5月29日より無線通信に関する技術展示会、ワイヤレスジャパン 2013(主催:リックテレコム)が開催されている。Mozilla Japanは同展示会で、モバイルOSプラットフォームである「Firefox OS」を日本で初披露した。

盛況だったMozillaブース

同OSは、全てのアプリがHTML5で記述できるWebアプリで構成されており、iOSやAndroidなどと異なり、C言語やJavaなどで作られた「ネイティブアプリ」を必要としない。シンプルな記述でアプリを作れることや、Web技術を活用したアプリであることを優位性として、約800万人のHTML開発者がアプリ開発を行うことができる下地があるという。これはiOSの約10万人、Androidの約45万人と比較しても突出して多い数字だ。

また、HTML5を推進するライバルとなるモバイルOSとして「Tizen」が、サムスンやドコモの下で開発が進められている。Mozillaの説明員は、同OSに対するFirefox OSの優位な点として「メモリ使用量が大きく抑えられる」という。Tizenはネイティブアプリも動くプラットフォームとして開発が進められているため、OSのカーネル層より上に様々なミドルウェアが動作し、結果としてメモリ使用量がかさむ。そのため、動作速度などにも大きく影響してくるとしている。

TizenよりもWebアプリ環境に優位性

オープンプラットフォームとしても優秀

OSの作りだけではなく、Firefox OSがオープンプラットフォームであることも、既存OSと比較して優位であるとしている。これまでメーカーや通信事業者などは、いわゆる"Over The Top"のGoogle、Appleにアプリなどのコンテンツ配信を行うプラットフォームを縛られ、自由に提供することが出来なかった。Android OSでは、キャリア独自マーケットによって配信を行うことはできるものの、Googleアカウントが必要不可欠であるなど制約も多い。

一方で、Firefox OSでは、Mozillaがマーケットプレイスと呼ばれるアプリ配信サイトを用意するものの、必ずしも同サイトを通す必要が無いという。メーカーや通信事業者が、ダイレクトにユーザーの端末へアプリケーションを提供できるようになることで、ロイヤリティの向上や、課金体系に関しても自由に枠組みを作ることができるとしている。

Firefox OSの賛同パートナーは、通信事業者が18社、メーカーが5社(2013年2月時点)となる。日本ではKDDIとソニーモバイルコミュニケーションズがパートナーとなっており、「国内でも、来年の中頃までにはキャリアから何らかの動きがあるのではないか?」(説明員)という。

海外の動向では、来月辺りに同OSを搭載した端末が発表予定となっており、価格も出荷ベースで最大200ドル程度に抑えられる予定だとしている。今後の市場予測では、ロー~ミドルスペックのスマートフォンの出荷台数が2018年には全体の45%程度を占めると推計されている。ソフトウェア開発コストを押さえることのできるFirefox OSにとっては、主戦場となる市場が拡大することで、非常に優位なポジションに立てるとみられる。

Firefox OSの主戦場となる
低価格帯スマホ市場は拡大

セキュリティ面も配慮

スマートフォンでは、セキュリティ面について心配なユーザーも多いと思うが、その点にも気が配られいる。Mozillaは、Ponemon Instituteの「Most Trusted Internet Company For Privacy 2012」を受賞している。インターネット企業で最もプライバシー管理に信頼をおけると評価されたが、これはFirefox OSでも同じ姿勢で取り組んでいるという。

インストール時にそのアプリが使用する権限が表示されるのは既存プラットフォームでも行われている。Firefox OSでは、同様の動作に加えて、アプリがプライバシーを取得する挙動を検知した場合、毎回警告を出すように設計を行っている。

なお、Mozillaブースでは、Firefox OS搭載端末が展示されており、体験することができる。端末は4種類展示されており、開発者向け端末として既に発表されている2機種と参考出展のAlcatel One Touch Fire、ZTE Openに触れることが出来た。参考出展の2機種については、来月以降に正式発表される予定。

ZTE Open

Alcatel One Touch Fire

ZTE OpenとAlcatel One Touch Fireは同一スペックで、CPUがQualcomm Snapdragon S1 7225A 1GHz、画面が3.5インチのハーフVGA(480×320)液晶となっている。ROMは512MB、RAMが256MBとなる。ROMが少ない容量となっているが、これはマルチメディアなどの保存領域をSDカードに保存するFirefox OSの仕様に沿ったもの。「キャリアなどの意向で、端末内に音楽や動画を保存することもできる」としている。

開発者向けモデル"Peak"

開発者向けモデル"Keon"

一方で、開発者向け端末のPeakは、現行のAndroid端末と大差ないスペックに仕上がっているが、qHD解像度以上の端末向けには新しいバージョンのFirefox OSが採用される予定(HVGA端末のバージョンは1.0)だという。新バージョンは今年後半以降にリリース予定となっており、国内向けに発売される来年以降には、こちらのバージョンが搭載されるとみられる。

操作方法については、前面にホームボタンが一つだけ搭載されているiOSに近いユーザーインタフェースとなっている。また、ホームボタンを長押しすることで、タスクの切り替えを行うことが可能。オムロンが開発した日本語入力ソフトも参考出展されており、フリック入力も行えるなど既存スマートフォンと変わらない入力性を実現していた。

オムロン製日本語入力ソフト

正式に端末が発売される直前のFirefox OSであるが、動作は初期のAndroid OSよりも良い動きとなっていた。電話や設定画面など、全てにおいてHTML5でアプリが構築されているが、画面描写はアプリを立ち上げる際に一瞬待たされる遷移画面を除いて、既存のネイティブアプリと変わらない印象を受けた。

ただ、最新のAndroid端末と比較してしまうと、まだ開発途上ということもあり、レスポンスが見劣りしてしまう。現在、携帯電話販売は、割賦を組むことで店頭で支払う端末代金を抑える方法を採用しているため、端末代金が見えにくい状況にある。そのため、パフォーマンスが劣るものの、端末価格を抑えることができるというアプローチでTizenやFirefox OSを搭載した端末がユーザーに歓迎されるかは未知数だ。

この点についてMozillaの説明員は、「世界中のキャリア、メーカーが自分達のエコシステムに適したFirefox OSにカスタマイズできる」ことを挙げ、単なる低コストOSではなく、自社サービスに即した世界を構築することで魅力的な端末を作り上げることができるOSであることを強調した。