WWDC 2013の基調講演の序盤と中盤は、ポストPC時代にMacが着実に進化し続けるのをアピールするような内容になった。10番目のメジャーリリースを迎えて、次期OS Xを「Mavericks」と命名。「MacBook Air」のラインナップを刷新し、スニークピーク(のぞき見)という形で次世代の「Mac Pro」のプレビューを披露した。

Mac OS X/OS Xは代々ネコ科の動物の名前をコードネームに持っていたが、次期版の「Mavericks」は北カリフォルニアのサーフスポットである。ソフトウエアエンジニアリング担当シニアバイスプレジデントのクレイグ・フェデリギ氏は「ネコ科の動物が見当たらなくなったという理由でリリースが遅れた初のソフトウエアにはなりたくない」とネーミング方法の変更をジョークにしていたが、10番目という節目のリリースを迎えて、新たに10年の歴史を築いていけるように名称を改めた。今後はAppleが本拠を置くカリフォルニアをテーマにした名称が続く模様だ。

ネコ科はそろそろ打ち止め、だからといって「Sea Lion」(アシカ)はちょっと……

カリフォルニアにちなんだ名前を採用

OS Xにビッグウエーブを起こす「Mavericks」

左からMarvericksに搭載されるiBooks、マップ、そして強化される通知センター

ネーミングはがらりと変わるが、どちらかといえば変化しないことがMavericksの特徴といえる。iOSの機能を取り入れ、iCloudをハブにiOSデバイスとの連携を強化する。またポストPC世代のMacの特徴を活かして、効率的にパフォーマンスを引き出す数々の技術を備えるなど、OS X LionやMountain Lionの順当進化と言える。

200以上もあるというMavericksの新機能の中から、フェデリギ氏は基調講演で以下のような機能を取り上げた。

  • Finderタブ:複数のFinderウインドウをタブで1つのウインドウにまとめる。
  • Tags:タグ付けしてファイルを管理。Finderのサイドバーにタグ・リストが表示され、同じタグが付けられたローカルディスク内とiCloud内のファイルにまとめてアクセスできる。
  • マルチプル・ディスプレイ:複数のディスプレイを備えた環境で、ディスプレイごとの独立性が保たれる。プライマリー、セカンダリーといった違いがなく、全てのディスプレイがメニューバーを持ち、Dockが機能する。フルスクリーンアプリやミッションコントロールもディスプレイごとにスムースに利用できる。
  • Safari:Nitro Tiered JITとFast Startテクノロジによって、JavaScriptの実行速度が向上する。ブックマークやリーディングリストを備えたサイドバーを表示したままブラウジングが可能。Shared Linksというサイドバーの新項目に、TwitterやLinkedInでフォローしている人たちが共有しているWebページがまとめてリストされる。

MavericksのSafariと、Chrome、FirefoxのJavaScript実行速度を比較(JBBench Suite)

  • iCloud Keychain:パスワードやクレジットカード情報を管理し、手軽に使用できるようにする。データはAES 256-bitで保護されており、クラウド経由でiCloud Keychainに対応する全てのデバイスで共有できる。

パスワードやクレジットカードをセキュアに管理できるiCloud Keychain。「1PasswordのライバルをAppleが投入」という声も……

  • 通知:メッセージを交換したり、不要なメールを削除するなど、通知から様々な処理を行えるようになる。ニュースやスポーツのスコア、オークションのアラートなど、登録したWebサイトからのアップデートも受け取れる。
  • カレンダー:月または週の表示を途切れなくスクロールできる。予定に場所を入力すると地図や到着までの時間が表示されるなど、インスペクタの情報が充実する。
  • マップ:iOSのマップ・アプリがOS Xにも登場。3Dビューで上空から眺めるようにマップを操作できるフライオーバー機能も利用可能。「Send to iOS」を使えば、Macのマップで検索した道順などをiOSデバイスに送信できる。
  • iBooks:Macアプリ版のiBooks。iBooks Store、iBooks in iCloudをサポートし、他のデバイスのiBooksとメモやハイライト、しおりなどを共有できる。

Mavericksは、Timer CoalescingやApp Nap、Compressed Memoryなど、省電力性を高めたり、反応性を向上させる数々の技術をサポートする。Timer Coalescingは、CPUのローレベルのオペレーションをグループ化してアイドル時間を作り出し、より頻繁に省電力ステートに入るようにすることで最大72%のCPUの省電力を実現する。App Napは複数のアプリを同時に使用している時に、他のアプリケーションのウインドウに完全に隠れてしまっていてバックグラウンドでも動作していないアプリを省電力モードに切り替える。見えているタブのみフルスピードで動作させるSafariの省電力機能に似た機能だ。これによってCPUの省電力を最大23%削減できるという。Compressed Memoryはメモリ空間が不足しそうな時に、非アクティブなアプリケーションのデータを圧縮して空きメモリを作り出し、アプリケーションの素早い反応性を保つ。

MavericksとMountain Lionのスタンドバイからの起動速度を比較

Appleは10日にMavericksのデベロッパプレビューをリリース、最終版の一般向けリリースは今秋になる。

MacBook Airは「オールデー・バッテリーライフ」に

この日のMacの新製品発表では「未来」がキーワードになった。

今ではMacBook AirのようなノートPCは珍しくなくなったが、現行デザインのMacBook Airは元々「ノートブックPCの未来 (ポストPC時代のノートPC)」を示した製品だった。

新MacBook Airはディスプレイこそ前モデルと同じ(11インチ:1,366×768ドット、13インチ:1,440×900ドット)だが、第4世代Core搭載によってグラフィックスがIntel HD Graphics 5000に向上、SSDが従来比で45%高速になり、無線LANがIEEE 802.11acをサポートする。全てにおいて性能が向上した上に、バッテリ駆動時間が飛躍的に伸びた。13インチモデルは最大12時間 (ワイヤレスインターネット閲覧時)、11インチは最大9時間。ワールドワイドプロダクトマーケティング担当シニアバイスプレジデントのフィル・シラー氏は「オールデー・バッテリーライフ」とアピールしていた。「タブレットのように気軽に使える高速なMac」というMacBook Air本来の魅力を再確認できる製品になっている。

10日に発売開始になった新MacBook Air、前モデルのデザインのまま中身を一新

従来のMacBook AirはACアダプタを持ち歩かずに1日使用するのは難しかった

新MacBook Airの13インチモデルは、バッテリーのみでロード・オブ・ザ・リング3部作を全て視聴可能

続いて情報初公開となった次世代Mac Proは「プロ向けデスクトップの未来」と紹介された。筐体自体が冷却システムを兼ねたデザインになっており、見た目は黒い筒のよう。容積は現行のMac Proの1/8だという。CPUは次世代のXeonプロセッサを搭載。最大12コア。GPUにはワークステーション向けのAMD製Fire Proをデュアルで搭載でき、4Kディスプレイを同時に3枚駆動できるパフォーマンスを持つという。筐体が小さいだけに、プロ向けでありながら内部拡張性は乏しいが、背面にThunderbolt 2×6ポート、USB 3.0×4ポートを備えるなど外部拡張性が優れている。

ソリッドでコンパクト、奇抜なデザインでMacユーザーを驚かせた新Mac Pro。パイプ、煙突、魔法瓶……表現は様々

背面にThunderbolt 2×6、USB 3.0×4、Gigabit Ethernet×2、HDMI出力、音声入出力など

光学式ドライブを廃し、内蔵ドライブはSSDでパフォーマンスを追求するのがポストPC時代のMacであり、その点でAppleにブレはない。拡張性やカスタマイズ性が不可欠という従来のプロ向けマシンのイメージを捨てさせ、プロ・ユーザーにもAppleが考える未来を強いる。それゆえに、これまでパーツをアップグレードしながら高価なマシンを長期にわたって使ってきたプロ・ユーザーを納得させられる価格になるかが注目点になるが、スペックの詳細や販売価格は現時点で不明。発売時期は今年後半になるという。

過去5年間でPCの伸びが18%であるのに対して、いち早くポストPCに舵を切ったMacは倍増

OS X Mountain LionとWindows 8、リリースから6カ月の導入率の推移