NokiaのDNAはMicrosoftの中核となるか

今回の買収劇は一見すれば、Microsoftという巨人がスマートフォンへ時流が進みつつ中で後れを取ったデバイスメーカーを吸収したように見える。やせても枯れてもNokiaは一時代を築いた携帯電話事業者であり、国内外のフィーチャーフォン(俗に言う「ガラケー」)のOSとして採用されてきたSymbian(シンビアン)OSをリリースする企業だからだ。

W-CDMAの規格紛争においてQualcomm(クアルコム)に敗れ、Intelとの共同開発に着手した「MeeGo(ミーゴ)」は新たな携帯デバイス用Linuxプラットフォームとして期待されたが、結果は芳(かんば)しくない。2011年にはMicrosoftと戦略的提携を発表し、Windows Phoneデバイスの開発に注力することとなった。確かにNokia製Windows Phoneデバイスは多数リリースされているが、逆に見方をすればNokia以外は散々な状態である。日本国内に限って言えば、最新版となるWindows Phone 8搭載デバイスはいまだ発売される気配がない。

このような背景からNokiaを手中に収めようとするMicrosoftのスタンスは自然の流れだろう。しかし、今回の買収劇はそんな単純な話ではない。Nokia CEOであるElop氏は、フィンランド人以外で初めて同社CEOになった人物である。加えてカナダ出身の同氏はAdobe Systemsなどを経て2008年からMicrosoftのビジネス部門担当バイスプレジデントを勤めていた。同氏がNokia CEOの席に着いたのは2010年9月。穿(うが)った見方をすれば、MicrosoftがNokiaを吸収するために送り込んだ刺客と言えるのではないだろうか(図04)。

図04 次期Microsoft CEOとの声が上がっている、Nokia CEOのStephen Elop氏

もちろんMicrosoftとNokiaの戦略的提携はElop氏がCEOに就任した後に結ばれたものだが、同氏が提携話に与えた影響は少なからず大きいと見るのが自然だろう。また、CEO着任から3年足らずで買収合意に至ったのも興味深い。米国の大手情報媒体である「Bloomberg(ブルームバーグ )」の記事「Finns Mourn Loss of Icon Nokia as Microsoft Takes Over」によると、"フィンランドのタブロイド紙がElop氏をトロイの木馬である"と評したことを報じている。

確かに今回の買収劇でNokiaグループの中核である携帯電話事業が売却され、同社が新たなビジネスモデルを探し出さねばならず、世界に名だたる企業に成長するかは不明確だ。その一方でElop氏は前述した一部の役員と一緒にMicrosoftに復帰する予定だという。加えて次期CEOとして候補に挙がっている面々を見る限り、Ballmer氏のようなカリスマ的存在は見当たらず、Elop氏も次期CEOレースに参加するではないか、とささやかれている。

次期CEOの席に誰が着くかわからないが、もし仮にElop氏が次期CEOとなれば、今回の買収劇は、"MicrosoftがNokiaを飲み込んだ、のではなく、Nokiaという新しい血をMicrosoftに輸血した"と見るのが正しいだろう。iPhone/iPadというハードとiOSというOSで先行しているAppleに対抗するため、GoogleはMotorola(モトローラ)のデバイス製造企業であるMotorola Mobility(モトローラモビリティ)を買収したように、MicrosoftはNokiaを選択した。

Googleの買収劇はMotorolaが持つ多数の特許を取得するためと言われていたが、MicrosoftのNokia買収も同じスケールメリットが発生するため、スマートフォンを舞台にしたApple vs Google vs Microsoftという競争劇が新たなステージに進むのは明らかだ。「デバイス&サービスカンパニー」のデバイス面を強化しつつあるMicrosoftだが、これまでとは全く異なる道を選択しなければならない。

2012年頃からBallmer氏は「我々はチャレンジャーだ」という言葉を多用していたが、このような道しか残されていないことを把握した発言だったのだろう。従来のコンピューター市場は飽和状態となり、トレンドはスマートフォンやタブレットへ急速に移行しつつ現状を踏まえれば、MicrosoftのNokia買収は最良の選択である。「One Microsoft」というかけ声の下に一歩ずつ歩み出している同社の動向は今後も注視に値する存在だ。

阿久津良和(Cactus