スーパーやコンビニの牛乳売り場で必ずと言ってよい程見かけるロングセラー商品「明治おいしい牛乳」。シンプルなのに目をひくこのパッケージのデザインにこめられた秘密や工夫について、株式会社 明治 デザイン企画部 G長の斎藤茂信さんに聞きました。

ロングセラー商品「明治おいしい牛乳」パッケージにこめられたひみつは?

――まず、「おいしい牛乳」というストレートなネーミングについて、これはどなたが考案されたものなのでしょうか?

当時、開発に携わっていたマーケティング、商品開発、宣伝各部署の担当者で協議し、全員の総意で考案しました。

――このパッケージはどなたがデザインされたものなのでしょうか?

デザイナーの佐藤卓さんです。佐藤さんは、「明治牛乳」、「明治ラブ」をはじめ、弊社の主要牛乳類の商品パッケージデザインを手がけてくださっています。

また、「明治おいしい牛乳」をテーマにした企画展「デザインの解剖展「明治乳業―おいしい牛乳」」が開催されたことがあります。同展覧会は、他に「ロッテ―キシリトール」「富士フイルム―写るんです」、「タカラ―りかちゃん」をテーマに展開されました。

――佐藤さんに依頼を行った決め手は何だったのでしょうか?

この商品をよりインパクトのあるカタチで市場に紹介し導入する際に、独自製法や風味についてはもちろんのこと、全ての要素で高いニュース性を打ち出したかったことがあります。そのため、デザイナーにおいても、実力がありかつ著名な方を起用したかったのです。

グラフィックデザイン界で活躍されている方は多くいらっしゃいますが、パッケージデザイン領域で実績が高く著名なデザイナーは少なく、検討の結果、佐藤卓さんに依頼することになりました。

――公式サイトには「できるだけ手を加えていないように見えるデザイン」を目指したと記載されていますが、デザイナーに依頼してあえて"デザインした感じ"が見えないようにしたのはなぜですか?

オリエンテーション時にそのような具体的な依頼はしませんでしたが、依頼する商品が「牛乳」という極めて身近な品で、毎日の生活に溶け込んでいるカテゴリーであるため、デザインが食卓の空気を邪魔することなく自然なたたずまいになることに留意しました。

――「おいしい牛乳」の部分に使われているフォントは何ですか?

オリジナルのロゴタイプです。一見、なんの変哲もないロゴにも見えるかもしれませんが、各文字の先端に若干丸みを持たせることで、この商品の持つやさしくてまろやかな味わいを表現しています。

――パッケージ表面の「明治」という文字が「おいしい牛乳」で使われているメインのフォントと異なるように見えるのですが、これはなぜですか?

漢字の「明治」の文字はコーポレートロゴであるためで、各プロダクトブランドのロゴに合わせて変化させることはありません。これは、弊社の他の乳製品「明治ブルガリア」や「明治北海道十勝」、「明治エッセル」なども同様です。

――そのほか、栄養成分表示や「成分無調整」、「年間成分平均表」、「ナチュラルテイスト製法」など、さまざまなフォントが使われていますが、これには何か理由があるのでしょうか?

それぞれの要素の目的に合わせ、目立ち具合や読みやすさなどを考慮し、ふさわしいフォントを選択しています。その上で「明治おいしい牛乳」のトーンにあったフォントを佐藤卓デザイン事務所のスタッフと検討し採用しました。

記載項目ごとにさまざまなフォントが使われている

パッケージ上部には青を配置し、弧を描いたべた塗りのエッジ部分に1本のラインを沿わせている

――メインカラーに明治のコーポレートカラーである赤ではなく、青を採用したいきさつを教えてください。

もちろん「赤」も検討しましたが、消費者調査から、「青」の方が「牛乳らしさ」やカテゴリーの持つ「新鮮さ」などを表現していることが分かりました。そのため、「青」を選択し、この青を同商品のブランドカラーとして定着させることにしました。

――パッケージ上部にある青い部分がカーブを描き、1本のラインが並行して走っているデザインにはどういった狙いがあるのでしょうか?

パッケージ上部に施した「アーチ」は、メインカラーの「青」と共に、同商品のデザインアイデンティティーとして確立させていくことを狙っています。アーチに並行して走る「ライン」は、アーチの印象をより強める目的で付与しました。

――パッケージ中央の「おいしい牛乳」の文字の後ろに、牛乳を注いでいるコップの写真がうっすらと配置されていますが、市販の牛乳に多く採用されている「牛」や「牧場」のイメージではなく、この写真を用いた理由を教えてください。

よく見ると、牛乳がコップに注がれるビジュアルが配置されている

最近でこそ多くの牛乳のデザインに用いられている「注ぎシズル」ですが、当時は牛乳のパッケージデザインに見られなかったデザイン要素です。同商品のおいしさを商品名と共にグラフィックにおいてもお客様に訴求したいという思いと、新しい牛乳を提案するという意味を込めています。牛乳の王道感を表現しながらも、今までの牛乳のデザインにはなかった表現を狙っています。

――最後に、「おいしい牛乳」であることを演出するためのパッケージの工夫について「ここはぜひあらためて見てみてほしい」という部分について教えてください。

余計な要素を入れず、「明治おいしい牛乳」という商品名がパッケージの中央にレイアウトされた、シンプルかつ堂々としたたたずまいを見ていただければと思います。

――ありがとうございました。