グーグルは6月13日、同社オフィスにてGoogleのアクセシビリティに関する取り組みを紹介する説明会を開催した。説明会には、米Googleでアクセシビリティチームを率いるT.V ラマーン氏が登壇。アクセシビリティに対するGoogleの方針を示すとともに、全盲のラマーン氏が普段Android端末を使用する様子も紹介された。

アクセシビリティ向上は「オンライン化」と「プラットフォーム」の両輪で!

T.V ラマーン氏

T.V ラマーン氏はGoogleで8年目を迎えるソフトウェアエンジニア。アクセシビリティチームを率いる立場にあり、Googleプロダクト/サービスの開発チームに対してアクセシビリティ向上のアドバイスなどを行っている。

ラマーン氏はまず、Google全体の取り組みを整理。同社の活動は、「情報のオンライン化」と「プラットフォームの開発」の2つに分けられるとした。

前者の例としてGoogle BooksやGmail、YouTube、Google Maps、Google Earthなどを挙げ、書籍から地理情報まで、できるだけ多くの情報をクラウド上に展開する取り組みを行っていることを説明。また、後者の例としてAndroidとChromeを挙げ、オンラインの情報にアクセスするためのプラットフォームの開発に力を入れていると明かした。

そして、同氏が取り組むアクセシビリティは、これらの中間に位置するという。障害を持つユーザーが、いかにしてさまざまな情報に触れられるようにするか。オンライン化とプラットフォーム改善の両輪で、こうしたテーマに取り組んでいる。

オープンの大切さ

ラマーン氏の業務は大きく2つあるという。

1つは、プロダクト/サービスの開発チームと緊密に連携しながらアクセシビリティの向上を実現していくこと。「GmailやAndroid、Chromeを、さまざまな障害を持った人でも使えるようにするにはどうすればよいのか」、そのような視点で開発チームに機能強化を依頼する。

そしてもう1つは、これまで障害者が得られなかった新たな体験を模索すること。現在のところ、こちらを実現する手段としてはスマートフォンが有効だという。

「スマートフォンは単なる電話ではなく、カメラやスピーカー、マイク、GPSなどが付いた高機能端末。ユーザーの状況を把握できるし、ユーザーと対話することもできる。これを活用すれば、もっと便利な世界を作れる」(ラマーン氏)

いずれの業務においても、ラマーン氏が大切にしているのは「オープンであること」。ここでいうオープンとは、技術面だけでなく、対象ユーザーも指している。

例えば、AndroidやChromeでは、スピーチ機能やタッチ操作時のバイブレーション応答機能などが基本機能の中に組み込まれている。その背景には、「特別なソフトを購入しないと使えないのであれば、それは手に入らないこととほぼ同じ」との考えがあり、障害者でも有料ソフトを購入することなく利用できる環境を整えているのだという。

また、提供されているAPIを利用すれば特殊な要件にも対応することが可能。多様なニーズにも柔軟に対応できるよう配慮している。「過去には寝たきりの障害者向けに、すべての操作をボタン1つで行えるインタフェースも開発されている」といった事例も紹介した。

障害者はITのアーリーアダプター

ラマーン氏は、「障害者はITのアーリーアダプター」と語る。

例えば、Androidのスピーチ機能は、視覚障害者向けに2008年から組み込まれている。しばらく時を置き、翌年になると、同じスピーチ機能がドライバー向けとして、少しかたちを変えてリリースされる。「この例のように、障害者向けの機能が、一般ユーザーの利便性を高めるものとして応用されるケースが多い」という。

さらにラマーン氏は、最新のアクセシビリティ機能を紹介するために、自身がどのようにAndroid端末を使っているのかを説明。今回の訪日にあたっては、スケジュールや必要資料をGoogle Docsにアップロードしてもらった後、それをPCやAndroid端末にダウンロードしておき、飛行機内でスピーチ機能を使って確認したという。

「デジタルデータで共有してもらうことで、私一人でも内容を確認できる。紙の印刷では難しかったことで、素晴らしい技術革新」(ラマーン氏)

なお、ラーマン氏は、1990年代からスピーチ機能を使ってニュースなどをPCでチェックしていたという。当時のメディアはまだ紙が主流。Webでのニュース閲覧が一般化するのは2003年頃と、何年も後のことになる。こうした状況を振り返り、「障害者は必然的に最新技術を使いはじめることになる。障害者がITのアリーアダプターたるゆえんはそういった点にある」と語った。

続いてラマーン氏は、羽田空港到着後にGoogle Nowを使ってホテルの情報を検索したことを説明。その画面をタクシー運転手に見せて、目的地を伝えたという。

こちらの例については、「健常者でも現地語を話せない場合などに有効」と紹介。アクセシビリティ向上機能が、一般ユーザーの生活を楽にする面でも役立つことを強調した。

また東京タワーなどの名所では、Android端末から検索することにより関連情報を入手できることを説明。「通常はパンフレットなどから情報を得るのだろうが、全盲者の場合はそれをだれかに読んでもらうか、点字案内を探さなければならない。しかし、Android端末があれば、自分が必要とする情報を探し出して音声で案内してもらえる」とメリットを語った。

さらに、ラマーン氏は、Intersection Explorerという地図アプリを導入し、道案内ができるようになっていることなども紹介した。

検索の様子。タッチした箇所がオレンジ色の枠で囲われ、その内容を読み上げられる

キーボードを操作するときの様子。文字に触れると端末が振動し、触れた文字が音声で伝えられる。指を離すと文字の選択が確定する

最後にラマーン氏は、Chrome向けにChromeVoxというスピーチアプリを提供していることや、ChromeVoxのプロジェクトサイトでは無償のテストツールを提供していることなども紹介し、アクセシビリティ向上の開発にも積極的に参加してほしいと広く呼び掛けた。