企業の意欲は高いが、問題点も多い新分野への応用

非製造業やサービス分野への展開については、そうした新応用分野に適用しようとする企業意欲は存在するが、問題点も多い。例えば、医療に関しては米国の手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ サージカルシステム」(画像10)が世界的にシェアを独占している状態で日本もその例に漏れないが、日本は技術はあるものの、臨床試験(実際に手術に応用する)に持って行くまでが非常に困難である(「何かあったら」を気にするためなのか、日本は行政から許可を得るのがなかなか難しい)。また、菅野教授が実際に福祉用途も想定したTWENDY-ONEの開発運用経験からして、コスト的に普及が難しいのがあるという。よって、新応用分野に興味を持つ企業もある一方で、産業界にはRTに関する閉塞感も存在しているとした。

画像10。ダ・ヴィンチ サージカルシステムによる手術のイメージ

さらに、ロボット研究とロボット産業間の乖離(かいり)も問題だという。ロボット研究は隆盛だが、その多くがエンターテイメント、移動(警備、掃除など)、情報端末、2足歩行、知能研究用に偏っており、研究開発成果が実用に結びつきにくい、つまり産業となりにくい状況に陥ってしまっているというのだ。よって、ロボットの研究を行っている大学や研究機関なども、もっと産業にアプローチすべきだといわれているという。

筆者も2足歩行ロボットが歩いたり階段を昇り降りしたりするのを見るのはすごいと思うし好きなのだが、それだけではダメだというのである。福祉用途が開発されているという見方もあるが、では実際に現場で使われているかというと、ありとあらゆる施設に行き渡っていたり、多数のひとり暮らししているお年寄りが恩恵を受けていたりするかというと、そうはなっていない。

確かにパロなどの一部のロボットは、実験的に導入している施設も全国にはあるわけだが、普及というにはまだまだなのも事実だろう。なかなか福祉用途が難しいのはまだ技術的な課題があるからだと、菅野教授はいう。自身もTWENDY-ONEを作って長年研究を重ねており、実際に感じている言葉でもあると思われる。

TWENDY-ONEのハンドは指先まで人間とそっくりな形状で作られており(画像11)、しかも多量のセンサが埋め込まれているので(画像12)、従来のロボットでは不可能な生卵を割ったり、リンゴの皮をむいたりといったことが可能だ(画像13)。しかし、そのために両手だけで数千万円かかっているそうで、機能的に介護の現場で介護士と同様なことができるようにしようとすると、コスト的に非常に難しいというわけである。

なお、後で詳しく話を伺ったところでは、この指先の形は非常に重要だという。人のものにそっくりにするだけで、従来のロボットハンドでは不可能だった人の手先のような繊細な操作が可能となり、形状そのものが機能の一端であるのだそうだ。

画像11(左):形状も人のものにそっくりに作られたTWENDY-ONEの指先。画像12(中):両手で241点×2の小型分布圧力センサがハンドの手のひらに埋め込まれており、これがものすごく高価だ。画像13(右):1998年にTWENDY-ONEの前身のロボット「WENDY」が卵を割ったシーン(早稲田大学の公式サイトより)