ナノテク分野の優れた研究に贈られる「第10回 江崎玲於奈賞」の受賞者発表会見が9月3日、つくば市のつくば国際会議場で開催された。京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)拠点長/教授の北川進氏が、「革新的な多孔性金属錯体の開発」の研究で受賞した。

受賞者発表会見には、歴代のノーベル賞科学者である江崎玲於奈氏(1973年・物理学賞)、小柴昌俊氏(2002年・物理学賞)、白川英樹氏(2000年・化学賞)、野依良治氏(2001年・化学賞)、小林誠氏(2008年・物理学賞)らが審査員として集合した。宇宙飛行士の毛利衛氏、関彰商事代表取締役会長の関正夫氏も出席した。

審査メンバー。上段左から、毛利氏、野依氏、小林氏、関氏。下段左から小柴氏、江崎氏、白川氏

今回受賞した北川氏の研究テーマである多孔性金属錯体は、金属イオンと有機配位子から構成される新しい概念の多孔性配位高分子であり、活性炭やゼオライトなど既存の多孔性材料を凌駕する可能性のある新材料。北川氏は、この材料でメタンを大量に吸蔵できることを世界で初めて実証した。さらに、爆発性気体であるアセチレンガスの安定・大量貯蔵など画期的な成果を相次いで報告し、多孔性金属錯体に関する化学研究の世界的潮流を築いたことが受賞の理由となった。

審査員の野依氏は、「多孔性材料で物質を吸着するには、鍵と鍵穴の組み合わせを合わせる必要がある。北川氏の研究は、鍵穴となる多孔性材料の微細な孔の構造をナノレベルで精密に制御できるようにした点が非常に重要。吸着したい物質(鍵)に合わせて鍵穴を変えることで、これまでにない様々な材料を設計できる可能性がある」と同研究の意義を説明した。

多孔性金属錯体は、メタンやアセチレン吸蔵以外にも、水素貯蔵や炭酸ガス吸蔵など環境エネルギー分野に応用できる可能性もある。水素については、現状では吸蔵するとき低温にする必要があるなど実用化への課題も多く、今後の研究開発の進展が期待される。吸着材料としての利用以外にも、多孔性金属錯体の規則的なナノ空間を反応場として利用することでプラスチック分子の一本一本を同じ方向に高精度で整列させ、高性能のスーパーエンプラ材料を作る研究などが進んでいる。多孔性金属錯体の構造が真空中でも安定であることから、毛利氏は「将来的には宇宙航空用材料としても利用できるのでは」とのコメントを寄せた。

同賞の主催は、つくばサイエンス・アカデミーと茨城県。表彰によって、科学技術創造立県としての茨城県をアピールするねらいもある。審査委員長の江崎氏は、1万人以上の研究者が集まるつくば研究学園都市で生まれた研究の中から「これからノーベル賞を受賞する成果も出てくるだろう」と期待を述べた。

なお、江崎玲於奈賞と同時に、「第24回つくば賞」を筑波大学生命環境系生物科学専攻教授の林純一氏(哺乳類ミトコンドリアゲノムの生理基盤とその破綻病理に関する研究)、「第23回つくば奨励賞(実用化研究部門)」を物質・材料研究機構 中核機能部門材料創製・加工ステーション長の鳥塚史郎氏(鋼のナノ組織化を用いた高強度精密ねじの量産化)、同賞(若手研究者部門)を物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点独立研究者の吉川元起氏(超高感度ナノメカニカル膜型表面応力センサー)が受賞したことも発表された。