人気漫画『カイジ』(作者・福本伸行氏)を読み解きながらマネーリテラシーを身に付けられるとして人気を博した木暮太一氏の著書『カイジ「命より重い!」お金の話』(サンマーク出版、定価1,500円+税)。その続編である『カイジ「勝つべくして勝つ!」働き方の話』では、ブラック企業やワークライフバランス、給料など、働く上で知っておきたい話がメインテーマとなっている。

今回は、著書の内容に絡めてブラック企業についてお話を伺った。厚労省が「若者を使い捨てにする、いわゆるブラック企業」として取り締まりを強化するなど、何かと話題のブラック企業。なぜ若者は使い捨てにされてしまうのだろうか?

カイジの世界とリンクさせながら、働き方について論じる

--ブラック企業であったり、ワークライフバランスであったりについて書かれるということですが…

「働き方」「生き方」「お金」の話というのは三位一体で、1つを切り離しても意味がない、という風に思っています。前作(『カイジ「命より重い!」お金の話』)はお金の方に寄った内容なので、働き方と生き方をメインに、お金の話も少し入れながら、3つをバランスよく考えていきましょう…というのが今回の本になります。

--カイジの世界とリンクさせていくんですか?

そうですね、カイジは働いていないんですが(笑)。 例えば利根川の「勝ちもせず生きようとすることが そもそも論外なのだ」というセリフがありまして、資本主義社会で言えば「その通り」なんですよね。『カイジ』はギャンブルの話ですが、「勝つ」とは我々の仕事の中で何に当たるか考えると、「成果を残す」「認められる」ということでしょう。いかに働くべきか、どんな仕事を選ぶべきか、それが自分の人生にどうはねかえってくるか、ということを学べると思います。

--仕事の中の勝ち負けで言うと「ブラック企業に入ってしまった」というのは負けに当たるのでしょうか?

ブラック企業の程度にもよるとは思います。少し前に「働いたら負け」という言葉がはやりましたね。そう言っている人たちから見ると、あらゆる企業がブラック企業に映ってしまうと思うんです。でも、そうではないでしょう。資本主義においては、会社のために利益貢献をすることが「働く」ということ。「働いた分だけお金がもらえない」って、当たり前のことなんですね。成果をすべてもらえるなら、経営者は自分で働いた方が早い。例えば100の成果を残したら10くらいもらえるのがそもそものルールなので、そこに対して会社が認めてくれないと言うのは筋違いかなと思います。

それとは別に、本当のブラック企業が世の中には存在します。ただ、入るのを決めたのは誰かと言うと、本人でしょう。自分を守る責任を果たせなかった、ということなのかと思います。もちろん社会的にブラック企業を減らしていくような取り組みがあってしかるべきですし、政府も対応していくべきだと思います。でも、みんながそこに入るわけではない。入ってしまった方、入らなかった方の違いは何なのか、考えないと先に進めないと思うんです。

なぜブラック企業を辞められないのか?

木暮太一(こぐれたいち)さん。経済入門書作家、経済ジャーナリスト。慶應義塾大学経済学部を卒業後、富士フイルム、サイバーエージェント、リクルートを経て独立。学生時代から難しいことを簡単に説明することに定評があり、著書に『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』(星海社新書)、『今までで一番やさしい経済の教科書』(ダイヤモンド社)など多数

--木暮さんの考える「ブラック企業」の定義はありますか?

僕の中での定義は「法律を守らない」「従業員との約束を守らない」の2点です。それ以外に関しては双方の責任かなと思います。世の中の論調で見ていると、いやなことがあるとすぐに「ブラック企業だ!」と言っていますよね。面白がっているならいいのですが、もしかして本気で思ってるのでは…というところもあるんですよね。それは、ルールを勘違いしています。

日本の企業の給料は、その人が明日も働くためにいくら必要かということで成り立っています。食費や住居費など、従業員が明日も仕事にきてくれるためにいろんな経費がかかる、そのためのお金を給料として渡している…というのが、日本の企業の考え方なんです。必然的に労働者が生きていける分しかお金をもらっていない、というのが今の日本の企業なんです。

--どうして、ブラック企業に入ってしまうんでしょうか? 事前に避けられれば、とも思いますが…

なぜブラック企業に入ってしまうのか、というのは投資の考え方とも似ています。「ここに入ったらいいことがありそうだ」と判断して賭けるわけですよね。それをなぜ外してしまうかというと、表面的な「良いこと」ばかりに目を向けて、リスクを考えていないのではないでしょうか。リターンが高ければ当然リスクも高くなりますから、給料が高い会社があれば、当然その裏にリスクがあります。そもそも、そのリスクも見えていないのであれば、「何も考えずに100万で株を買いました」と言うのと、一緒なんですよね。

--もし入ったとしても、つらいならすぐに辞めた方が良いのかなと思いますが、追いつめられている人はたくさん出てきますね

会社に対する依存が高くなってしまうと、次に行けなくなってしまうんです。経済学でいうホールドアップ問題に似ていますが、状況が進むにつれて片方がどんどん有利になり、片方がどんどん不利になるという問題なんですね。会社に入り、2~3年たったとき、「自分の力が他で通用しないかもしれない」「この会社でしか使ってもらえない」という感覚に陥ると、何を言われても、もう従うしかありません。そうなると、企業側が有利になり、「どうせこいつらは辞められない」という状態になります。

でも、基本的には勘違いなんです。他で通用しないスキルなんて、本当はないんですよね。仮にその会社でしか使えないネットワークで仕事をしていても、ネットワークをつくる力は持っていたわけで、自分の中にある資産に気づけば状況は変わっていくと思います。

--自ら追い込んでしまうということでしょうか?

自分で他に広げないのが一番の問題です。ネットワークを築く力があれば、絶対に他で応用できるはずなんですが、努力をさぼっていると…。

--もったいないですね

でも、そこも含めて自分の責任です。自分が培った資産が何に役立つのか、やはり一生懸命考えなければいけません。誰かが指摘してくれるわけではない。カイジでも「 世間はお前らの母親ではない」という言葉が出てきます。言われてみれば当たり前のことですが、現実問題、誰かが何か言ってくれるまで待っている人たちは本当に多いんです。自分から攻めに転じていない、積極的に考えていないというのが原因だと思います。



本当は力をつけられるはずなのに、広げることができない…何とも、耳の痛い話でもある。次回は「ワークライフバランス」について引き続き木暮さんに話を伺う。