10月7日、ドワンゴと日本将棋連盟は東京・六本木のニコファーレにて「第3回将棋電王戦」の出場棋士発表会開催した。

ついに出そろった5人のプロ棋士代表

「将棋電王戦」は、将棋のプロ棋士とコンピュータ将棋ソフトが互いの意地とプライドを懸けて戦うイベント。人類とコンピュータの知恵比べである。「第3回 将棋電王戦」は、8月21日に開催された記者発表会で来春3月~4月にかけて行われること、そして、プロ棋士側の大将格として屋敷伸之九段の出場が決定されていた。今回の発表会では、残る4人の出場棋士が発表されるとともに、前回の発表会で未決定だった持ち時間などのルールも確定している。

出場棋士発表会の概要は、速報記事を見ていただくとして、ここでは5人の出場棋士を詳しく紹介するとともに、各棋士の棋風(将棋の指し方の特徴)などから、来春の対局の展望を予想してみよう。

菅井竜也五段

菅井五段(21歳)は関西棋界の新鋭棋士。過去にはタイトルホルダーやトッププロが多数出場する大和証券杯・最強戦で優勝の実績を誇っている。

第2回電王戦に中堅として出場した船江恒平五段とは、同じ師匠(井上慶太九段)を持つ兄弟弟子であり、今回は兄弟子のリベンジマッチと言えよう。年齢は船江五段が5歳上だが、プロ棋士になったのは菅井五段が半年早く、その才能がうかがえる。

菅井竜也五段。物怖じしない快活なタイプ

菅井五段の最大の特徴は生粋の「振り飛車党」であること。将棋には「居飛車」と「振り飛車」という二大戦法があるが、過去の出場棋士は全て居飛車を主体としていた。アマチュア将棋界では振り飛車の人気が高く、多くのファンが待ち望んでいた振り飛車党の登場である。

さらに菅井五段は、若手ながらも作戦家として高い評価を得ており、著書の『菅井ノート(先手編・後手編)』(マイナビ将棋BOOKS刊)は、振り飛車党の将棋ファンにとって"バイブル"的な定跡書として絶大な支持を得ており、プロ棋士からの評価も非常に高い。

「コンピュータと戦うことでプロ棋士も進化する。ぼくは10年後はプロ棋士がコンピュータにもっと勝てるようになっていると思います」と、記者会見で独自の見解を語った菅井五段。事前に十分に研究を積めば、勝算ありと自信を持っているに違いない。振り飛車の最前線を知り尽くした"振り飛車マスター"の戦いぶりに期待したい。

佐藤紳哉六段

佐藤紳哉六段。よーく見るとアイドルの面影があるような、ないような

佐藤六段(36歳)は、将棋界では中堅に位置する棋士だ。

「第2回 将棋電王戦」第2局には、佐藤慎一四段の応援に駆け付け「元祖サトシン」のタスキを掛けてカメラの前に登場。大いに笑いを誘ったことで記憶にとどめている方も多いだろう。今回のPVでは、過去のニコニコ生放送で披露した数々のネタも収録されているので、ぜひ見てもらいたい。

ちなみに、若いころは甘いマスクで"将棋界のアイドル"を目指していたが、写真のように風貌が変化してからは、アイドル路線をスッパリと捨てて"将棋界のネタ担当"として、日夜ネタ作りに励んでいる。

というのは冗談である。いや、ときどきネタを仕込んで披露しているのは事実だが、こと将棋に関しては人一倍真剣に取り組んでおり、その姿勢にお笑いの要素は微塵もない。棋風は居飛車党でじっくりした展開を好む本格派。若いころには新人王戦で優勝し、その年の年度勝率1位の栄誉にも輝いた才能の持ち主でもある。近年は目覚ましい活躍こそないものの、安定した勝率を維持しており、プロ棋士間でもその実力は定評がある。

懸念材料をひとつ挙げるとすれば、持ち時間の使い方だ。佐藤六段は序盤から惜しげもなく時間を使う長考派のため、コンピュータ戦において有効とされる、終盤にある程度時間を残しておく、ということができるかどうかがひとつのポイントになるだろう。

豊島将之七段

豊島七段(23歳)は、次代のトッププロと目されている関西若手のエリートだ。

今回の記者発表会の会場では、豊島七段の出場が発表された瞬間がもっとも大きな歓声があがっていた。それもそのはずで、豊島七段は将棋界の若手トップクラスの存在である。将棋界はついに切り札を投入したのだ。

豊島将之七段。シャイな若者だが、芯の強さを感じる

豊島七段は、すでにタイトル戦にも登場しており、惜しくも獲得はならなかったものの、その戦いぶりは周囲をうならせた。新人賞、勝率1位賞、最多勝利賞など、年度表彰も多数受賞しており、近い将来タイトルホルダーに名を連ねることが確実視される実力者である。今回の出場者の中では、大将格の屋敷伸之九段とともにダブルエースとの呼び声も高い。

棋風は、居飛車、振り飛車を問わず、多くの戦型を指しこなすオールラウンドプレーヤーであり、最新定跡の研究でも一目も二目も置かれる存在だ。若手トップクラスの豊島七段が、コンピュータ相手にどんな作戦を用意して臨むのか非常に興味深い。

同じ関西所属の菅井五段は、快活で物おじしないタイプなのに対して、豊島七段はおとなしく控えめなタイプである。コンピュータ戦という異様な舞台への適応力が懸念されるが、普段の対局では相手がトッププロでも恐れる様子はなく実力を発揮しており、不安材料は見当たらない。……続きを読む