高速通信のLTEに対応したスマートフォンの本格普及が進む中、通信各社はLTEサービスのエリア拡大や高速化に取り組んでいる。LTEサービスを快適に使えるかどうかの指標としてしばしば取り上げられるのが、どのくらいのエリアをカバーしているかという人口カバー率だが、現状では各社の人口カバー率の算出方法が異なるほか、LTEエリアであっても実際にはLTEに接続できなかったり、思ったほど通信速度が出ないといった問題もある。そこで着目したいのが、LTEが利用する周波数帯だ。スマートフォンや携帯電話が利用する電波には周波数の違いがあり、周波数によって電波の性質も異なり、届きやすさなどに違いが生じてくる。本稿では、周波数帯に着目しながら、通信各社のLTEネットワークの現状について解説していきたい。

通信各社がLTEに利用する周波数帯の違い

通信各社がLTEに利用している周波数帯には違いがある。ドコモがLTEに利用している周波数帯は800MHz・1.5GHz・2GHz帯の3種類、KDDIの周波数帯は800MHz・1.5GHz・2GHz帯の3種類、ソフトバンクの周波数帯は1.7GHz・2GHz帯の2種類となっている。また、Android端末とiPhone 5では対応する周波数帯が異なるように、スマートフォンのOSや発売時期によっても利用できる周波数帯が違っている状況だ。LTEと一口に言っても、これらの周波数帯の違いによって、電波の届きやすさや通信速度などに違いが生じてくる。

各社がLTEに利用する周波数帯の中でも、とくに注目すべきはドコモとKDDIが利用する800MHz帯だ。電波の周波数帯のうち700MHz帯から900MHz帯までは「プラチナバンド」とも呼ばれている。これらの周波数帯は減衰が少なく、障害物を回り込む性質があるため、遠くの場所やビル陰などにもよく届き、つながりやすいのが特長。プラチナバンドを利用するLTEが「プラチナLTE」であり、つながりやすいLTEネットワークとなる。

それでは、各社の周波数帯の状況について詳しく見てみよう。主要3キャリアでもっとも早く、2010年末にLTEサービスを開始したドコモは、まず2GHz帯から提供を始め、その後、1.5GHz・800MHz帯にもLTEを展開している。高速化を進めているのは1.5GHz帯で、一部地域で下り最大100Mbpsの高速サービスを開始している。なお、今後LTE Cat.4端末が投入されることで下り最大112.5Mbpsに対応可能となる。また、同社が保有する1.7GHz帯でも2013年度中にLTEサービスを開始予定で、この周波数帯では下り最大150Mbpsを実現する方針だ。ドコモのLTEでメインになると思われるのは、この1.5GHz・1.7GHz・2GHz帯の3つで、プラチナLTEである800MHz帯の展開は消極的だ。これは、3GのFOMAでも800MHz帯を利用しており、LTEで利用できる幅に制約があるためで、現在800MHz帯のLTEを利用できるエリアであっても5MHz幅の下り最大37.5Mbpsのサービスとなっている。

KDDIでは、800MHz・1.5GHz・2GHz帯という3つの周波数帯をLTEネットワークに利用しており、それぞれの周波数帯ごとに役割や位置付けが異なっている。まず、メインの周波数帯としてエリア展開しているのがプラチナLTEの800MHz帯であり、同周波数帯の下り最大75Mbps対応エリアの実人口カバー率は2013年5月末時点で99%となっている。また、1.5GHz帯はトラフィック対策として主要駅などでスポット的に利用していく方針だ。iOS端末でも利用できる2GHz帯では、より高速なサービスを提供していく。下り最大100Mbpsの高速サービスを一部地域から提供開始しており、今後リリースされる見込みのLTE Cat.4端末では、下り最大112.5Mbpsまで対応可能となる。さらに将来的には2GHz帯を20MHz幅まで拡張し、下り最大150Mbpsの高速サービスを開始する予定だ。プラチナLTEの800MHz帯をメインにエリア展開しているのがKDDIの特徴だが、800MHz帯を利用できるのはAndroid端末のみとなっている。今後リリースされるiOS端末でも800MHz帯への対応が切望されるところだ。

ソフトバンクは同社が所有する2GHz帯に加え、買収したイー・アクセス所有の1.7GHz帯を併用してLTEサービスを展開している。なお、現在のところLTEに対応しているスマートフォンはiPhone 5のみで、同社のAndroid端末はAXGP方式のSoftBank 4Gに対応と、OSごとに通信方式が異なっている状況だ。また、メインである2GHz帯については、LTEで利用する幅の確保に苦慮している状況で、これは同社が3Gネットワークでも2GHz帯をメインで使っていることによる。そのため、10MHz幅を確保して下り最大75Mbpsに対応しているエリアはごく一部に限られる。なお、ソフトバンクはプラチナバンドである900MHz帯も所有しているが、現在は3Gのみで利用しており、LTEでは利用していない。900MHz帯を利用したプラチナLTEは、2014年のサービス開始を予定している。

通信各社の周波数帯の状況は上記のようになっているが、同じキャリアのスマートフォンでもOSや発売時期によって対応する通信方式や周波数帯が異なっており、このことが混乱を招く原因にもなっていた。

「プラチナLTE」についてKDDI広報に聞いた

主要3キャリアのうち、プラチナLTEである800MHz帯でのサービス提供を行っているのはドコモとKDDIの2社。その中でも800MHz帯をメインにエリア展開しているKDDIの広報に、プラチナLTEの特徴などについて話を伺った。

800MHz帯をメインにエリアを整備している理由については、「もともと3Gではいわゆるプラチナバンドと称される800MHzをメインにエリアを構築し、電波特性上高速データ通信に向いている2GHzを800MHzのエリアに重ね、高品質なNWを提供してきた。LTEでは、3Gで構築したメインバンドの800MHzをベースにしつつ2GHzを急速に拡大し、さらに1.5GHzを重ねることで、大容量データ通信に対応していく。3Gで構築した800MHzのエリアの広さを活かしてLTEが提供できるため、途切れにくく安定した高速データ通信を提供することが可能」とのこと。

LTEネットワークにおいて3つの周波数帯を利用する同社だが、このメリットについて、「3つの周波数でLTEを展開することにより、エリアの広さはもとより、アクセスする場所ごとに最適な電波(周波数)で快適なデータ通信の提供を実現できる」としている。

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通信各社のLTEサービスについて、周波数帯に着目して解説してきた。一口にLTEと言っても、各社がLTEで利用している周波数帯には違いがあり、そのうちプラチナバンド帯域でLTEサービスを展開しているのは、ドコモとKDDIだ。この通称「プラチナLTE」は、よく届いてつながりやすく且つ高速なのが特長。一方、ソフトバンクはプラチナバンドではLTEを展開していない。今後、通信量が増大しネットワークの品質が問われるに従って、通信各社の周波数帯とLTEを巡る戦略はますます注目される。