株式会社インターネットイニシアティブ プロダクト本部 プロダクト開発部 マネジメントサービス 課長 齋藤透氏

アトラシアンが提供する「Confluence」は、情報共有とSNSの機能をベースに社内のコミュニケーションを活性化させ、個人間だけでなく、ビジネスと個人とを結びつける“コラボレーションツール”である。
だれでも簡単にコンテンツを作成/編集できるので、例えば、議事録やマニュアルのようなドキュメントを掲載すれば、同じ画面上で意見を交換してどんどんブラッシュアップすることができる。また、コミュニティの情報交換や活動報告を行うことも可能で、意見交換が活発に行われれば、自ら参加したいと思う社員も増えていくはずだ。さらに、自己紹介のページを作っておけば、各プロジェクトで積極的に必要な人財を探すこともできる。

Confluenceの魅力の1つは、ごくごく小さな環境からスタートできる点にある。10人までであれば、ダウンロード版は10ドルで購入でき、オンデマンド(クラウド)版も月額10ドルでスタートできる。
株式会社インターネットイニシアティブ プロダクト本部プロダクト開発部マネジメントサービス課長の齋藤透氏は、10ユーザーライセンスからConfluenceをスタートし、のちに2,000人超の全社まで拡大していくという、理想的なボトムアップ型の導入に成功した人物だ。その肩書きのとおり、齋藤氏は情報システム部門の管理者ではなく、現場の開発者の1人である。これが、本事例の最大のポイントでもある。

実際、情報共有に活用しているスペース

IT製品開発会社において、この不満の少なさは珍しい

Confluenceを導入するきっかけは?

当社は非常に多くの技術者を抱えているため、社内にも非常に多くの技術資料が存在します。これまではWikiツールの1つである「PukiWiki」を使って、さまざまなドキュメントを作り、管理していました。
PukiWikiによる運用のいちばんの問題点は、システム化しているにもかかわらず、欲しい情報が手に入れにくいということでした。システム自体は統合環境ですが、各部署で独自にスペースを作って管理していたため、部外者には情報の場所がわかりにくいのです。

また、PukiWikiはHTMLを簡素化したマークアップを記述してページを作る必要があるため、技術者でないスタッフにはハードルが高いという課題もありました。
加えて、PukiWiki の開発は事実上ストップしていますので、機能強化は望めません。サポートがないものをいつまで使い続けられるのかという不安もあります。もっと優れた情報共有ツールが欲しいと考えていました。
いくつか検討していく中で「Confluence」に出会いました。Wordライクなコンテンツエディターは使いやすく、部署(スペース)をまたがった横串検索機能も備えています。ユーザーの管理も容易で、オープンソースのPukiWikiとは異なりアトラシアンのサポートが受けられます。有償ではありますが、安価な価格体系で、コスト面で大きな負担を強いられることはありません。

そこで、まずは試してみようと、ダウンロード版のスターターライセンス(10ユーザー/10ドル)をポケットマネーで購入し、自分で環境を構築したのです。当社の文化や部署の性質上、社内サーバを自分で立てることは容易でした。

その後、全社導入にまで至ったと伺っています。何か特別な施策を展開したりしましたか?

最初は、私の部署でひっそりと使い始めました。そして、積極的にステルスマーケティングを続けて(笑)、利用のノウハウを蓄積していきました。
そうして若いメンバーに受け入れられはじめたので、その後はだんだんとベテランスタッフも巻き込んで行きました。ある程度増えると、後は速かったです。使いたいという社員が増えたので、本部(100ユーザーライセンス)へ拡張することに決めました。
このときは、さすがに上長の許可を得て会社として購入しました。「Gliffy」という図形描画ツールも一緒に購入したのですが、こちらを合わせてもとても安価だったので、すぐに承認が下りました。
ユーザーも増えたので、運用ポリシーを固めてマニュアルを作り、コンテンツをどんどん増やして行きました。このあたりで、具体的な全社導入のイメージは持っていました。運用ポリシーといってもガチガチにはせず、みんなが気軽に使ってくれるように心がけるという程度です。

Confluenceのダッシュボードには、ほかのユーザーの投稿が流れる「タイムライン」の機能があります。全体の投稿量が増えると、これをなんとなく見ているだけでも面白いんです。ライトな情報を増やしてもらった結果、タイムラインを見て楽しむというユーザーも増えてきましたね。しばらくすると100ユーザーでは足りなくなり、500ユーザーライセンスを購入することになりました。このライセンス数だと、本部長会などへの申請が必要です。しかし、すでにConfluence上には多くのドキュメントが掲載されており、社員も積極的に使ってくれていたので、その実績からすんなり承認されました。
こうして、どんどん人気が広まっていくフェーズへ移行できました。「使いたい人は連絡してください」というスタンスで運用していたのですが、毎日2~3人の申請が続きました。特に宣伝もしないのにユーザーがどんどん増えていくのです。

そして、とうとう全社導入が決まりました。私は全社導入を目標としていましたので、「勝利!」という気持ちです。
当社の社員は2,000人超というところですが、ここでは一気に10,000ユーザーライセンスを購入することに決めました。どうせならば、グループ全社員で使えるようにしたかったのです。

実は、ここまでの運用は私が1人でおこなっていました。しかし、2,000人にもなるとさすがに私の手には余りますので、運用管理を情報システム部門に任せることにしました。現在は、システムや管理を移行するための作業を進めているところです。
10ユーザーから100ユーザーまで、また100ユーザーから500ユーザーまでは、それぞれ6か月かかりました。ところが500ユーザーから全社導入は、たった3か月で決まりました。

ボトムアップ記録

皆さんに使ってもらうためのポイントは何かありますか?

自然とユーザーが増えていくという流れにしたいのであれば、いかに「参加したい」と思わせるかという点につきると思います。特にConfluenceの場合は、「いかに気軽に使ってもらうか」ということが重要です。
管理を私がやっていたのは、その気軽な運用を確立するためです。通常は情報システム部門にお願いするのかもしれませんが、情報システム部門では管理しなければならないソフトウェアが山のようにありますから、運用リスクを下げるために、ガチガチのマニュアルを作って、情報を統制したがるかもしれません。トップダウン的にツールを提供するだけでは、私が期待する“くだらない情報”を書いてはくれないのです。

個人的には、貴重な情報も、くだらない情報も、いろんなものが存在する玉石混淆の環境にしたいと思っています。情報が整理されていなくても、検索機能があるので、必要な情報には容易にアクセスできるはずです。できれば、会議の議事録や部署内のドキュメントであっても、全ユーザーに公開してほしいですね。

あとは、個人の自己紹介やブログなどを書くパーソナルスペースを積極的に使ってもらうことです。私は、このスペースを使ってConfluenceの使い方を練習するようにと呼びかけました。当社の新人社員も積極的に自分の意見ややりたいことなどを書いて、先輩社員からさまざまな意見をもらっているようです。これは、単なる情報共有のツールでも、単なる社内SNSでもできないことです。
ダッシュボードに他のスタッフのタイムラインが流れていくさまは、見ているだけで楽しく、出社したらチェックするという社員が大勢います。これがなければ、ここまで広まらなかったかもしれないとも思っています。

現在、全エンジニアにはアカウントが配布されていますが、営業スタッフや管理スタッフにはこれから広めていくところです。特に営業スタッフとエンジニアとは、密接な情報共有が必要だと考えているのですが、互いに保有しているドキュメント仕様が異なるなどの理由で、なかなか実現できていませんでした。
これまで、ExcelやPowerPoint、PDFなどのドキュメントに閉じていたデータが、Confluenceに書かれるようになることで検索がしやすく、開かれたデータになっていくため、これをきっかけに情報共有と協力の体制を強化できればと期待しています。