区が運営するプールに見る「われわれの将来」

私はたまに、区が運営している地元のプールへ行く。そこで日頃の職場での精神的なストレスを発散するためだ。しかし、その施設に行くたび事に、別のストレスを抱え込むことになるのである。

区の施設であるが故に、幅広い年齢層がそこには訪れるし、そのニーズに応えるため、さまざまな施設がそこにはある。その中には、私を含む若者層が決して訪れることができない場所も存在している。いわゆる高齢者用の温泉施設だ。そこは他の施設とは完全に隔離されている場所で、私たちは決して目に触れないところとなっている。他の施設とは別フロアにしているそこには、温泉設備はもとより娯楽施設も多数存在している。

「私も近い将来、この施設を使うことになるのだろうか?」と考えたりするわけだが、私を憂鬱にさせるのは、その施設の使用料が無料ということだ。頭ではわかっているつもりだ。今の年金受給者は戦後復興を支えた世代、高度経済成長を牽引してきた世代なのだから、それを社会福祉で報いるのは当然である。

だが、そうした世代の方々の生活を見るにつけ、うらやましく思うのは単なる妬みだろうか。その施設には決まって夫婦で来る方がいるのだが、そこで使われる車は最新式のドイツ車なのだ。まさに悠々自適の年金生活とは、こういうことなのだろう。

果たして、われわれが年金受給者となる30年~40年後は、このような生活が送れるのだろうか?

「アベノミクス」と「年金生活者」の関係

昨年末、自民党が総選挙で圧勝し、自公連立政権が誕生することとなった。そして安倍晋三政権が打ち出した政策、それが"アベノミクス"であり、それを補完するべく、日銀総裁には、安倍政権を側面支援するために黒田東彦元財務官が就いたのであった。

その黒田日銀総裁が打ち出したこと、これが"異次元緩和"という、世界の中央銀行がこれまでかつてやったことのない政策。デフレから緩やかなインフレを目指すというものだが、これが本当におきた場合、真っ先に影響を受けることになるのが年金受給者だ。なぜなら毎年決まった額の支給を受ける年金は、インフレの進行で実質的に減額されることになるからだ。またこの時、同時に留意するべきこと、それは通貨価値としての"円"のことだ。われわれの年金受給がはじまる数十年後、日本円の信任がどこまで得られているのかだ。

実は、こうした懸念をいち早く警告していた人物がいた。元財務官である加藤隆俊氏であった。安倍政権が脱デフレ(※1)からの脱却を叫んで政権を発足させた直後、国際金融情報センター理事長である加藤氏が、「政府・国会が2%程度のインフレ(※1)目標導入を急いだ場合、深刻な副作用が生じかねない」と指摘していたのである。

※1 インフレーション : (継続的に物価水準が上昇し、相対的に貨幣の価値が下落する状態)⇔デフレーション(継続的に物価水準が下落し、相対的に貨幣の価値が上昇する状態)

さらに同氏は、「日本経済は生産年齢人口の減少や少子高齢化を背景に名目GDP(※2)が縮小傾向にある『世界で他に例がない』状況だ」と指摘した上で、インフレ目標を導入するだけで経済が活性化し名目成長が上昇するほど「問題は単純ではない」と指摘、むしろ長期債利回りの上昇への懸念を述べていたのである。ここでの長期金利の上昇とは、、悪い金利上昇=急激なインフレ懸念なのである。

※2 名目GDP : 国内総生産のうち、1年の経済活動の水準を市場の価格で算出したもの

緩やかなインフレを維持するというのは、実は非常に難しいのである。政策運営、財政再建の進行度合いによっては緩やかな円安から、加速度的な円安ともなれば輸入物価の上昇により緩やかなインフレに留まらず、ハイパーインフレ(※3)に発展しうるのだ。そのときは、年金受給者の生活を直撃する事態に追い込まれることになるのである。

※3ハイパー・インフレーション : 物価水準が1年間に、数倍~数十倍に上昇するインフレーション

なぜなら、海外からの信任を失った通貨円の下落は円、そのものの価値の減価を意味することであり、その円で受給を受ける年金生活者はその減価された分、貧困化が進むことになるのである。そしてそのころには、円高時代を懐かしむ人も増えるかもしれない。

これから世界で起きること--それは「債務危機」による年金問題

これから世界で起きること、それは「債務危機」による年金問題ということだ。それは何も日本に留まらず、欧米主要先進国に共通するテーマとなりそうで、かつそれを軸として様々な問題が各国で噴出する、それがこれからということがいえるのではないか?

米国の場合は今後、連邦債務問題、地方財政債務問題が年金基金問題に波及することになりそうだし、欧州にあってはこれまで周縁国の債務問題であり、それに起因する形での危機であったわけだが、これは今後フランス、そしてドイツなど主要国に波及する可能性がある。その過程で高福祉、硬直的な労使体系を突き動かす問題に発展することになりそうだ。それら先進国間でのこうした共通問題を提起することになるのが、「グローバリゼーション(※4)」ということになるのだろう。

※4 グローバリゼーション : 移動手段、通信技術の高速化・進化により、国家や地域の境界を越えて、地球規模での社会の結びつきが強くなることに伴う、社会的、文化的、経済的な変化

「消費税増税」後の"社会保障制度改革"はどうなる?

これは何も企業のみに留まる話ではなく、国レベルでの問題ともなるのである。このグローバリゼーションにうまく適応できない企業や国は、端的に言うと生産性や競争力の向上に問題があるとされている。それゆえ、その国民は着実に人々の生活レベルを押し下げることになる。

最近、欧州危機で話題になったアイルランドなどがよい例である。

アイルランド政府、アイルランド企業が、アイルランド国民に求めたこと、それは、

  • 給与が下がって納得しますか?

  • 年金支払いが下がって納得しますか?

  • 年金支払い開始時期が後ずれしても納得しますか?

  • 雇用解雇基準か緩和されて納得しますか?

ということであった。

こうした"問いかけ"が米、欧州ともに噴出することになりそうなのが中国であり、日本なのであるが、日本のそれは、欧米と対比して重傷度は極めて高いといえる。

世界で一番「少子高齢化」が進んでいるのは、日本である。最近では、高齢化問題で筆頭に上がるのは「消費税増税」問題である。先の衆議院選挙でもこの問題に中途半端に取り組もうとして失敗したのが民主党政権であり、そして選挙に大敗し下野してしまった。代わってこの問題から目をそらさず、真正面から取り組む姿勢が評価され再登板となったのが安倍首相であり、自公連立政権ということになったのである。

アベノミクスという武器を駆使して景気浮揚を図り、それを通じて消費税増税を乗り切ろうとしているわけだが、その後に控えているのが社会保障制度改革ということになる。そこで必然的に議論となるのが、先のアイルランドの例を示したように、年金の支給開始年齢引き上げであり、支給額減額(インフレ化による減価)を容認することであり、老齢者控除の削減となるのである。

「アンダー40'Sに告ぐ」

冒頭で示した優雅な老後は、少なくとも今後数十年後に年金受給となるわれわれの世代で想定できないことは、先の欧州危機で明らかとなった。

自分の老後は自分で切り開く、そんな気概が今、われわれに求められているのかも知れない。だからこそ、今からコツコツではあっても大胆に、貯蓄型投資が必要なのである。