通信各社による2013年夏モデルの発表会が相次いで開催され、各社が夏商戦に導入する新製品が出揃った。各社の発表会では、新製品や新サービスの発表とともにネットワークに関する説明も行われたが、とりわけネットワークの説明に時間を割いたのは、ソフトバンクの孫社長とNTTドコモの加藤社長だ。ソフトバンクがCMでもよく見かける「つながりやすさ」をアピールしたのに対し、ドコモは新たに「LTEの強さ」を打ち出し、「Strong. 」をキャッチフレーズとした新CMの放映も開始している。両社がアピールするネットワークの「つながりやすさ」「強さ」とは、どういう意味なのか。各社のネットワーク戦略に着目しながら見ていきたい。

ソフトバンクがアピールする「つながりやすさ」とは?

5月7日に新製品発表会を開催したソフトバンクは、孫社長が同社の「つながりやすさ」をあらためてアピールした。最近の同社CMでもよく目にする「つながりやすさ」は、具体的にはスマートフォンの「通話接続率」と「通信接続率」のことを指しており、ソフトバンクの接続率が1位だとアピールしている。通話接続率については第三者機関が実施した調査結果、通信接続率については同社の関係会社であるAgoopがビックデータを解析した結果を根拠として挙げている。

発表会において、孫社長が同社のネットワークへの取り組みとして紹介したのが「小セル化」「ダブルLTE」「Wi-Fi」という3つの手法だ。小セル化は、マイクロセルと呼ばれる小さい基地局を複数設置し、それらを1カ所で制御することで、より柔軟にAXGPネットワークを設計できるというもの。ダブルLTEは、同社が買収したイー・アクセス所有の1.7GHz帯のLTEネットワークを既存の2GHz帯のLTEネットワークと併用するというもの。Wi-Fiは、公衆無線LANへの接続を制御する取り組みとなっている。

ただし、上記の3つの取り組みについては、ソフトバンクのスマートフォンであれば、すべてに関係するというわけではない。少セル化のAXGPネットワークはSoftbank 4G対応のAndroidスマートフォンのみで利用でき、ダブルLTEに対応するのはiPhone 5やiPad miniといったLTE対応のiOS端末のみだ。

また、発表会では特に言及はなかったものの、「つながりやすさ」への取り組みとしてソフトバンクが取り上げるのが、900MHz帯の「プラチナバンド」だ。4月30日に開催された決算発表会では、プラチナバンド基地局を2.2万局開設したことについて、孫社長が「ギネスブック並み」と自画自賛した。ただし、900MHz帯と同様に電波が届きやすいとされる800MHz帯については、ドコモ、KDDIともに以前から使用しているため、プラチナバンド自体のアドバンテージはあまりないと考えられる。

ドコモがアピールする「強さ」とは?

一方のドコモは、「つながりやすさ」ではなく、「LTEの強さ」をアピールする。5月15日の発表会では、「Strong.」をキャッチフレーズとした渡辺謙出演の新CMのお披露目も行われた。LTEの強さとは一見漠然としているように感じられるかもしれないが、同社では「面」「速さ」「高さ」「あんしん」という観点から、強いLTEの実現のための取り組みを進めていると同社Webサイトでもうたっている。

「面」とは、点ではなく面でエリアを作るという同社の考え方で、具体的には2014年3月末までにLTEサービス「Xi」の基地局を50,000局に倍増させる計画が挙げられる。また、発表会では、鉄道などでの移動時にデータ通信が継続するかを表す「通信継続率」という指標も公表され、山手線と大阪環状線ではXiの通信継続率がどちらも約97%であったことが紹介された。

「速さ」については、2013年6月末までに、最大75Mbps対応の基地局を15,000局に拡大するほか、国内最速となる下り最大112.5Mbps対応エリアを100都市に拡大するという。さらに、2013年度内に、下り最大150Mbpsのサービスも提供予定である。

「高さ」というのは、LTEではあまり聞き慣れない言葉だが、高層ビルなどの主要集客施設におけるエリア化に加え、地下鉄の駅・駅間でのエリア化を進めている。「あんしん」は、イベント開催時や災害発生時に出動するXi移動基地局車の導入や24時間365日の監視・制御体制などの取り組み。LTEというと、つい通信速度ばかりが注目されがちだが、さまざまな視点からネットワークを強化していこうという姿勢を強調している。

発表会でネットワークへの言及が少なかったKDDI

5月20日に開催されたKDDIの発表会では、四国の一部地域から下り最大100Mbpsの高速サービスを提供開始するという計画が紹介されたほかは、ネットワークの取り組みについて、ほとんど言及されなかった。それには、おもに2つの理由があると考えられる。

ひとつは、同社が4月27日にLTEの通信障害を引き起こし、さらに数日前の4月16日から19日にかけては、iPhoneなどのiOS端末でEメールの送受信障害を起こしたこと。もうひとつは、5月10日にLTEの広告について、利用者に誤解を与える表示があったとして総務省より指導を受けたことだ。このような通信障害や不祥事を相次いで起こしている状況では、ネットワークの取り組みについてアピールしている場合ではないといった判断だろう。

LTEの広告表示に関する問題は、KDDIがホームページやカタログにおいて、本来、対応機種に含まれないiPhone 5を含めた形で、「受信最大75Mbpsの超高速ネットワークを実人口カバー率96%に急速拡大。(2013年3月末予定)」などと表示していたものだ。5月21日には、景品表示法にもとづいく消費者庁の措置命令を受けて数値の公表を行っており、au版iPhone 5の下り最大75Mbps対応エリアの実人口カバー率が、3月末時点でわずか14%であったことを公表した。

同社は問題となった広告表示についてあくまで誤記としており、広告チェック体制の強化などを再発防止策として発表している。しかし、どうして誤記が起こったかを考えると、同社が使用するLTEネットワークの周波数帯のわかりづらさが一因だといえる。具体的には、同社は800MHz・1.5GHz・2GHz帯といった3種類のLTEネットワークを用意しているが、800MHz・1.5GHz帯を利用できるのはAndroid端末のみで、iOS端末が利用できるのは2GHz帯のみと、OSによって利用できる周波数帯が異なる状況だ。

そのような周波数帯のわかりづらい状況があるのであれば、なおさら消費者には正確な状況をわかりやすく広告で伝えることが重要となる。失われた信頼をどのように回復するのかが、同社の直近の課題だといえる。

*  *  *

通信各社のネットワークの取り組みについて見てきた。ソフトバンクは「つながりやすさ」をアピールするが、これは同社のネットワークが"つながりにくい"というイメージだったのを払拭するための取り組みのようにも見える。一方でドコモは、基地局倍増計画や超高速エリアの拡大など、ネットワークを拡充させるための具体的な取り組みや、目指す方向を語りながら「強さ」をアピールする。KDDIは、まずは信頼回復が第一だろう。

今回、KDDIが消費者庁の措置命令を受け、数値を公表したことは消費者に大きな衝撃を与えた。この一件により、消費者の通信各社を見る目は、ますます厳しくなっていくだろう。スマートフォンとLTEの本格普及期となるであろう今後は、つながることは大前提となってくる。つながるだけではない取り組みを真摯に推進していくことが、通信各社には求められるだろう。