8月31日、六本木のニコファーレで、将棋のプロ棋士がコンピュータ将棋ソフトを相棒にして対局するイベント「電王戦タッグマッチ」が行われた。出場者は、今年の3月から4月にかけて行われた「第2回将棋 電王戦」に出場した5人のプロ棋士と5台のコンピュータ将棋ソフトである。

多くのファンが詰めかけた会場の六本木ニコファーレ

「将棋 電王戦」とは、今一度説明すると、将棋のプロ棋士がその威信を懸けてコンピュータ将棋ソフトと戦うイベント。人間とコンピュータによる壮絶な知恵比べは、これまでに数多くのドラマを生み出し、将棋界の枠を超えて社会現象と呼べるまでの大きな盛り上がりを見せた。

来春には「第3回 将棋電王戦」の開催も決定しているが、その前に「感動を呼んだ第2回メンバーの活躍がもっとみたい」というファンの願いや「電王戦のライバル同士がもしも手を組んだらどうなるのだろう?」という妄想に応える夢のイベントが企画された。それが「電王戦タッグマッチ」である。

ロボットをモチーフにしたPVで操縦席に座る塚田泰明九段の映像を見て場内は大爆笑に包まれた。塚田九段といえば、涙の引き分け劇で第2回電王戦の主役となったベテラン棋士だが、今回はすっかり面白いおじさんキャラである

プラスアルファの力を引き出せるかどうかが勝利のカギ

このタッグマッチは、プロ棋士が対局者となり、相棒のコンピュータが示す手を参考にしながら対局を進めていくのが基本的なルール。ただし、最終的な指し手の決定権はプロ棋士にあるため、コンピュータの手をまったく無視することもできるし、逆に全てコンピュータの示すままに指しても構わない。しかし、当然ながらどちらか一方の力を使うだけではタッグを組む意味がない。人間とコンピュータの思考をいかにミックスさせるかが重要になってくる。

また、対局者はコンピュータに実際の局面を考えさせるほかに、数手進めた仮想局面を思考させることも許可されている。現在のコンピュータ将棋ソフトは、およそ20手先までを網羅的に読み尽くすことができると言われているが、そこから先は1手読み進めることも非常に難しくなる。つまり、プロ棋士の力で数手先の仮想局面を予想することができれば、コンピュータの処理能力を数百倍、数千倍にも増強したのと同じ効果があることになる。

いずれにしても、コンピュータの力をうまく引き出して、プラスアルファの力を発揮できるかどうかが勝利へのカギとなるだろう。果たして人間とコンピュータは良き相棒となれるのかどうか。注目の戦いが始まる。

解説は将棋界のトップ棋士、森内俊之名人

解説の森内俊之名人(右)と聞き手の矢内理恵子女流四段

「電王戦タッグマッチ」の解説を担当するのは森内俊之名人。「名人」は将棋界最高峰のタイトルのひとつで、森内名人はそのタイトルを8期保持し「永世名人」の資格も有している大名人である。また、今年の春に行われた名人戦では、コンピュータが指したとされる新手を用いたことでも話題となっており、コンピュータ将棋にも造詣が深いという。

そして、解説の聞き手は矢内理絵子女流四段。タイトル6期を誇る女流棋界のトッププロのひとりで、NHK杯戦の司会も長らく務めており、将棋ファンにはおなじみの顔である。

将棋界の大名人が、人間とコンピュータのタッグマッチをどのように解説するのかも見どころのひとつとなるだろう。そして、いよいよ「電王戦タッグマッチ」が幕を開ける。……続きを読む