企業が銀行などからお金を借り入れるとき、担保となるのは、日本では不動産が多い。だが、米国では、在庫や売掛金を担保にして融資を受けることができる「動産担保融資(ABL)」が普及している。同国での動産担保融資の利用者は中堅・中小企業が多く、こうした企業が経営再建する際などにも大いに活用されているという。今回は、米国において動産担保融資の最大手であるGEキャピタルの日本における社長兼CEOである安渕聖司氏に、日本における動産担保融資の可能性と、今後果たすべき役割などについてインタビューした内容を紹介したい。

GEキャピタルの日本における社長兼CEOの安渕聖司氏

動産担保融資「ABL」って、そもそも何?

――勉強不足で申し訳ないのですが、今回のインタビューまで「動産担保融資(以下、「ABL」)を知りませんでした。ABLとは何か、まず教えていただけますか。

日本では銀行がお金を貸すときには、土地を担保にすることが多く、土地は動かないので「不動産」と呼ばれます。ところが、企業のバランスシートを見ると、例えば製造業であれば在庫があったり機械があったり、いわゆる不動産以外の動産というのも結構あるんです。また動産には、売掛金もあります。しかしながら、日本では従来、金融機関は動産を担保にとってこなかったんですね。

「ABL」というのは、ここに着目して、在庫とか売掛金を担保にしてお金をお貸しするものです。例えば売掛金でしたら、下請け企業が大手企業に物を売っている、そうすると自分の会社は大きくないけれども、売り先は大手ですから、お金が入ってくる確実性は高い。そういった点に注目してお金をお貸ししましょうというのが、「ABL」なのです。

「ABL」の何がいいかと申しますと、土地を持っていなくても融資を受けることができますし、一定程度の在庫や売掛金があれば、それを元に資金調達ができる点です。例えば、サービス業の方でも、よく資産がなくて融資を受けられないとおっしゃる場合も多いのですが、そうおっしゃる場合の資産は、不動産を指すことが多いのです。ですが、ABLでは、その企業が持っている売掛金を担保にして融資を受けることができます。そうした意味では、比較的新しい金融手法といえます。

――日本では従来、「ABL」が普及していなかったということですが、なぜ普及しなかったのでしょうか?

まず挙げられるのが、査定が難しいことです。例えば、在庫に宝石があったとして、仕入れ値は分かりますが、担保価値を見るのは難しいのです。

第二に挙げられるのが、動産は毎日毎日動いているものですから、管理が結構難しい。実際にどれぐらいのものが常にあるのかということを、モニターしていく必要があります。

動産の査定とモニタリングは、日本の普通の銀行ではあまりノウハウがなかったのですが、この二つができると、融資を受ける企業としては、今まで全く担保として使えなかった物が担保として使えるようになるわけです。

中小企業金融円滑化法が終了、「ABL」が中堅・中小企業の新たな資金調達手段に

――今なぜ、「ABL」が注目されているのでしょうか?

今年の3月末に、中小企業金融円滑化法が終了しました。この法律は、お金を借りている企業が、借入金に関する相談を金融機関にした場合は、金融機関は相談にのってあげてくださいという趣旨のもので、相談されたものに関しては、金融庁への報告義務がありました。しかし同法の終了で金融機関に法的な報告義務がなくなったのです。

その過程で企業が、銀行だけに頼らないで、もう少し資金調達の方法を多様化しておいておいたほうがいいのではないか、動産が使えるのであれば動産を使って資金調達できるのではないか、などと考えるようになり、「ABL」に注目が集まってきたのです。企業にとっては、資金源が複数あったほうが、会社を経営していく上で安定します。

――中小企業金融円滑化法の終了によって、「ABL」への注目度が上がったわけですね。米国では「ABL」は一般的に活用されていると聞きましたが。

はい。米国で「ABL」は企業の資金調達において一般的な手法です。米国のGEキャピタルは、米国の「ABL」市場の中で、最大手のプレイヤーです。主たる融資先は、ミドルマーケットと呼ばれる中堅・中小企業が多いのです。

米国で培った動産の査定や管理の手法を、日本にも持ち込んで市場を広げようというのが、私どもの考えです。

――日本の既存銀行などとは、競合しないのでしょうか?

日本の銀行さんとは競合しない事業モデルです。むしろ、補完しあう関係にあるといえます。銀行は不動産を担保とすることが多いので、一定程度までしか融資できませんが、我々がその取引先を紹介していただくことで、動産を担保にして融資ができます。そうすると貸出先の企業の経営が安定するわけですから、銀行にとっても、これは基本的にはいい話なんですね。

ですから、銀行からちょっとこの企業の動産を見てくださいと言われて、それではこの部分を担保にしてお貸ししましょう、というようなことができるわけです。

――それにしても、動産の査定やモニタリングは、なかなか手間のかかる大変な作業ではないでしょうか?

まず、在庫に関しては、事前に在庫管理システムを徹底的に調査させていただいて、日々どういう売上げをあげてどういう風に在庫が動くかということを把握させていただきます。また、売掛金に関しても、資金の動きをしっかりとモニターして、ちょっとこれは従来のパターンと違うのではないかなど、資金の移動を把握することができるようにさせていただきます。

――日本で「ABL」の事業を行っていく上での課題みたいなものはありますか?

売掛金に譲渡禁止条項という項目が付いていることがありまして、その場合は、売掛金を担保にできないという法律上の問題があります。我々の考えでは、純粋な資金調達目的においては、この条項が付いていても担保にしていいのではないかと主張しています。

製造業で培ったノウハウを、取引先に無償で提供

――地銀さんなどと補完関係にあるとおっしゃいましたが、融資先とはどのような関係を築いているのでしょうか?

GEというのはもともと製造業からスタートした企業ですが、今では売上げの7割が製造業、3割が金融業からという形になっています。実はGEは1892年以来、CEOが9人しかおらず、その全てが社内昇格の形でCEOになったという珍しい会社です。

したがって、GEでは人材育成プログラムが充実しています。長期にわたるリーダーシッププログラムの中で、将来のリーダーを育成しているからです。

GEキャピタルの日本法人でも、こうしたノウハウを「ABL」やリースでの取引先に無償で提供する「Access GE」というサービスを提供しています。ただ融資やリースを行うのではなく、企業再生のための人材育成プログラムなどを提供するのです。

例えば、ある外食チェーンでは、社長の方が、外食産業にはない製造業的なノウハウを用いて生産性を上げたいというご要望を持っておられました。それにお応えする形で、同社に「Access GE」のサービスを提供しましたが、その結果生産性が上がったという事例がございます。

――なるほど。「ABL」だけでなく、GE創業以来のグローバルなノウハウを提供できるわけですね。

そうすることで、地銀さん、取引先、我々の三者が、「Win-Win-Win」の関係を築けるわけです。

――すごいですね。日本の中小・中堅企業にとっては、資金調達だけでない、新たな企業再生への手段となりそうですね。「ABL」の普及には、大きな社会的意義がありそうです。本日はお忙しい中、ありがとうございました。