IEEEは9月2日、「世界のロボット事情と日本の現状」と題したプレスセミナーを開催した。講演を行ったのは、IEEEフェローでIEEE Robotics and Automation Society前会長の東北大学大学院 工学研究科 バイオロボティクス専攻の小菅一弘教授(画像1)、日本で誕生した国際学会「IROS(IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems)2013」の実行委員長である早稲田大学 理工学術院 創造理工学部教務主任と総合機械工学科教授を兼任する菅野重樹氏(画像2)、早稲田大学理工学術院 主任研究員の白井裕子准教授の3人(画像3)。

具体的には、世界のロボット事情よりも日本のロボットの現状、とりわけ農林業へのロボットの展開に関する話にウェイトを置いて、実際に複数台のロボットが持ち込まれてデモンストレーションなども行われた。その模様をお届けする。

画像1(左):東北大学大学院 工学研究科 バイオロボティクス専攻の小菅一弘教授。画像2(中):早稲田大学 理工学術院 創造理工学部教務主任兼総合機械工学科教授の菅野重樹氏。画像3(右):早稲田大学理工学術院 主任研究員の白井裕子准教授

おそらく理工系に興味のある読者の方ならIEEEがどのような組織かご存じかと思うが、改めて説明しておくと、創立130年近い歴史を有する、世界最大の技術者・研究者の組織で、160カ国・40万人以上(2011年時点で42万9085人)の会員を擁する非営利団体だ。

主に、論文誌の発行(世界の文献の30%を出版)、技術標準化(無線LANの最も普及している方式であるIEEE 802.11シリーズなど、2000以上の現行標準を策定)、年間1300以上の国際会議の開催などを行っている。要は、世界的な技術に関する最先端を知りたいのであれば、IEEEに入会し、各種情報を得れば間違いないというわけだ。ただし公式Webサイトは英語だし、入会(さまざまなサービスを受けられる)はもちろん有料。ただし、ニュースサイトなどは無料で見られるようになっている。

ロボットカーの実現に向けて先行する米国、出遅れ感が否めない日本

小菅教授により、まずはこうしたIEEEの紹介が行われた後、「海外に目を向けよう」と題して、海外のRT(ロボットテクノロジー)関連の情報が簡単ながら紹介された。読者の方の中にはアメリカの一部の州ではすでにロボットカー(自動運転車両)のグーグルカーがナンバープレートを与えられていることをご存じの方もいるだろう(画像4)。今回は、それを例に取り上げられた。国内ではトヨタ自動車や日産自動車もロボットカーの開発や発売(日産が2020年を目標に米国で発表)を発表しているが、日本では法的な問題で一般道でのロボットカーの走行は認められていない。

画像4。トヨタプリウスをベースにしたグーグルカー

国内では国土交通省の管轄で、同省は「オートパイロットシステム」と表しているが、2020年代初頭までに高速道路本線上(分合流時を除く)における高度な運転システムによる連続走行を、2020年代初冬以降に分合流部・渋滞多発箇所などの最適な走行を含む高度な運転支援システムによる連続走行を達成目標として、8月28日に実施された第6回オートパイロットシステムに関する検討会において実現に向けた中間取りまとめ(案)として発表している。

日本国内の自動車メーカーは、スバル(富士重工業)の「EYESIGHT」のような運転支援ならびに自動運転に関連する優れた技術を持っているのだが、法規制が足かせとなって結局のところ「まだ先の話」という雰囲気になってしまっている。しかし、このままだと自動運転技術に関してはいつもの如く米国主導になりそうで、小菅教授はその点を懸念しているという。

実際、グーグルカーが特例的にナンバープレートを与えられたというわけではなく、アメリカの各州ではどんどん自動運転車両に関する法規制が整備されている。2011年のネバダ州ではロボットカーの使用認可のための法規制を可決し、さらに2013年現在では、フロリダ、コロラド、ミシガン、そしてアメリカで最も影響の強い州の1つされるカリフォルニアも法整備を進めている。イギリスでも進んでいる状態だ。アメリカが率先しているのは、日本や韓国の自動車産業に逆転するため、ロボットカーに関してリードしようとしているからだそうである。

日本国内の感覚だけでいると、ロボットカーに関しては「まだまだ先の話」という雰囲気が漂う。しかし、世界的な視点で見るとそうではなく、すでにメーカー間、国家間の熾烈な主導権争いが始まっており、日本はメーカーはまだしも、国としては出遅れている感が否めないのがわかってくるのである。

小菅教授はそうしたことからも、「IEEEのような国際的な組織を通すことで、科学・技術をグローバルな視点から見ることで世界の見方が変わるようになるので、ぜひ海外にも目を向けてほしい」とした。また、特に若い人に対しては、「ぜひIEEEの活動に参加して、世界中に友人を見つけて、グローバルな人材として活躍してほしい」とも述べた。IEEEでロボット関連の情報をチェックしたい時は、特に入会しないのなら、公式サイト内のIEEE SPECTRUMのページはオススメの1つ、ということである。