48万人が愛用する「ほぼ日手帳」。1日1ページというこの手帳を作り出した「ほぼ日刊イトイ新聞」はまた様々なコンテンツを発信し、「はたらきたい展。」「手で書く手帳展。」などの展示も企画されている。ほぼ日手帳ってどう使ったらいいの? 働くことと手で書くことの関係って? 主宰の糸井重里さんに話をきいてみた。

オンとオフはもう古い!?

糸井重里(いといしげさと)
1948年11月10日生まれ。東京糸井重里事務所 代表取締役 社長。コピーライター、作詞家、ゲームプロデューサーなど多彩に活躍。WEBサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を立ち上げ、毎日更新のコンテンツを提供、「ほぼ日手帳」「ほぼ日ハラマキ」などのオリジナル商品も展開している

--ほぼ日手帳は生活自体を記す手帳というイメージが大きいですが、働く中ではどう使うと良いでしょうか?

まずは、「働く」ということを狭めないで考えた方がいい。一般的にはいくら稼いでいくら払ってるというような、商品価値のある「働く」について話し合うことが多いと思うんです。でも、実は「あの人仕事楽しくやってるな」とか、「いいパフォーマンス出してるな」って人は、働いていない時間に、働いていないように見えて、働いてるんですよね。

そこは実は混ざっていて、プライベートな時間が支えになってるとよく言いますが、支えどころではなく、その時間こそが働きそのものなんですよね。「ここからが働く」だとか「ここからが働かない」だとか、オンとオフだとか、あれは古い(笑)。

--オンオフと近いところで、「ワークライフバランス」という言葉もありますが

ワークライフバランスって、オンかオフかって話ではないと思うんです。つまり、楽しみとして仕事している時間だったら、今はオンとオフどっちなんだ? ってなりますよね。あるいは、遊んでいる間に思ったことが、次の仕事にものすごく大きなヒントになるかもしれない。

例えば、家族で海に行ったときに得るものもあって、その感覚を持ってない人と比べると、後から違ったパフォーマンスになりますよね。僕は公私混同って言い方をするのですが、公と私をそんなに区別できるのって、単純労働だけだと思うんです。

仮にショップの店員さんをやっていたとして、「お客さんに似合う」っていうのを、「私(わたくし)」として勧めているのか、それとも仕事だから勧めているのか。仕事だから勧めてるってのは見抜かれますよね。でもほんとに私として勧めてる人がいたら、「そう?」ってうれしくなっちゃう。このような場面でオンとオフの区別のついてる人がいたらどう思う?

--売りつけられようとしているのかな、と思ってしまいます…

お金をもらってるからと、きちっとわけたら、やることがなくなっちゃうんですよ。混ざってるんです。おしゃれもそうですよね。会社員のスーツも、昔は「どぶねずみ」って言われてたんですよ(笑)。みんな同じようにグレーで、同じような形のものを着ていた。今は自分に似合うスーツを選んで、「おれが着たいスーツはこれだ」って話になる。ワークしている時間と、そうじゃない時間の混じり方そのもの、全部をその人の「キャリア」って言うんじゃないかなあ。

ほぼ日手帳はビュッフェのお皿

ほぼ日手帳も、まぜこぜなんです。今まであった「仕事」ってお皿と「私(わたくし)」ってお皿を、「1日」ってお皿に変えたんです。中華・フランス料理・イタリアン…という分け方もあるけど、ビュッフェ方式で大きなプレートにおすしがこう、傾かないように置いてあって、こっち側にシチューが置いてあるのって、楽しいじゃない。それで、デザートまで乗せたり。そしたら案外ステーキとおすしが合うんだよとか、新しい発見があるかもしれないですよ。

--「公私混同」が悪いことだととらえられることもありますよね

それはもちろん、経理とか、公私混同を禁じなきゃいけない場合もあります。だけどおんなじ言葉でも、文脈で意味が変わる。例えば「時は金なり」って言葉について、本当にそうだなって思ったとする。でも同時に「急がばまわれ」って言葉もある。「せいてはことをし損じる」って言葉もあるじゃないですか。考えればあるんですよ、さかさが。だからそれは何を意味してるのかなあって、自分の頭を使って考えることですよね。

言った人をせめるんですよね、今はね。言葉だけをとらえて。そんなピンで留めたような言葉なんてないですよ。「バカ!」っていうのが愛情だったりするんです。それを「バカって言いましたね!」「糸井重里、暴言」とかね(笑)。「公私混同」という言葉もまさしくですけど、自分の心の中を見て考えることが大事ですよね。……続きを読む。