既報の通り、米Spansionは富士通セミコンダクター(FSL)のMCU/Analog事業を買収することを発表した。発表そのものはまず日本時間の4月30日における富士通の決算発表の席で語られ、これにあわせてSpansionもプレスリリースを発表した。この4月30日は同社の2013年度第1四半期の決算業績発表が行われる日でもあり、大西洋時間で4月30日午前8時から開催されたConference callでもこれについて触れられたが、この後で改めて買収に関してのみのConference Callが開催された。ということで、そちらの情報をベースに、Spansion側から見た買収にまつわる話をレポートしたい。

まず戦略的な目的である。Spansionはこれによって、いくつかのメリットがある(Photo01)。第一が売り上げの増大である。以前のインタビューでも出てきたが、同社の従来のビジネスでは2015年頃までで65億ドル程度の売り上げ増大を予測していた。それが今回の買収により、300億ドルを狙えるところまでビジネス規模を拡大できる。また、従来はSoC向けのIPを提供していた程度だったシステム向けのビジネスが、製品そのものを提供できるようになることで、より規模を拡大できることになる。

Photo01:FSLとは引き続き複数年のファウンドリ契約を結ぶ形で生産を委託するとあるが、興味深いのはこれを他のFabに移管するライセンス契約も同時に結んでいる事だ

またFSLは国内でこそ強いポジションに居るが、World Wideではそれほど大きなシェアを持っていない。Spansionとしてはここを拡張することで、よいビジネスに繋げられる自信があるとしている。ただそのためには差別化の武器が必要であるが、FSLの特にアナログ部門の買収がこの差別化の要因になることを期待しているようだ。

ちなみにFinancialの面で言えば、MCU/Analog部門の買収に1億1000万ドル・棚卸資産の買収に6600万ドルで合計1億7500万ドルの出費になるが、その反面2014年には売り上げが4億5000万~5億5000万ドル増加すると見ており、粗利益で言えば現在の37%が40%ほどに増加すると見ている。EBITDAベースでは4000万~6000万ドルの増加が2014年には期待でき、これはEPS(Earnings Per Share:一株あたり利益)では0.4~0.6ドルに相当するとしている。確かに現在のSpansionの状況(2013年第1四半期における売り上げは1億9000万ドル。ちなみに2012年通期での売り上げは9億1600万ドル)からするとやや大きな買い物ではあるが、長期的には十分ペイすると判断しているようだ。

さて、もう少し富士通との関係を。新会社ではFSLのMCU/Analog全製品と関連資産、従業員まで全部買収することになる(Photo02)。特にSpansionは日本において自動車メーカーに大きなシェアを持っており、FSLもまた自動車メーカー向けのシェアを持っているため、ここでの相乗効果を得ることはたやすいと考えているようだ(Photo03)。具体的なマーケットとしては、これまでSpansionとFSLがそれぞれ持っていたマーケットに加え、今度はSpansionがNOR Flash(と一部NAND Flash)だけを提供してきたマーケットにMCUを販売できる機会があるとしている(Photo04)。

Photo02:ちなみに現時点で一番不足してるのはソフトウェアエンジニアだそうで、これはさらに増やしてゆくとか

Photo03:左下は8Mbit(1MB)以上のFlash Memoryを搭載するMCUの比率で、これが上がるほどSpansionには美味しいビジネスになってゆくことになる

Photo04:CONSUMERあるいはINDUSTRIALはこれまでSpansionがNOR Flashだけを入れてきたマーケットだが、今度はNORに加えてMCUの販売も可能になる訳だ

ちなみに再建後の同社はFab Lite戦略を骨子に置いており、それは今回も変わらないとしている。長期的には富士通に加えて別のファウンドリを採用する可能性もあるが、とりあえず富士通とはファウンドリ契約を結ぶ、つまりFSLの会津若松工場の買収はFab Lite戦略に合わないので当初から考慮していなかったようだ。

Photo05:確かに会津若松を買収すると、買収コストもさることながらオペレーションコストも増えることになり、同社のビジネスとはそぐわないということだろう

さて、その結果としての市場規模である(Photo06)。先にも示したこちらと比較していただくと判りやすいが、売り上げ可能性の増大(65億ドル→300億ドル)もさることながら、Embedded NORが2015年で26億ドル→2017年で29億ドル、Embedded NANDが2015年で14億ドル→2017年で20億ドルだから、Flash Memoryベンダとしては悪くない増加率に思えるが、それでも合計で2015年に40億ドル→2017年に49億ドルとなるわけで、絶対的な金額ベースではそれほど大きくない。

Photo06:まったく増えないのがLicensingの5億ドルで、ここはStableと見ているようだ

ところがMCUやAnalog、一部のSoCを組み合わせることで240億ドルの売り上げになるから、これはSpansionにとって大きなチャンスになる。要するにSpansionにとって、これはFlash Memory専業ベンダから総合半導体ベンダに飛躍する大きなチャンスというか賭けであり、その賭けを行う決断をした結果がSpansion側から見た今回の買収の大きな理由、として良い様に思われる(Photo07)。

Photo07:すでにAutomotiveやIndustry向けに、NOR Flashでの納入実績があるのは1つの強みだが、あとは同社のMirror bitをはじめとするNOR Flash製品くらいしか差別化要因が無いのもまた事実

ただMCUの世界はWorld Wideで激しい競争が繰り広げられているマーケットであり、例えばAnalogにしてもSilicon ImageとかCypressのように、CoreそのものはCortex-M系ながらAnalogで差別化をしているベンダも少なくないので、富士通のAnalogを組み合わせただけで競争力がもてるか? というと筆者にはちょっと「?」である。まぁこれは「賭け」なので、吉と出るか凶とでるか、今しばらくは動向を見守ってゆきたいと思う。