ブリッジモードを利用して検証

さっそくテストと行きたいところだが、今回の試用時点では、11acに対応した無線LANインタフェースを内蔵したPCは存在しない。そこで2台のWZR-1750DHPを準備し、1台をブリッジモードとして(以降子機とする)、もう1台の親機と接続。親機とサーバ、子機とクライアントPCはそれぞれGigabit Ethernetの有線LANで接続した。今回は親機と子機の通信速度をもって、11acの速度評価としたい。

今回のメイン実験のイメージ。2台のWZR-1750DHPの通信を利用して速度を測定する

(図1) 速度測定はA~Dの4地点で実施した。★の位置に親機を設置。CとDの地点は、IEEEE802.11nだと電波をつかみにくい

テストは筆者の魔境、もとい自宅兼仕事場で実施した。鉄筋コンクリート製のマンションで、ワイヤーラックや収納が多く、無線LANにはかなり厳しい環境だろう。

図1の右上「★」位置に親機を置き、A~Dの4地点に受信側(子機)が来るように設置した。比較対象として、IEEE802.11nで親機と直接接続した場合と、親機にGigabit Ethernetで接続した場合の速度も計測する。

実験に用いた機材は以下の通りだ。データの伝送経路での違いを見るため、WindowsとMacの両方で計測する。そのためクライアント側は「MacBook Pro Retina 13"」を準備した。もともと有線LANを持たないモデルだが、「Thunderbolt - Gigabit Ethernetアダプタ」を利用し、子機側とGigabit Ethernetで接続している。中身はBroadcom製のGigabit Ethernetで、BootCamp環境下のWindows8でも問題なく動作したことを付け加えておこう。

■ サーバ側
CPU : Intel Core i5-3570K(3.4GHz)
マザーボード : ASUSTeK P8Z77M-PRO(Intel Z77 Express)
メモリ : Patriot PSD38G1600KH(PC3-12800 DDR3 SDRAM 4GB×4)
グラフィック : Intel HD Graphics 4000(CPU内蔵)
SSD : Intel SSD 335 SSDSC2CT240A4K5(SATA3.0 / MLC / 240GB)
OS : Windows 8 Professional 64bit版

■ クライアント側「MacBook Pro Retina 13"(Mid 2012)」
CPU : Core i5-3210M(2.5GHz)
メモリ : DDR3-1600 8GB
ストレージ : SSD 256GB
OS : OS X 10.8.3 / Windows 8 Professional 64bit版(BootCamp利用)

クライアント側のMacはGigabit Ethernetを持たないので、アップル純正のThunderbolt変換アダプタを使用

iperfによる測定

次は性能測定の解説をする。単純なファイルコピーやFTP転送だと数値が低く出るため(管理パケットのオーバーヘッドが主な理由)、シンプルな「iperf」を用いてテストした。このテストはサーバ側とクライアント側でパラメータを指定しておく必要があるが、今回のパラメータは以下のように設定している。

ざっくりと文章化すると、1秒間隔で10回サーバに向けてデータを送信し、その時のスループットを比較するというものだ。送信するデータはiperfのデフォルトは64kbit単位だが、ブツ切りになりすぎてもオーバーヘッドの分だけ損なので、1度に送るデータ量は256kbitに設定する。

サーバ側 : iperf -s -w 256k
クライアント側 : iperf -c [サーバIP] -f k -P 1 -i 1 -t 10 -w 256k

魔境の壁は厚かった

それではWindows/Macの結果を一気にご覧いただこう。

Windows 8環境でのスループット。C点とD点では電波状況が悪いらしく、有効な値が計測できなかった

同じ場所・同じ機材を使ったMac OS X環境でのスループット。C点とD点でもかろうじて計測できた

今回のクライアント機はBootCampを使い、さらにThunderbolt接続のGigabit Ethernet変換アダプタを使うという変則的な構成だが、Gigabit Ethernetだけを使った接続(GbE)では、OSに関係なく900Mbpsを超える高い数値を出した。まずハード構成の特殊性が原因という懸念はないと考えてよいだろう。親機~子機の通信や電波の質だけが、ABCD地点でのスループットを決めると考えてよさそうだ。

11acと11nでの速度差が大きいことが確認できたが、1.3Gbpsという理論理にはやや遠い結果となった。これは仕方ないところだろう。Windows環境のほうが若干トップスピードが高く出た感じだが、それでも理論値の半分未満。鉄筋コンクリートでワイヤーシェルフが各所にあるテスト環境下では、11acの実力も削がれてしまうようだ(個人的にはそろそろ魔境の掃除でこれを解決したい)。金属製のラックなどが乱立していない木造住宅なら、もう少し良好なスループットが望めるだろう。

親機/子機をそろえるにはまだ高価か。規格の普及後に期待

WZR-1750DHPを2台使った11ac環境は、既存の無線LANより速いことは確認できたが、今回のテスト環境では思ったよりも奮わない、というのが正直な印象だ。

現状で11ac環境を整えるには、WZR-1750DHPを2台確保する必要がある(これで約40,000円弱)。PC本体と子機はGigabit Ethernetでの接続が必須となるため、機動性が損なわれるのも本製品の魅力に影を落とす。最近主流の薄型UltrabookはGigabit Ethernetを持っていないことも珍しくないため、WZR-1750HDPの快適さを体験できる機材は限定される。ただし、あくまで「現状」の話であり、また、部屋から部屋へ有線LANケーブルを引き回したくない時の解決策としては効果的だろう。

Wi-Fi Allianceが11acの認定プログラムを開始するのは6月以降。アップルは次のOS更新(OS X 10.8.4)で11acをサポートすると噂されている。となると、WZR-1750DHPの真価はそれ以降に出る新型PC/Macが出たあと、ということになるのではないだろうか。こうした状況の整備を含めて、今後の展開に期待したい。