油かすは、焼きそばや煮物、炒め物の具材としてよく用いられる

関西では比較的そばよりもうどんが好まれていると言われている。実際、最もポピュラーなうどんメニューのひとつ「きつねうどん」は大阪が発祥であるわけだが、もうひとつ、大阪で生まれて全国的に広がりつつあるうどんメニューが存在する。

それが「かすうどん」だ。かすうどんの「かす」とは天かすでもなければ、もちろん酒粕でもなく、「油かす」のことである。

南河内地方の郷土食材「油かす」

「油かす」とは、牛の小腸(ホルモン)を細かく刻み、油でじっくりと揚げ、水分や余分な脂分を飛ばしたもので、高タンパク・低脂肪・コラーゲンたっぷりの食材だ。大阪府の南河内地方では昔から一般的に食べられており、うどんのトッピングとして用いられたりもしていた。

元祖かすうどん、今では20種以上がそろう

かすうどんが知られる発端となった「KASUYA藤井寺本店」

この油かすを具材としたうどんを「かすうどん」として確立し、メインメニューとしたのが、大阪府藤井寺市で1995年にオープンした「加寿屋(KASUYA)」である。大阪の河内地方出身者である社長が、今までにないうどん屋をオープンさせようと計画した際、油かすに着目したのが発端だ。

油かすから出る肉のうま味が加わったダシ汁はコクと甘みがあって、独特の香ばしい風味が特徴。麺はコシのある讃岐風ではなく、関西風の柔らかうどん。細かく刻まれた油かすは、外がカリカリとしていて噛むとスルメのような歯ごたえがあるので、この柔らかい麺がよく合っているのだ。

かすうどんは瞬く間に人気に火がつき、藤井寺のお店が成功した加寿屋(KASUYA)はその後店舗数を拡大。現在、大阪市内の法善寺店や四天王寺店をはじめ、大阪府下・府外も含め計10店舗を展開している。今は、基本の「かすうどん(600円)」のほか、きつねうどんや月見うどんを始め、キムチうどんや牛すじうどんといった新作メニューまで、20種類以上のメニューが用意されている。もちろん全てベースは油かす入りのかすうどんである。

ダシが染みた油かすと、油かすの香ばしさが混じったダシ汁が絶妙な味となる「かすうどん(600円)」(KASUYA四天王寺店)

●information
KASUYA 藤井寺本店
大阪府藤井寺市沢田1-28-1

かすうどんは東京でも拡大中

心斎橋アメリカ村界隈から北西へ700mほどのところにある「かすうどん山本」。かすうどんは600円

加寿屋(KASUYA)のほかでは、大阪市西区にある「かすうどん山本」や、大阪府池田市の「かすうどん かすまる」、大阪府豊中市の「かすうどん山本」といったお店が人気を博している。

●information
かすうどん山本
大阪市西区新町1-29-8

かすうどん かすまる
大阪府池田市槻木町7-11

かすうどん専門店 かすとろ
大阪府豊中市曽根東町1-2-4

また、かすうどんのおいしさは東京でも広まりつつあり、北海道ススキノの人気店「かすうどん 風土」の新宿店や、中野新橋の「かすうどん てっちゃん」など、都内でもかすうどんを味わえるお店が増えている。

●information
かすうどん 風土 新宿店
新宿区歌舞伎町1-17-7 JAビルB1F

かすうどん てっちゃん
中野区弥生町1-54-11

飲んだ後のシメはかすうどんで

ここに挙げたかすうどんのお店は全て、深夜2時や翌朝6時まで営業している。したがって、これらのお店は昼食時などだけではなく、飲んだ後のシメの夜食を求める客でにぎわっている。通常、飲み帰りのシメや夜食といえばラーメンをイメージするだろう。それに比べ、関西発祥のうどんとなると、特に東日本の人には「ちょっと薄味で物足りないのでは?」と思われるかもしれない。

しかし、かすうどんは先述の通り、油かすから染み出すエキスによってダシ汁にしっかりとしたコクがあり、ラーメン派の人や、東日本の人にも受け入れられやすいうどんとなっている。しかも、ラーメンほどの脂っこさは感じず、麺も消化にいいうどんなので胃にも優しい。

こうした点が、飲み帰りの人や、女性に受けているようである。今後ますます、飲んだ後のシメとしてラーメンではなく、かすうどんが全国的に注目されていくかもしれない。