『マンディ・レイン 血まみれ金髪女子高生』(2006年)、『50/50 フィフティ・フィフティ』(2011年)のジョナサン・レヴィン監督による"ロマンティック・ゾンビ・ラブコメ"作品『ゾンビ・ミーツ・ガール』が公開されました。

う~む、いよいよゾンビ映画界も仁義なき戦いに突入したかぁ。

何を隠そう、この映画のチラシを見て思った最初の感想がそれ。だってキャッチコピーが「ゾンビ・ミーツ・ガール 世界の終わりに、恋が襲ってきた」なんて、ゾンビ映画ファンからすれば「おいおい、親分(ジョージ・A・ロメロ監督)の許可はちゃんととって商売してるんだろうな、コラッ!」と言いたくなっちゃうコピーでしょ。ちなみに、ジョージ・A・ロメロ監督とは、ゾンビ映画の父であり、ゾンビルールを作った人。要はゾンビの基礎となる考えを作った映画監督さんなんです。もちろん、今もなお現役でゾンビ映画を作っているんですよ。ゾンビルールを簡単に説明すると以下のようなものになります。

~ゾンビルール~
・ゾンビは走らない
・噛みつかれたらゾンビになってしまう
・脳を攻撃すれば倒せる

しかし、ゾンビモノも手広くなりましたね。つい数年前、『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)で走るゾンビが出現したときはかなりショックを受けたものですが、『28日後』(2002年)やら『28週後』(2007年)やらと、最近ゾンビも当たり前のごとく走るようになりました。

それどころか、ゾンビをペットとして飼っちゃう『ゾンビーノ』(2007年)だの、ゾンビがストリップを踊っちゃう『ゾンビ・ストリッパーズ』(2008年)、日本ではゾンビが柔術をやっちゃう『東京ゾンビ』と、日々、世界中で新しいゾンビの形が生まれているわけです。まさに近年はゾンビ革命!(そんなタイトルの映画もあったような……)いや、ゾンビの黄金期とも呼べるような気がします。

この現象をきっかけに、ロメロ監督が育てた芽を、後進の者達が発展させたと捉えるリベラル派と、否定的に捉えるロメロ原理主義の保守派が各地で舌戦を繰り広げているとかいないとか。いや、それは飲みの席だけか。

さて、このまま話が脱線していかないうちに、話を『ウォームボディーズ』に戻しましょう。

人類の大半がウィルスで死滅してしまった近未来、街にはゾンビが溢れかえっている。主人公のゾンビR(ニコラス・ホルト)たちは、食糧を調達に来ていた人間たちを襲うことにする。ひとりの男を襲い、脳みそを食べるR。次なる獲物を探していると、目の前にはショットガンを構える女性 ジュリー(テリーサ・パーマー)の姿が。「ドクンッ!」なんとRはジュリーに一目惚れをしてしまう。そしてRはジュリーを自分の住まいに連れて行くことに……というストーリー。

ゾンビRは、最初からそこそこ言葉をしゃべれてしまい、人間であるジュリーと会話できちゃうんです

この物語はもともと7ページのオンライン用の短編物語だったそうで、それがインターネット世代を魅了し、小説になったんだとか。原作者は「ゾンビを、視点を持つ個人として扱った作品はみたことがない」と、死人なんだからあたりまえだろと突っ込みたくなるような発見をし、この物語を作ったんだと語っています。

それにしてもこの映画、良い意味で本当に無茶苦茶。だって冒頭からゾンビになった主人公の心の声が聞こえるわけですからね。すでにゾンビルールを無視しているので、そこからさらに無茶な設定が出てきても、もう何も気になりません。

主人公のゾンビが普通に喋ろうと、気にならない。脳みそを食べると、相手の記憶を追体験できる新設定もすんなり受け入れられるし、新種の「ガイコツ」なんて呼ばれている骨だけゾンビの動くスピードが恐ろしく速すぎても問題無し! 思いっきりCGだけどへっちゃらなのさ!

そんな事より、大切なのは恋!恋です、恋!

ゾンビと人間が恋するなんて革新的! やっぱりゾンビとはいえ、テリーサ・パーマークラスの美女が現れたら、恋してしまうんでしょうね。僕がゾンビになったとしても、そりゃ恋するでしょうよ。いや、むしろ個人的にはテリーサ-・パーマ-よりも、その友達役のアナリー・ティプトンに恋してしまうでしょうね。『ラブ・アゲイン』(2011年)の時のベビー・シッター役、可愛かったんだよなぁ……。

ゾンビだって自由に恋がしたいんです!

ヴァンパイアと人間が恋する『トワイライト』シリーズのパクリなんちゃうん?などと、僕のようなひねくれた人間はそう思ってしまうのですが、ホラー嫌いの人も楽しめる間口の広さも見せつつ、ちゃんと観てみると、保守派寄りの自分もしっかり満足させる映画でもあるんですね。

幼い頃、自分が初めて『ゾンビ』(原題Dawn of the Dead)を観た時の、もしかして、ゾンビってとても哀しい存在なんじゃないか? ゾンビより人間のほうがよっぽど醜い存在なんじゃないか? というあの感覚(カタルシスっていうんですかね?)。この作品でもしっかり感じましたよ。

というわけで、これ以上内容にも踏み込まず、監督のジョナサン・レヴィンの話題や、ジュリーのお父さん役を演じるのがジョン・マルコビッチという、興味深いネタまで完全にスルーしつつ、このへんでレビューを締めくくりたいと思います。

とにかく、ゾンビが苦手な人やら、ロメロ原理主義の保守派やら、幅広い層に楽しんでもらえる映画だと思います。こりゃ、劇場に走るしかないんじゃないですかね? そうだ、みんな劇場へ走りましょう。

何も考えずゾンビのように!

そう、ガイコツのように!

劇場に行けばガイコツの素早さがわかりますよ!

この先の話はそれからだ!

映画『ウォーム・ボディーズ』は現在、シネクイントほかにて全国公開中。

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