する機能を搭載

図10 ショートカットキーを押すと、そのまま変換候補が列挙される

図11 そのままでは分かりにくい外来語を日本語へ変換提案する機能を新たに搭載

図12 桁数の多い数値を入力する際に補助情報を提示するナビゲート機能も加わった

新ATOKに関して興味深いのは、プラットフォームの制限をなくし、最大10台までのコンピューター上で最新のATOKを利用可能にする「ATOK Passport」の存在だ。以前からサブスクリプション型ライセンスとして提供していたが、パッケージ版の「ATOK 2014 for Windows ベーシック」は300円/月のATOK Passport、同じくパッケージ版の「ATOK 2014 for Windows プレミアム」は500円/月の「ATOK Passport プレミアム」の、1年間利用権が付属してくる。

これまでと同様に、300円/月のATOK Passportは、ATOKの設定やユーザー辞書を異なる環境で共有する「ATOK Syncアドバンス」、最新キーワードを辞書として利用できる「ATOKキーワードExpress」などが利用可能だ。そして上位版となる500円/月のATOK Passport プレミアムでは、Windows版相当の機能をAndroid上で実現する「ATOK for Android Professional」の提供や、Web上で文章校正を行う「ATOKクラウド文書校正」機能を提供する予定だという(図13~14)。

図13 パッケージ版にも付加するATOK Passportプレミアムユーザーは、「ATOK for Android Professional」が利用可能になる

図14 同プレミアムユーザー向けサービスの「ATOKクラウド文書校正」。同サービスのローンチ時期は未定だ

ラインナップ構成や機能差が複雑化した印象を受ける新ATOKだが、同社Webページで「常に最新のATOKが利用可能」とアピールしているように、従来のパッケージ版ではなく、サブスクリプション型を推し進めているのは明らかだ。ATOKシリーズが備える魅力の1つに電子辞書検索機能があるが(入力中にショートカットキーを使って電子辞書を引ける)、同プレミアムユーザー向けには、クラウドから辞書検索を行う「ATOKクラウド辞典サービス」も提供される。大辞林を始め、多彩かつ詳細な辞書をクラウド上に用意し、ローカル辞書のような感覚で辞書引きが可能だ。

筆者は以前から、ストレスフリーで文章を作成したいユーザーにATOKを薦めてきた。今回の新ATOKでも姿勢は変わらないが、例年購入してきたパッケージ版(もしくはダウンロード版)は今回を最後とし、ATOK Passportに移行した方が、ATOKユーザーには一番適切な選択肢と言えるだろう。

阿久津良和(Cactus)