「長江商学院」(CKGSB)の経済学教授・李偉博士

中国で唯一教授の合議によって運営されている非営利のビジネススクール「長江商学院」(CKGSB)。2002年の北京本校設立以来、国際的なビジネススクールとして発展してきた同校では「エグゼクティブ教育」「金融MBA(FMBA)」「MBA」「エグゼクティブMBA(EMBA)」等のプログラムが用意されている。このほど来日した同校の経済学教授・李偉博士とグローバルマーケティング担当者に話を聞いた。

――長江商学院の学校としての特色を教えてください。

「長江商学院の特徴としてまず挙げられるのは、中国で初、なおかつ唯一の独立経営の学校であるということです。李嘉誠氏(長江実業グループ会長)の個人財団による寄付金によって設立されました。

開校以来一貫して特定の戦略にもとづいて運営されています。この戦略というのは、中国においてもあるいは国際的な観点から見ても非常にユニークといえると思います。私どもは、トップクラスに属するような方々に焦点をあてて、最高の人材をひきつけるようなプログラムを運営しております。それを実現するために、学校としての信用を勝ち取り、そのセグメントに属する中国人の興味をひきつけるような学校である必要があります。

そのためにはやはり国際的に著名な最高の教授陣を整える必要があります。長江商学院の教授は、中国で生まれ育ち中国に関する知識を有しているような人材であると同時に、学界で鍛え抜かれ、欧米のグローバルなビジネススクール業界トップの学校で10年から20年ほど教鞭をとったような人物です。

そのように非常に優れた教授を配置することによって、中国においても最高の生徒をひきつけることが可能になります。最高の生徒が入学すればさらにより多くの優れた教授を集めてくることが可能になるという仕組みです。この戦略がうまく回ることで発展してきております。

また、最高の教授陣を確保するために、私達の学校では米国スタイルのシステムをとっております。どのように学校を運営していったらいいのか、どのような形で教授を採用していったらいいのか、どのような形でカリキュラムを設定していったらいいのかという方向性につきましても米国流です。もともと教授陣の多くは欧米で教鞭をとっておりますので米国流には慣れておりますし、柔軟性が高く自由度が高いわけです。

そういった形で教授陣をリクルーティングし、学校のマーケットポジションが確立されエグゼクティブMBA(EMBA)における成功を発端にMBA、金融MBA(FMBA)へと事業を展開していくことが可能になったわけです。私どもは常にそれぞれに最高のプログラムを提供するべく尽力しております。入学していただいた生徒には非常にユニークな学習体験をしていただくと同時に、ユニークな学習環境下で学生同士あるいは業界の関係者と交流できるような環境を提供させていただいております。とりわけMBAとFMBAには交流の機会が多く設定されています」(李偉博士)

――ユニークな学習体験といいますと?

「教授陣はグローバルなあり方に造詣が深い」

「それは学校が所有するリソースに関係しています。もっとも重要なのは教授陣。彼らは中国の知識に精通しているだけではなく、欧米においてトレーニングを受け、なおかつ就労経験も豊富にある。グローバルなあり方に非常に造詣が深いです。そういう意味でも、純粋な米国におけるMBAプログラムや中国におけるMBAプログラムでは提供できないような独特の国際的な立ち位置から教えるという意味でユニークです。

2点目に重要な学校としてのリソースは卒業生です。そもそも長江商学院はトップクラスの生徒を集めてきておりますので、そういった卒業生と実際にやりとりできるということは生徒にとってもプラス材料ををもたらしますし、自分の将来のビジネスのチャンスを格段に高めるための助けとなると思います」(李偉博士)

――長江商学院におけるMBAプログラムの特徴、同校ならではの特色はありますか?

「一番の特徴として、ほかのMBAプログラムと異なる点を挙げるとすれば、中国と米国の両方の良さを兼ね備えていることでしょう。

学生たちは米国のMBAプログラムに入学することもできますし、中国の純粋なMBAプログラムに籍を置くこともできます。米国に行ったとすると、グローバルな実践については学ぶことができますが、中国についてはごくわずかしか履修できません。一方中国の純粋なMBAプログラムに入学すると、もちろん中国に関する知識は膨大に習うものの、やはり欧米やグローバルな実践については貧弱になってしまいます。

一方私どもの学校に入学いただければ、本当にバランスよく学ぶことができます。中国とグローバルなものの内容が非常にバランスのとれた形で学べます。私どもの教授陣は中国とグローバルなものの知識を広く持ち合わせているからです」(李偉博士)

「もう一つ特徴として挙げられるのは、長江商学院の教授陣は中国における民間セクターや起業家の方々とのつながりが非常に深いということです。グローバルな知識に長けた教授陣がグローバル化に関するトップクラスの知識を学生たちに教えることができるだけではなく、中国国内においても民間企業や起業家との関係から得た中国の知識を非常に深く広く伝授することが可能なのです。

もちろん中国のほかの学校でもMBAプログラムは提供されていますが、真の意味での国際的なビジネスとのつながりを提供できるのは私どもだけであるといえます」(グローバルマーケティング担当者)

――日本人が中国、あるいは長江商学院でMBAプログラムを学ぶ意味はどのようなところにありますか?

「中国を理解するためには中国に実際身を置いてみないと理解できない」

「今後も二国間における取り引きや投資は高まっていくと思います。そういった意味では日本人の方々に在籍していただければ、二国間におけるベンチャーがどんどん立ち上がっていく中で、管理職として責任を全うしていただけるスキルを身につけていただくことが可能になると考えています。

私どもの学校はもちろんグローバルな知識ならびに中国に関する知識を提供するだけではなく、中国における民間企業や起業家とのつながりも非常に深いわけで、そういった卒業生とつながっていただくことによって将来のキャリアの成長・形成の助けになるとかたく信じております」(李偉博士)

「多くの日系企業が中国を消費者市場としてとらえ、何年も前から中国市場に参入しています。しかし中国の市場を本当に理解せず、中国に関する知識を持たずにビジネスをされているようなところが非常に多いわけです。

ですから中国国内各地にキャンパスを持っている私どものところに来て学んでいただいて真に中国を理解し、知識を得ていただいた上でビジネスをしていただくと、格段に違うと思います。やはり中国を理解するためには中国に実際身を置いてみないと理解できないですし、人脈を含めた本当の意味でのつながりがなければ知識を得たといえません。

昨年の卒業生に大手コンサルティング会社から1年間留学されていた日本人学生がいたのですが、彼は日本人の学生を代表するとてもいい例だと思います。その卒業生は、現在ではお客さまに対して、中国でよりよいビジネスをするためにはどうしたらいいのかアドバイスをしています。卒業後はかなり責任の範囲も広がって大活躍のようです」(グローバルマーケティング担当者)

「若い方々に対して、私どもはユニークな知識が提供できる、それがもっとも差別化された他校と違うメリットだと思います。中国に関する非常に深い知識とコネクションがありますのでそういった中国向けのビジネスをしたいという方々に来ていただきたいと思います」(李偉博士)

――長江商学院の今後について教えてください。

「中国はいわばグローバル化の渦中にあります。そのような経済環境を超えていくため、我々の学校をさらに充実拡大させそれに貢献するプログラムを提供しようと考えています。

もちろん中国の企業だけではなく、中国の起業家たちもグローバル化を図るべくいろいろ努力をつんでおります。そういった意味では、私どもの学校では中国に関することだけではなくグローバル化に必要とされる知識も同時に提供させていただきますので、中国の中でも一歩先をいっていると自負しています。

北京のメインキャンパス以外にも、上海や深センにサテライトキャンパスがあるほか、すでにニューヨークや香港、ロンドンにおいて事務所をかまえておりますし、そこでプログラムも提供させていただいております。もし十分な需要が高まってくれば日本の東京においても同じような事業所をかまえたいと考えています」(李偉博士)

――中国ビジネスは今後どのようになっていくと思われますか?

「私はマクロ経済が専門でして、私のクラスに専門のマクロ経済に焦点をあてた授業を行っています。短期的な視野から見れば中国の経済は安定化すると思いますが、長期的に見ればさらに大きな潜在的な成長の可能性があると考えています。

そのような渦中にあって構造改革も進んでいきますし、構造改革が起こればさらに企業におけるさらに大きな変化がもたらされるので、その結果中国の市場全体に変化が起こり収入の度合いも高まっていくと思います。よって長期的に見ればさらに中国市場は成長していく余地が大いにあり、GDPの成長率においてはむこう10年から20年間においては引き続き7~8%が続くかと思います。

現在の中国は発展途上国で、先進国の仲間入りをしていませんし、一人あたりの収入のレベルも先進国並みには至っていません。ただし中国人は非常に向上心も強く起業家精神にも富んでいますし、一生懸命働きたいと誰しもが思っています。国が提供するシステムと富の配分が正しければ、どんどんのびる余地があると思います。

中国における現代のリーダーたちはアメリカンドリームにちなんで"チャイニーズドリーム"ということをうたっています。アメリカンドリームとは違ってチャイニーズドリームというのは中国の人々だけではなく、中国人たちといっしょに夢を見たいと思われる誰にでも提供される夢といった意味で使われています。

中国はさまざまな改革を経験しています。その中の一つの特徴は開放性だと思われます。長江商学院は、中国の企業とつながりをもつだけではなく外国人も正規職員として雇っております。多くの日系企業を中国に誘致するだけではなく、中国人以外の人材もどんどん招致していきたいと考えております」(李偉博士)