単焦点レンズとは、平たく言えばズームができないレンズのこと。一般的なズームレンズに比べると、開放値が明るくボケを表現しやすいことがメリットです。今回は、単焦点レンズを使って背景をシンプルにまとめ、人物をいっそう際立たせる方法を取り上げましょう。

「一歩上ゆくデジカメ活用術」バックナンバー
第1回 イルミネーションを利用してボケのある夜景写真を撮る
第2回 冬の逆光を生かして印象的なスナップショットを撮る
第3回 水族館の生き物たちを幻想的なイメージで撮る
第4回 夜空に浮かび上がる満天の星を撮る
第5回 単焦点レンズで楽しむポートレート撮影・表情編

絞り優先AE(F1.2 1/8000秒) 露出補正:±0 感度:ISO400 WB:太陽光 焦点距離:50mm カメラ:EOS 5D Mark III(写真をクリックすると拡大します)

1枚目の写真は、花壇を背景にして写したもの。花は、女性ポートレートの背景として定番であり王道です。人物を鮮やかな色彩で取り囲むことで、写真全体が明るく華やかな雰囲気に仕上がります。

撮り方の留意点は、ピントを合わせた人物以外の部分にふんわりとしたボケを作り出し、人物のみがいっそう目立つようにしたことです。ボケによって背景と人物が分離し、立体感のある描写になっています。

こうしたボケを作るには、レンズの「絞り値」と「焦点距離」、「撮影距離」の3つが関わってきます。まず絞り値は、できるだけ小さい値にセットすると、ボケ量が大きくなります。一般的な標準ズームレンズの開放値(設定可能な最も小さい数値の絞り)はF3.5~5.6程度ですが、単焦点の標準レンズの場合、開放値はF1.2~1.8程度。この数値の差が、ボケ量の違いになります。

標準ズームの開放値F4で撮影(写真をクリックすると拡大します)

単焦点レンズの開放値F1.2で撮影(写真をクリックすると拡大します)

焦点距離については、長ければ長いほどボケが大きくなります。ポートレート用としては、35mmフィルム換算で50~100mm程度の焦点距離のレンズが使いやすいといえます。下の写真は、焦点距離100mmのレンズで撮影したもの。背景の木々が見事にボケています。

マニュアル(F4 1/500秒) 露出補正:±0 感度:ISO200 WB:太陽光 焦点距離:100mm カメラ:EOS 5D Mark III(写真をクリックすると拡大します)

撮影距離については、短ければ短いほど、つまりカメラと人物までの距離を短くすると背景は大きくボケます。また、人物から背景までの距離を長くするほど、背景はボケやすくなります。

以上をまとめると、「絞り値は小さい値に」、「焦点距離は長く」、「カメラと人物までの距離は短く」、「人物から背景までの距離は長く」することの4点がボケ度合いを大きくするためのポイントです。もちろん、大きくボカすことが必ずしも良いこととは限りません。「ポートレート=ボケ」というつもりはありません。シーンによっては、背景をあまりボカさずに、その場所の様子をはっきりと表現したほうが効果的な場合もあります。

ただ、場所ではなく人物が主役であることを明確にするには、ボケは有効な手段のひとつです。どのくらいボカすか、あるいはボカさないかは、その場の状況と撮影の狙いに応じて使い分けるといいでしょう。

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