【レポート】

日本TIの新社長に就任した田口氏が語ったこれからの半導体ビジネス戦略

日本テキサス・インスツルメンツ(日本TI)は8月1日、都内のホテルにおいて新しく社長に就任した田口倫彰氏により、同社のビジネスの状況に関する説明会を行なった(Photo01)。もっとも「新しく」と書いたものの、この人事は今年3月に発表され、4月からは田口氏が実際に社長として就任しているので、厳密には「新しく」とは言いにくい側面もあるが、今回は田口氏が社長として初めて記者説明会に参加するということで、対外的には新社長のお披露目という形になっている。

Photo01:新社長の田口倫彰氏。氏は1981年に日本TIに新入社員として入社され、以後30年以上を同社ですごした、いわば生え抜きである

それはともかくとして、まずはビジネス概観から。2013年前半で言うと、アナログ34億ドル、組み込みプロセッシング11.8億ドルで、同社のビジネス全体の売り上げの8割近くをこの2つが担う形になる(Photo02)。このあたりは、アナログ重視に舵を切った戦略が効を奏しているとも言える。ちょっと皮肉なのは、2012年にこれをあらためて強調した説明会で発表を行なったGregg Lowe氏が、今では競合するFreescale SemiconductorのCEOに収まっている事であろうか。

Photo02:氏によれば、この2つの比率は2006年には40%以下だったとの事

さてそのTIの基本戦略がこちらである(Photo03)。ある意味王道というか、小細工を挟まない戦略である。具体的にはまず製品ラインアップの充実(Photo04)であるが、いわゆるセンサの取り込みのAFE(Analog Front End)からADC経由で取り込んで処理を行ない、これをユーザーに返す部分までのほぼ全分野に渡って製品ポートフォリオを用意しているのが同社の強みであり、また必要とする数が少なくてASICを用意できないようなケースでも汎用品とASSPの組み合わせでソリューションが提供できるとしている(Photo05)。

Photo03:氏が特に強調したのが、充実の営業・技術サービスで、具体的にはFAE(Field Application Engineer)をお客様の元に貼り付ける形でサポートを充実化する、という話であった

Photo04:赤がアナログ、緑がデジタルの部分になる。もっとも同社の場合、DLPなど一部例外はあるものの、MEMSに関してはやや遅れている印象がある。これに関しては、MEMSを使ったセンサなどそのものよりも、AFEに力を入れてゆくとした

Photo05:ASSPに関しては、特に自動車向けでは多いという話であった

また様々なリファレンスデザインを提供できるのも同社の強み(Photo06)としており、これらを利用することで膨大な製品に利用されているという話であった(Photo07)。

Photo06:3Dプリントに関しては、元となる3Dモデルの構築を、同社のDLPをベースにしたセンサを使う事で高速かつ高精度にサンプリング可能になるという話であった

Photo07:この中でスマートホームに関しては、まず電力計の置き換えとなるスマートメータのマーケットがまず膨大であり、ここからさらにホームオートメーションやスマートホームに展開してゆくという見通しが語られた

またTIの強みの1つは膨大なセンサとそれを支えるインフラである。もっとも膨大なセンサといっても大半はアナログセンサで、旧National Semiconductor(NS)の保有していた製品ポートフォリオを丸ごと提供しているわけであるが(Photo08)、これに加えて様々な形での技術サポートや標準化への取り組みなどもバリューとなっていることが説明された(Photo09)。

Photo08:先ほどのMEMSに関して田口氏曰く「確かにMEMSセンサでは出遅れているし、AFE一体型のMEMSでは当社のソリューションは利用できないが、こうした一体型を遥かに上回る勢いでセンサマーケット全体が広がっており、なのでAFEに注力する方向で考えている」という話であった

Photo09:色々話題になったのがベア・ダイでの供給を始めること。これによって顧客はセンサとAFEなどを好みのパッケージにまとめることで、全体としての小型化が可能になる

また生産拠点に関しては、どの製品についても必ず複数のFabで生産を行う形で継続供給を行なう準備を整えているほか、BCPだけに専念して常にモニタリングを行なうチームを別途用意しており、TI自社のみならずTIが契約するサプライチェーン全体をチェックしていることが明らかにされた。

ということで全体としてはそれほど目新しい話はないのだが、質疑応答に絡んで幾つか。まずセンサについては、センサそのものはもちろん既存の製品ラインを維持してゆくが、センサそのものの事業部は2006年に一度売却しており、ただし2011年のNSの買収によって再びアナログセンサのポートフォリオを持つことになった、というやや微妙な経緯である。そのためセンサそのものの製品ラインを増やすことは考えておらず、むしろAFEに注力するという話であった。

これに絡んでFabの話であるが、現在同社は会津工場を含み全部で11のFabを保有している。これらのほとんどはアナログであり、特に2009年に建設されたRFABはアナログ向けに300mmウェハを投入した初のFabである。これに関して、同社はデジタルに関してはFabless/Fab liteなど外部のリソースを使うとしても、アナログは逆に自社ですべて賄うことが同社にとっての最大のバリューであると認識しており、今後もこの方針を貫くとしていた。

Photo10:ちなみに現在同社は11の前処理Fabを保有している

また同社はアナログ部品で40種類ものプロセスを持っており、これを複数のFabで並行して製造する関係で、煩雑にプロセスの切り替えが必要になるため、この際の待ち時間をいかに減らすかが生産性向上の鍵になる。このプロセスの切り替えの迅速化に関しては、同社の会津工場が最先端のレベルにあり、会津工場から世界中の他のFabにその方法を広めるといった状態になっているそうである。

もう1つFabつながりでベア・ダイでの供給について。ウェハあるいはベアダイの形での製品納入という形態そのものは他社でも例があるので珍しいという訳ではないが、TIの場合はウェハレベルで完全に製品検査を行なえる技術が確立できたことで、これの供給に踏み切ったそうである。これはあくまでもセンサ関連チップ向けにまずは開始され、ゆくゆくは関連するマイコンとかコネクティビティまで対応を広げてゆきたいそうである。

ところで先ほどのPhoto05に絡み、ASSP+汎用ロジックで開発していた、少量出荷製品あるいは新規分野向けといったところのマーケットは、現在FPGAと競合するのでは? と水を向けてみたところ、「確かに競合する部分もあるものの、これまでも実はFPGAとは共存してきた状態にあり、例えば製品が間に合わないといった時にはFPGAに助けられてきたりしたこともあった。ということで、TIとしてのFPGAに対するスタンスはこれまでと変わらない」という返事だったのはなかなか面白い。また今回の製品展開の中では触れられなかったNetwork Processorに関しては、LTE世代までに関してはすでにDesign Winをいくつもとって採用実績も多いが、SDNに関してはこれから、との事だった。

ということで同社の比較的好調な面を中心にビジネスの説明が行なわれたが、いくつか不安な面もある。1つはMCU部門である。TIの場合、自動車をはじめとする機能安全向けのSafeTIに属するいくつか、及びデジタル電源などに使われるC2000系のC28xコア製品など特定用途向けはともかく、汎用といってよい16bitのMSP430も決して順調とはいえないし、またCortex-M3をベースにしていたStellarisシリーズは先般Tivaシリーズと名前を変えたものの、競合製品への優位性を出しにくいということでこちらも苦戦している。このマーケットは、省電力向けはCortex-M0+、高機能/高性能はCortex-M3/M4でほぼ基本が決まり、あとはよほど何か差別化できる周辺回路などを搭載しない限り、差を見出しにくくなっている。このあたりは日本TIがどうこうという話ではなくTI全体の問題であるのだが、Photo04にもあるように組み込みプロセッシングが必要なコンポーネントとして認識されている以上、何らかのてこ入れは必要であろう。

もう1つが、最近同社がSafeTIとして強力に製品展開を行なっている自動車向けであるが、ワールドワイドではともかく日本の自動車メーカーに関してどんな展開をしてゆくのかについて、今回は一切言及がなかったのは、あるいはまだその時期ではないのかもしれない。ただ同社としても日本の自動車メーカーの攻略は非常に重要なファクターになると思われるだけに、このあたりの動向も気になるところである。



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