パナソニックから発売された「SC-NP10」。有り体にいえばタブレットスタンドを兼ねたBluetoothスピーカーだが、サラウンド対応など音にこだわった異色の製品だ。発売に先立ち試用する機会に恵まれたため、早速レビューをお届けする。

家庭におけるタブレットの「居場所」

タブレット市場はこの数年で急拡大、PCに迫る勢いだ。米調査会社IDCの調査によれば、2013年第1四半期(1~3月)の世界出荷台数は4,920万台、同期間におけるPC出荷台数(7,600万台)の約3分の2にまで到達した。伸び率も前年同期比約2.4倍とハイペースを維持しており、当面この傾向は続くことだろう。

表示装置としてのさまざまな役割を無難にこなす柔軟さは特筆ものだ。写真を表示させれば、デジタルフォトフレーム専用機をも上回る精細さを楽しませてくれるうえ、動画も軽々再生できる。DLNA/DTCP-IP対応動画視聴アプリを用意すれば、地デジやBS/CSなどデジタル放送を映すテレビ代わりとして利用可能だ。

しかし、このタブレットという製品、家庭における"居場所"が定まらない。PC以上にパーソナルなデバイスであり、ノートPC以上の持ち運びやすさはあるものの、スタンドやカバーがなけば"置いて使う"ことは難しい。デジタルフォトフレームやテレビの役割を負わせるとすれば、なにか"支え"が必要だろう。

ここに留意すると、今回取りあげる「SC-NP10」が俄然おもしろく見えてくる。多くのタブレットはボディデザインの都合上「音」は後回しになりがちで、とりあえず鳴ればOKとでもいわんばかりの状況だが、本機は音を切り口に「タブレットの居場所」を提示しているのだ。

パナソニックのタブレット「ELUGA Live」を載せたところ。もちろん他の(Bluetooth対応)タブレットやスマートフォンを載せてもいい

台座部分の周囲には青色LEDを配置。気になるようであればオフにできる

ゾンビ大河ドラマの臨場感たるや

SC-NP10は、タブレット用の台座を備えたBluetoothスピーカー。外見からはわかりにくいが、スピーカーとして凝ったデザインがいくつか施されており、それが音質にハッキリ現れているのがおもしろい。

スピーカーとしての基本構造は、フロント左右に3cm×10cmのコーン(密閉型)を、サブウーハーに8cmのコーン(バスレフ型)を配置した2.1chシステムだ。パンチングメタルに隠れてしまい目視できないが、フロントスピーカーは左右それぞれ12度外側へ傾けて配置されており(スラントスピーカーポジション)、50~70cmほど離れた位置で効果的に音が広がるよう設計されている。

周囲を見回すと、背面にぽっかり口を開けた直径約2cmのダクトが目に付く。「ロングエアロストリームポート」と名付けられたこのダクトは、スピーカーボックス内の反響により増強された低音を出すことが狙いのバスレフポートの一種で、長さは約20cmあるという。SC-NP10の奥行きは186mmだから直線形では計算にあわないが、ボックス内で緩くカーブさせることで、上向きに取り付けられたサブウーハーの低音を効果的に伝える。実際、低音域の豊かさは高さ65mmのボックスから聞こえるものとは思えないほどだ。

SC-NP10には「D.SURROUND」というボタンがあり、これを押すことで2.1chのサラウンド機能「ダイレクト・ダイアログ・サラウンド」が有効になる。ニュースやバラエティ番組ではかえって不自然な印象となってしまうが、映画・ドラマに関していえば、サラウンドを有効にしたほうが音に迫力が増すだけでなく臨場感が出るのでお勧めだ。

試聴には「Hulu」で提供中の「ウォーキング・デッド」を利用した。ゾンビに覆われた社会をリアルに描くこのアメリカドラマ、当然絵的に凄まじいシーンも多いのだが、どこに潜んでいるかわからないゾンビに怯えながら建物内を移動するシーンでは音響効果がものをいう。さすがに5.1chと比較すると厳しいが、臨場感においてはタブレット内蔵スピーカーと比べるまでもなく、迫りくるゾンビの恐ろしさを存分に味わえた(?)ことを報告しておこう。

パンチングメタルに覆われてわかりにくいが、フロントL/Rのスピーカーは左右それぞれ12度外側へ傾けて配置されている

背面には「ロングエアロストリームポート」と名付けられたダクトが配置されている

込められた「Technics」の精神

SC-NP10の音作りは、映画やドラマといった映像コンテンツを意識しているが、オーディオスピーカーとしてもじゅうぶんイケる。音声圧縮によりに失われがちな高域信号を演算補正する「Bluetoothリ.マスター」のほか、前述したロングエアロストリームポートの効果により、小さな音量でも説得力ある音を鳴らすことができるからだ。

再生モードは「ダイレクト・ダイアログ・サラウンド」のほうが好印象。同機能を有効にしていると、ある程度離れていても無指向性スピーカーのような音の広がりを味わえる。低音域が増幅されるためジャンルを選ぶ傾向はあるが、アコースティック楽器主体の音楽であれば違和感よりもメリットのほうが大きい。

音に関する気配りは、通信にまでおよぶ。ペアリングをスムーズに行うため、初期設定では「接続性重視モード」が選択されているが、所定の操作を行うと「音質重視モード」に変更できるのだ。このモード変更により定位が明瞭になる印象を受けた。Bluetooth/A2DPで利用できるコーデックのうち、本機で利用できるのはSBCのみだが(SBCはAACやaptXと比較して帯域上不利)、それを感じさせない音を聴かせてくれる。

このように、SC-NP10はスピーカーとしてしっかり作りこまれており、独特なバスレフ構造(ロングエアロストリームポート)による低域の迫力もあいまって、存在感を発揮している。2.1chバーチャルサラウンドで音の広がりを得られるというアドバンテージもあり、タブレットとの相性は群を抜いていると言っていい。最大8機のBluetoothデバイスを同時に登録できることから、家族共有の気軽に聴けるBluetoothスピーカーとして利用してもよさそうだ。

ただし、デザインについては改善の余地がありそう。高級感を持たせれば、リビングに置き「いい音でBGMを聞かせるデジタルフォトフレーム」という使い方もあるはずだ。青く光るLEDライトも、個人的にはなくてもいいかな、と感じた。

関係者によれば、SC-NP10の開発にはTechnics出身のメンバーが参加し、ああでもない、こうでもないと"音作り"を巡り試行錯誤を重ねたという。Technicsといえば、オーディオブームを体験している筆者以上の年代にとっては、オーディオの高級ブランドとして抜群の知名度がある。より若い層にしても、惜しまれつつ生産終了となったアナログプレーヤーの名機「SL-1200」でTechnicsの名は知られている。本機の音を聴くと思わずニヤリとさせられてしまうのは、その音作りの精神が感じられるからなのかもしれない。

サラウンド効果は「D.SURROUND」ボタンを押せばオン/オフできる

"音作り"の精神を感じさせるSC-NP10。iPadとセットで使うなど、組み合わせは自由だ