8月25日から5日間、米国サンフランシスコで開催された「VMworld 2013」では、データセンターの構成要素をすべて仮想化し、ポリシーベースで自動化する「Software-Defined Data Center(以下、SDDC)」の重要性と、「VMware vSphere」を基盤に構築されたIaaS(Infrastructure as a service)である「VMware vCloud Hybrid Service」の有用性が強調された。

VMwareでCEOを務めるPat Gelsinger(パット・ゲルシンガー)氏

特に「VMware vCloud Hybrid Service」は、米国内で早期導入プログラムが実施されており、「利用者からの評価は高い」(VMware幹部)。日本を含むアジア太平洋地域での提供開始は2014年中の予定だが、VMware日本法人代表取締役社長の三木泰雄氏は、「すでにクラウドサービスを導入されているお客様からの、ハイブリッドクラウド対するニーズは高い」と語る。

2013年度の事業戦略発表会でも「SDDC」と「ハイブリッドクラウド」への注力を明言し、その戦略を着実に実行しているVMware。VMworld 2013期間中、同社でCEOを務めるPat Gelsinger(パット・ゲルシンガー)氏は日本メディアのグループインタビューに応じ、今後の戦略などについて語った。

――「VMware vCloud Hybrid Service」と既存のクラウドサービスを比較した場合、その差別化ポイントは何か。特にパブリッククラウド市場においては、米国Amazon.comの「Amazon Web Services(AWS)」が大きな存在となっている。

Gelsinger氏 : 「VMware vCloud Hybrid Service」は、プライベート(クラウド)/パブリック(クラウド)を問わず、シームレスに拡張できることを主眼に置いている。すでにわれわれは多くの顧客を獲得している。彼らがプライベートクラウドと共通のセキュリティ/ポリシーで、アプリケーションをまったく変更することなく、パブリッククラウドに移行できるのが大きな特徴だ。

一方、AWSはクラウドから生まれたもので、新しいアプリケーションを彼らのプライマリサービス上で稼働させるものだ。つまり、アプリケーションは、彼らの要求された形で、AWS上でしか利用できず、そのための開発と技術が要求される。もちろん、彼らがクラウド市場で成功していることは事実で、それはすばらしいことだ。「パブリッククラウドサービスの提供」という意味においては、一部で競合するだろう。しかし、同市場内での「ポーション」は異なり、訴求する顧客層も違うと考えている。

――「VMware vCloud Hybrid Service」のターゲットとなる顧客層を教えてほしい。特定の業種などを想定しているのか。

Gelsinger氏 : 既存ユーザーは、今までと同じ操作性でシームレスに利用できる。そういった意味では、すべての既存ユーザーがターゲット顧客と言えるだろう。われわれの顧客は、グローバルにビジネスを展開する金融グループから小売り、教育分野、オークションサイトなど多岐に渡る。「どの分野に特化した」という垂直型でのアプローチはしない。

――クラウド市場での差別化という意味において、「OpenStack」との違いをどう説明するか。

Gelsinger氏 : OpenStackは、ユーザー自身がクラウドを構築するために提供されるフレームワークだ。一方われわれは、ユーザーが構築する必要のない、完成度の高い(クラウド)環境を提供している。こうしたクラウド環境を構築する製品/技術の開発にわれわれは、10年以上の歳月を費やしている。「成熟した環境」と言ってよいだろう。一方、OpenStack(の技術力)は、われわれと同等の水準に達していない。

しかし、OpenStackの利用を検討する顧客が一定数存在するのも確かだ。特にサービスプロバイダーなどからは「自分たちの環境に(クラウドを)合わせたい」といった要望があることも理解している。そうした顧客に対しわれわれは、VMwareのコンポーネントテクノロジーをOpenStack向けに提供している。これによって顧客は、仮想化ネットワークである「VMware NSX」を利用することも可能になる。

記者会見に応じるPat Gelsinger(パット・ゲルシンガー)氏。会見ではAWSやMicrosoftのAzureなど競合する(と思われる)サービスについての質問が多く寄せられた

――仮想化市場での戦略について伺いたい。同市場は堅調に拡大しているが、他社と比較し、VMwareのアドバンテージは何か。

Gelsinger氏 : われわれは仮想化技術の進化を通じ、顧客のROI(投資収益率)の向上に貢献してきた。こうしたベンダーはほかにいないだろう。たとえば、われわれのハイパーバイザーは、他社のハイパーバイザーと比較して平均50%多くのVMを実装できる。つまり、マネージメントにかかる手間や、消費電力、冷却に要するコストなどがそのぶん削減できるのだ。今後ハイパーバイザー(市場)が成熟したとしても、こうした技術面での優位性は揺らぐものではないと確信している。

――今後、仮想化プラットフォームを包含した("Cloud in a Box"のような)ハードウェアを提供する可能性はあるのか。

Gelsinger氏 : 現時点ではハードウェア事業に参入する計画はまったくない。われわれはソフトウェア企業であり、今後もそうあり続ける。