独SAPは5月初め、インメモリデータベースの「HANA」のプライベートクラウドサービス「HANA Enterprise Cloud」を発表した。創業以来41年、ERPベンダーとしてのポジションを維持してきたSAPにとって、HANAは生まれ変わりのカギを握る技術だ。HANA Enterprise Cloudではデータセンター事業にも拡大することになるが、SAPの狙いはなにか?

同社が5月16日まで米国で開催した年次カンファレンス「SAPPHIRE NOW 2013」で、グローバルでSAPのデータベース技術を統括するデータベース&技術担当エグゼクティブ・バイスプレジデントのSteve Lucus氏が記者向けの取材に応じた。以下に、Lucus氏が示したポイントを紹介する。

HANA Enterprise Cloudで新しい進化を遂げるHANA - Steve Lucus氏

SAP データベース&技術担当エグゼクティブ・バイスプレジデント Steve Lucus氏

終始Oracleとの対決に自信を見せた同氏は、BusinessObjects買収によりSAPに入社。一時期Salesforce.comに籍を置いていたが2009年にSAPに戻った

[以下 Steve Lucus氏] HANAはすばらしい成果を遂げている。2011年6月に一般提供を開始し、わずか2年で1300社以上の顧客がHANAを利用している。急速に成熟している製品といえる。

HANA導入のほとんどがオンプレミスだが、クラウドでは2012年よりAmazon Web Services(AWS)が提供している。10分でスタートでき、料金は1時間0.99ドルだ。

オンプレミス、AWSと広がり、これに、HANA Enterprise Cloudが加わることになる。HANA Enterprise Cloudはプライベートクラウド製品で、ハードウェアプラットフォームとマネージドサービスを提供する。目的はただひとつ、HANAの利用を加速することだ。

HANA導入にはHANAのライセンスと専用のハードウェアが必要だが、顧客のIT予算は限られている。このような状況を考慮し、簡単にHANAを利用できる選択肢を提供する必要があると判断した。中堅・小型企業ならAWSがあるが、HANA Enterprise Cloudは、大企業向けにHANA導入のハードルを下げるものになる。顧客はHANAのライセンスを購入し、オンプレミスで動かすのか、Enterprise Cloudで動かすのかを選択できる。あらゆる企業にHANAを利用してもらえるようになる。

このことが示すように、SAPは大企業だけを優先しているのではない。あらゆる規模の企業を大切にしているということを強調したい。HANAを最初にクラウド形式で利用できるようにしたのは、我々ではなくAWSで、最初のフォーカスはベンチャー企業や中堅・小型企業だった。

マルチテナントかどうかは大切ではない

HANA Enterprise Cloudで顧客は専用のハードウェアを利用できる。仮想化技術は利用していない。我々が想定している顧客は、他社とハードウェアを共有したいとは思っていないはずだ。インフラの長所は、同じ実装ユニット(実装セル)を提供しており、予測性が高く管理しやすいインフラであること。顧客の数が増えると予測性を強化できる。

SaaSベンダーは"マルチテナントではないからクラウドではない"と指摘するかもしれないが、我々が気にしているのは顧客の声、顧客のニーズだ。顧客はクラウドの定義を気にしているのではなく、だれがサービスを管理しているのか、運用コストから得られる価値はあるかだ。ちなみに、Salesforce.comはHANA Enterprise Cloud上で動かすべきだ。顧客に対する大きなアップグレードになるだろう(笑)。

データセンタービジネス

SAPは現在、世界8カ所にデータセンターを持っており、このうちの4カ所がHANA Enterprise Cloud向けとなる。ドイツ本社のあるワルドルフ、オランダ・アムステルダムが稼働に入っており、米国にある2カ所のデータセンターも間もなく本稼働に入る。

その他のデータセンターでは、SuccessFactorsやAribaなどのクラウドを支えている。中でも2012年に買収完了したSucessFacotrsは1500万人と多数のユーザーを抱える世界最大級のクラウドを展開しており、どのようにデータセンターを運用するのかに精通している。この専門知識をHANA Enterprise Cloudにも適用していく。

もちろん、我々はオープン戦略をとっており、HANA Enterprise Cloudでも同じだ。パートナーは自社データセンターでHANA Enterprise Cloudを提供できる。これは(Oracleとの)差別化となる。

(採算性については)データセンターというインフラ投資を行っていくことになるが、幸いHANA Enterprise Cloudは有料サービスだ。

HANAは単に高速なデータベースではない。エンタープライズアーキテクチャを完全に作り直すものだ。我々のホスティング環境は、30年前に設計された古いアーキテクチャの実装ではなく、HANAを利用した次世代のプラットフォームソリューションを実装する。顧客に体感してもらうコスト削減メリットを、われわれ自身もインフラ運用で得られるだろう。

オンプレミス、AWS、HANA Enterprise Cloudの比率

平均的に分散するのが理想だが、オンプレミスが選択肢として多いので50%、HANA Enterprise Cloudが30%、AWSが20%程度ではないか。

5年後にOracleがいなくなるなり、すべてがHANAで動いていると想定してのことだ(笑)。HANAは競合に勝ち抜くチャンスとみて欲しい。

「Business ByDesign」から得た教訓

Business ByDesignは数年前から提供しており、アプリケーションをクラウドで提供するもの。HANA Enterprise Cloudとは根本から異なる。

Business ByDesignで学んだ最大のことは、SAPの顧客はオンプレミスであろうと、クラウドであろうと、一貫性のあるエンドツーエンドで統合された体験を求めているということだ。これを提供することが大切だと認識している。

HANA Enterprise Cloudにより実装をミックスできるようになった。たとえば、ERPをオンプレミスで動かしデータベースをHANA Enterprise Cloudで、あるいは両方をEnterprise Cloudで動かすこともできる。柔軟性と速度の両方を得られるソリューションといえる。

他社システムとの連携

HANAには「Data Services」という製品が含まれており、全てのHANA顧客はこれを利用して他のデータソースとHANAとを接続できる。HANAは標準のANSI標準SQLをサポートしており、顧客の中にはSAP製品をもっていないがHANAを利用しているというところもある。

HANAで我々が作りたかったのは、単に高速なデータベースではない。顧客はデータベース、データ統合ツール、分析ツール、予測ツール……さまざまな技術を持っており、複雑化している。HANAはこれらをすべて含むもので、インメモリデータベースであり、分析エンジン、予測エンジン、非構造化データのテキスト分析エンジンを備えている。システムアーキテクチャは著しく簡素化される。

HANAはデータベースの将来だ。われわれは全ての企業をOracleから解放する。世界はもっと平和になるはずだ(笑)。