――ロケーションでいうと、特に品川での撮影が大変だったのでは?

大友監督「品川はかなり大変でした。普通は無理ですよ。当然、二宮君がいるとわかったら大騒ぎになっちゃう。だから撮影のときは、150人くらいのエキストラでうまく囲んで、みんなでガードしながら一回だけコースを確認。それで本番ですよ。ただ、その一回限りのテイクというのが逆にいい感じの緊張感を生み出せたのではないかとも思っています」

――エキストラの150人以外は普通の通行人ですよね?

大友監督「もちろんです。人の流れを止めるわけにはいかないですから。そういう生の街の中に放り込んでロケをするっていうのは、いろいろと大変なことが多いんですけど、アドリブの即興的な面白さというのもあるんですよ。今回の映画はそういったところがいい方向に向かったんだと思います」

――最初にこの作品の話を聞いたときの印象はいかがでしたか?

大友監督「最初は単純に、二宮君と豊川さんのツーショットが面白いと思ったんですよ」

――2人のキャスティングは先に決まっていたのですか?

大友監督「決まっていたというより、プロデューサーが『この2人でやりたい』と言ってきて、これは面白いなと。豊川さんは50歳に差し掛かった大人の魅力、逆に二宮君は30歳なんだけど、どこか永遠の青年みたいなところがある。僕の中で全然ジャンルが違う2人なんですよ、俳優としてのジャンルが。そんな2人が同じフレームに入るというのがすごく面白いと思い。ただシンプルにこのツーショットを撮りたかった。基本的にはまず、そこにグイグイと惹かれていった感じですね」

――2人に魅力を感じてスタートしたということですが、ほかのキャスティングはいかがですか?

大友監督「たとえば早樹なんかは、原作だと外見が醜く描かれている。天は二物を与えず、ではないですけど、原作の小説ではそのあたりがすごくわかりやすく書かれている。ただ、それをそのまま映画にしてよいかどうかは別の話じゃないですか。今回の映画では、天才科学者たちの"孤独"と"悲劇"というのがドラマのモチーフになっているんですけど、結局世の中には二物も三物も与えられた天才っているわけですよ。でも、そんな天才にもある種の孤独感や悲しみのようなものがきっとあるはずだと」

――天才であるがゆえの孤独や悲しみですね

大友監督「そう。そんな悲劇性を映画の中に入れたかったのですが、その悲劇性を二宮君が演じることを考えると、どうしても美しく描きたいという気持ちになっていった。神楽が最後に委ねたものは美しくあってほしい。無垢な存在じゃなければいけない。でも、この無垢な存在というキャスティングはなかなかに難しい。邪気がない、でも成熟した年齢である。セリフも一言しかなくて、それさえも現場で考えたようなセリフ。本来、天才の孤独や悲劇なんて、それだけでもっともっと丁寧に説明していかなければいけないのに、役者さんは限られた時間の中でそれを体現しなければならない。だから、演技ではなく、その存在だけで体現できるかどうかが大事で、今回は無垢さという点を重視して水原(希子)さんにお願いしました。杏ちゃんの場合は知性を感じさせる存在としてのキャスティングになってます」

――水上役には鈴木保奈美さんがキャスティングされていました

大友監督「水上は原作と違って、映画だと女性になっているんですけど、もしかしたら自分の子どもが欲しかっただけかもしれない。そして、自分で産めなかったからこその行動だったのかもしれない……そんなことを想像しながらキャスティングしたのですが、その意味で鈴木保奈美さんはすごくタイミングが良かった。お子さんが産まれて、しばらく離れていた芸能界に復帰したばかりの時期ということで、そのあたりの何かを、頭で理解していなくてもちゃんと体現できるんじゃないかという想いがあってお願いしました。先ほども言いましたが、物語全体を美しく描きたいというイメージがあったので、女性のキャラクターはある種、"クールビューティー"という軸にこだわったキャスティングになっています」