もしあなたが宇宙飛行士のリーダーだったら、次のときにどの行動をとるだろうか。燃料の消費量が多く、地球に帰るまでぎりぎりの量、ミッションを続けるか否かがリーダーの決断にかかっている。

(1)与えられたミッションだ、最後までやり遂げよう。それが宇宙飛行士だ!
(2)途中で燃料が切れたら大変だ。ミッションを中止して地球へ帰ろう!
(3)どうしたら良いのかわからない。みんなの意見をきかせてくれ。

「宇宙飛行士の訓練に学ぼう JAXA流チームワークの育て方」

宇宙航空研究開発機構 有人宇宙ミッション本部 宇宙環境利用センター 計画マネジャー 山口孝夫さん

9月12日、東急ハンズ渋谷店にて期間限定オープン中の「人工衛星 胸キュン※カフェ」(※はハートマーク)で行われたワークショップ「宇宙飛行士の訓練に学ぼう JAXA流チームワークの育て方」にて、山口孝夫さんから投げかけられた質問に、その場にいた参加者は思い思いの解答を選んだ。山口さんは、「宇宙航空研究開発機構 有人宇宙ミッション本部 宇宙環境利用センター 計画マネジャー」として、日本の宇宙飛行士選抜や教育に関わっている。

この場合の正解は、2番だという。

山口さん「宇宙飛行士は、ミッション達成が大切ですが、生きて帰ってくることも大きな目標です。1番のような無謀な引っ張り方をしていては、チームメイトに認められません。90%以上達成できると思っても、10%不安があるなら引き換えすこと。自分の命をてんびんにはかけられません」

その場では、3番に手を挙げた人も多かった。

山口さん「3番は時間に余裕があるときならば良いですが、『どうしたらよいのかわからない』という言い方がよくないですね。あらかじめ3案ほど用意しておいた上でメンバーにきいてみるのが良いでしょう。その上で、もしメンバーが自分と同じ意見であっても『君の意見はいいね!』と、相手の意見として採用するのが良いと思います」

宇宙飛行士が受けるチームワーク訓練とは

宇宙という極限空間に対応できるよう、日本だけでも320倍もの選抜に勝ち残り、更にアメリカやロシアで何年も訓練を受けアサインされる宇宙飛行士たち。能力的にも、人格的にも優れた人ばかりであれば、何も問題なんか起こらないようにも思える。

山口さん「宇宙飛行士がどんなに優れていても、普通の人間です。地上で起こるあらゆるトラブルは、宇宙でも起こるはずだと仮定しなければなりません」

宇宙に近い海底20mの環境で2週間生活してチーム行動能力を養う、リーダーを毎日変えて1週間、A地点からB地点まで最低限の水と食料のみで野外ミッションを達成させるなど、チームワーク・リーダーシップを形成するための訓練メニューが数多く存在する。

シャトルや国際宇宙ステーション(ISS)などで過ごす時間はもちろん、もし帰還時に不時着した場合、-30度の環境で狼(おおかみ)がうろうろしているという状態の中、2~3日過ごさなければいけないことも想定される。チームで力を合わせなければ、生きて帰れない。

人工衛星 胸キュン カフェ

山口さん「訓練を受ける上で、まず宇宙飛行士には『チーム行動に必要な能力』について教えます。自己管理、コミュニケーション、異文化適応、チームワーク、リーダーシップ、チーム不協和対応、状況認識、意思決定と問題解決です」

この場合に必要なコミュニケーションとは、相手とただうまく接する能力ではない。「自分の言っていることを相手が理解しているとは限らない」という前提のもと、「私はこういう意味で言いましたが、どうですか」と確認、理解してもらうことこそがコミュニケーションだと山口さんは語る。

山口さん「異文化適応についても、相手の文化を尊重して受け入れることが大切です。これは何も国の違いだけではなく、宇宙飛行士と地上職員といった職種の違いも入るんですよ。私たち地上職員も、宇宙飛行士の訓練に一緒に参加することもあります」

グリーンカードを使った問題

ワークショップでは、更に1問出題された。宇宙飛行士の訓練で使われる「グリーンカード」という指示カードを使うケースの問題だ。一般の方50人を5チームにわけ、チーム内の3名にこっそりグリーンカードを渡したという研修の結果、一番早くミッションを成功させたのはどのチームだろうか。

(A)チームメンバーの3割がみんなの意見に賛成する
(B)チームメンバーの3割が何事にも反対する
(C)チームメンバー全員が自由に意見を言い合える
(D)チームメンバーの3割が相互理解の促進に努力する
(E)チームメンバーの3割が聞き上手/褒め上手である

正解は次のページに。