映像をチェックする千田健太選手(左)とオレグ・マツェイチュクコーチ(右)

9時半から開始する練習は毎日6時間以上

アスリートなら誰もが参加を夢見るだろう祭典・オリンピック。2か月ほど前、2020年の東京五輪開催決定に日本列島が沸いたのは記憶に新しいところだ。JISSでは、日本代表クラスの選手や、将来の五輪参加が見込めるジュニアアスリートが日々、練習に励んでいる。

実際のオリンピアンは、どのようにJISSで一日を過ごしているのだろうか。

ロンドン五輪フェンシング団体銀メダリスト・千田健太選手は、平時ならばJISS内の練習場にて9時半から3時間ほど練習する。そこから3時間ほど食事休憩や体のケアなどに時間を割(さ)き、16時ごろに高校生や大学生を相手に実戦練習。大体、19時前後に一日のスケジュールを終えるという。毎日6時間以上にも及ぶ過酷な練習は、大会直前になればさらにハードになるという。

練習中の千田選手

相手に攻撃を仕掛ける千田選手(奥)

激しいせめぎ合いだ

フェンシング日本代表は近年、国際大会において目覚しい飛躍を遂げている。2008年の北京五輪では、太田雄貴選手が男子フルーレ個人競技で、日本人初となる五輪メダル(銀メダル)を獲得。2012年のロンドン五輪でも、太田選手と千田選手はフルーレ団体で銀メダルを獲得している。

アナログだったスポーツ界もデジタル化の波

この躍進の裏には、千田選手に象徴されるような個々の選手の猛練習があるが、その他にも大きな役割を果たしたのがiPadなどの電子端末だ。バレーの全日本女子が、試合中にiPadを積極的に活用しているシーンを見たことがある人も多いのではないだろうか。

こういったITの活用は、五輪でのメダル獲得が期待できる選手や競技団体を支援する「チーム『ニッポン』マルチサポート事業」の一環として行われている。文部科学省や民間企業などが主導して行っており、各団体や日本代表選手はiPadなどのデバイスを積極的に活用している。

実際に、これらの電子端末はどれぐらい使われるようになっているのか。

ITデータなどを活用したスポーツマネジメントに詳しいCLIMB Factory代表取締役の馬渕浩幸さんは「アナログだったスポーツ世界もデジタル化が進んできています。ユーザー数の多さから、特にiPadを用いるケースが多いです」と話す。同社はソフトバンクテレコムから個人情報などのセキュリティ面でのシステム提供を受けており、同社が手がけるスポーツ現場のITソリューションサービスにおいて、ソフトバンクテレコムのサービスが中核を担っているのだという。

ルーティーンに組み込まれている映像チェック

フェンシングでは2008年より電子端末の活用をスタートしているが、現場の反応はどうだろうか。

フェンシング競技において、選手の試合時の映像をまとめ、専用の分析ソフトで選手の攻撃時のパターンや特徴を分析する日本スポーツ振興センターマルチサポート事業(パフォーマンス分析)の千葉洋平さんは、「選手は『こういう攻撃をしよう』と意思決定をする際に、映像を見たがることが多いです」と説明する。

練習場でiPadを携えて解説してくれる千葉さん

選手たちがいつ、どこでも見たいプレーやデータをチェックできるよう、編集した映像はクラウド上にアップ。「PKI認証」と呼ばれる、指定端末からのみのアクセスを許可する技術を通じ、選手や関係者だけが画像がチェックできるという。

では、選手はどのように電子端末を利用しているのだろうか。千田選手は「不調時には、好調時のフォームを映像でチェックします。大会直前などでは、自分がポイントを取ったプレーシーンをiPadでまとめて見ています。(電子端末は)ロンドン五輪でメダルが取れた大きな要因だと思います」と話す。

真剣な表情で映像をチェックする千田健太選手

フェンシングは選手によって様々なスタイルがあるが、相手の体のどこを突く傾向があるのかなど、細かなクセを持っているケースが多いという。その分析をする際に、電子端末での映像チェックは欠かせないという。

「僕は大会中、試合と試合の間の休憩で栄養補給、マッサージ、剣の補修、映像での相手の研究という4つのルーティーンを必ず行います。休憩時間の長さで多少変わりますが、相手の研究だけはどんなに休憩が短くても行います。(電子端末は)大一番こそ必要になりますね」(千田選手)。

11月には全日本選手権団体戦、来年1月にはワールドカップが控えている千田選手。今後のさらなる活躍が楽しみだ。