去る8月31日と9月1日の2日間にわたって、海洋研究開発機構(JAMSTEC)横須賀本部にて「'13水中ロボットコンペティション in JAMSTEC」が開催され(画像1)、その結果はすでにレポートした通り(記事はこちら)だが、その中でお伝えした通り、JAMSTECなどと共に同ロボコンを共催しているNPO法人日本水中ロボネットの理事長であり、九州工業大学(九工大) 社会ロボット具現化センター センター長、海上技術安全研究所の水中工学センター長なども兼任する日本の水中ロボットの第一人者である九工大の浦環 特任教授にインタビューをすることができたのでそれをお届けする(画像2)。

またロボコンの終了後、審査発表までの間にJAMSTECのミニ見学ツアーが行われ、分解整備中の大深度小型無人探査機「ABISMO(Automatic Bottom Inspection and Sampling Mobile:アビスモ)」(画像3)および水圧試験設備(画像4)の見学、さらにその際にそうした各種探査機や船舶などの開発や整備などを行っているJAMSTEC 海洋工学センターのスタッフの方にも、ちょっと興味深いお話を多少なりとも伺うことができた。それも併せてお届けする。

画像1。'13水中ロボットコンペティション in JAMSTECの会場、JAMSTEC潜水訓練プール

画像2。日本の水中ロボット研究開発の第一人者・九工大の浦環特任教授

画像3。分解整備中のABISMOのランチャー(上部)とビークル

画像4。水圧試験室での見学の様子

日本の水中ロボット研究開発の第一人者 - 浦環特任教授

それではインタビューに入る前に、まず浦特任教授について簡単ながら紹介しておく。現在は九工大に所属して水中ロボットの研究開発を行っているが、以前は長らく東京大学生産技術研究所(東大生研)に在籍しており、現在も活躍中の「Tri-Dog 1」(画像5・6)や「TUNA-SAND」(画像7・8)などの水中ロボットを開発してきた。近年も、それらを用いて日本近海にて海底資源や、漁業系の水産資源の調査などを行っている。弊誌でも、これまで幾度かそうした発表をお伝えしてきた(記事はこちらこちらなど)。話を伺えば、日本の水中ロボットの状況がわかるという、第一人者なのが浦特任教授なのである。

画像5。浦特任教授の開発したTri-Dog 1。1999年に開発された

画像6。東大生研千葉実験場の海洋工学水槽で航走するTri-Dog 1

画像7。2007年に完成したTUNA-SAND。現役水中ロボットとしてとして活躍中

画像8。東大生研千葉実験場の海洋工学水槽で航走するTUNA-SAND

そんなわけで、まずは浦特任教授が何がきっかけで水中ロボットに興味を持ったのかを訪ねてみた。浦特任教授によれば、「水中ロボットを始めたのは30年ほど前」ということだそうで、それ以前は特にロボットというわけでなく、海中で利用する技術に関しての研究をしていたそうだ。しかし、その時に「これからは水中こそロボットの世界だろう」という考えに至り、現在まで続けているそうである。30年前というと、JAMSTECの探査機・探査艇でいえば、「しんかい6500」がまだ就航しておらず、「しんかい2000」の頃の時代だ。

「有人の探査艇ももちろん重要だけど、日本が目指すべきは、全自動のロボット(AUV)。それこそが水中・海中では重要だと考えたんです。有人の潜水艇を使うのは大がかりで大変だけど、でもダイバーが潜るには無理な深度、危険な海域などはどこにでもあるわけで、いくらでも水中・海中はロボットが活躍できる場がある。水中・海中はロボットにとってとても活躍できる可能性のある場所なんです」(浦特任教授)という。

「水中・海中は、ロボットにとってニッチがある。ニッチを作れるというか。ロボットしか行けないから。例えば介護用のサービスロボットを考えた場合、現在はいうまでもなく介護は人が担っているわけで、人と競争した時により重たいものを持ち上げられるなど、一部ではロボットの方にアドバンテージがあるけど、トータル的に見た時に人には現状ではまったく勝てない。ロボットの方がパワフルといっても、人に全然力がないかといったらそんなことはないし、細やかさでは人の方が大差をつけてるわけですから」(同)と、サービスロボットの開発と導入の難しさを語る。

しかも、人よりもまだまだ性能的に劣っているのに、開発費用は莫大だし、細かなメンテナンスを必要とするし、介護用ロボットの開発も運用も実に難しい。現状で、性能に対する費用が高すぎてコストパフォーマンス的に現場に導入するのは無理、というのが事実だろう。ヒューマノイドロボットに介護してもらえる時代の到来を望む人は多いが、人と競争した場合、ロボットはまだまだ勝てないことがサービスロボットの普及が進まない一因というわけである。

もちろん、現状でもサービスロボットの分野でも人に勝てないロボットばかりかというと、そうではない。手術支援ロボット(画像9・10)などの遠隔操縦型や、介護士が装着するためのアシストスーツ(画像11・12)などの人を補助するためのロボットは伸びていくだろうとする。「そうした人を支援するものはどんどん性能が上がって来ると思うが、人と完全に置き換えるというのはなかなか現状では難しい」と、陸上でのロボットはまだまだという。

画像9(左):ほぼ独占ともいえるような世界的なシェアを誇る米インテュイティヴ・サージカルの手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ・サージカルシステム」。(c) Intuitive Surgical, Inc. 画像10(右):国内でも新エネルギー・産業技術総合開発機構の支援を受け、九州大学などが手術支援ロボットを開発中だ。画像は「消化器外科用インテリジェント手術支援ロボット」の全景 (c) NEDO/九州大学

画像11(左):かつて神奈川工科大学の教授を務めていた山本圭治郞氏が研究していた介護用の空圧式全身型の「ウェアラブルパワーアシストスーツ」。画像12(右):東京理科大学の小林宏教授が開発している上半身型のマッスルスーツを装着して30kg米袋を抱える女性