このスケールメリットでは、例えばネットワーク機器のEricssonやAlcatel-Lucentなどの企業にとっては世界最大の調達先となる。両社を合わせると119億ドル規模のネットワーク関連機器の設備投資を行っており、中国製品を使うChina Mobileを除けば、世界最大規模になる。

年間20億ドルのコストシナジーが出せる、という。ソフトバンクから端末が出ていないSamsungやHTCの名前が登場している

この時、スライドには「スマートフォン」として韓国Samsungが紹介されており、孫社長は「Samsungは端末とネットワーク機器の両方をSprintに収めていて、すでに世界一のお客さん。ソフトバンクのグループに入れば、(端末がソフトバンクから出るのは)当然時間の問題」としており、ソフトバンクからSamsung製品の登場を示唆した。また、iPhoneの調達先としても、両社を合わせれば世界最大となるとアピールする。両社のスマートフォン販売台数は2,650万台に達しており、米VerizonやAT&Tに迫る規模となり、スケールメリットは大きくなる。そうしたメリットはDishの傘下に入っても得られない、と孫社長は説明する。

米国の上位2社に迫る調達スケールになる

China Mobileを入れても世界2位の設備投資

それに加え、ソフトバンクは「世界最大」の利益を稼ぎ出しているモバイル事業のノウハウがある。このスケールメリットとノウハウで、統合コストを含めても年間20億ドルのコストシナジーがあるという。ただ、SprintはCDMAネットワーク、ソフトバンクはW-CDMAネットワークで方式が異なるが、この点についての言及は特にされなかった。

ソフトバンクとSprintは、毎週のテレビ会議を行っており、ノウハウの提供などの交流をすでに行っているが、Dishはまだ「裏付けのないコストシナジー」と孫社長は指摘する。

いずれにしても、こうしたソフトバンクのシナジー効果を加味すると、1.27ドルの価値があり、7.65ドルへと上昇する。そのためDishの6.31ドルに比べて優位にあると強調。こうした優位点があるため、「買収提案を上積みするという予測があるが、すでに優れているので上積みの必要はない」と孫社長は説明する。

ソフトバンクの方が1株当たりの価値が優位になっている

財務体質に関しても、ソフトバンク、Sprint、Clearwireの3社を合わせて純有利子負債とEBITDAの倍率は3倍程度だが、Dishの場合、5.9倍にも達し、500億ドルの負債になるという。モバイル業界では最高レベルの借入倍率で、孫社長は「これは危険な状態」と指摘する。ちなみに、ソフトバンクがボーダフォン・ジャパンを買収した際の借入倍率は4.4倍だったため、それ以上の数字になっている。

財務体質の比較。現在最大の借入倍率になる

また、買収後の株式の経済持分では、36%をDish会長のCharlie Ergen氏が所有し、議決権は85%を占めることになる。孫社長は、自身について「いろいろな人からワンマンだと言われるが、ここまでアグレッシブではない」と冗談めかしつつ、Dish側の提案のガバナンスの問題を批判する。

孫社長は、「Sprintの成長を加速させたい」と話し、「先進的かつ卓越した経営実績によってSprintの株主価値最大化を目指したい」とアピール。それに対してErgen氏は、「Sprintのネットワークビジョンの専門家ではない」と発言している上に、自分の専門分野である衛星放送の分野でも、業績を伸ばせていないと指摘。さらに、スマートフォンが「成功の鍵」であるにもかかわらず、Dishはパートナーシップがないが、ソフトバンクはさまざまな企業と関係を持っている。さらにスマートフォンの販売台数も世界で1位であり、Dishにはその実績もない。Dishはスマートフォンに関してなんのノウハウもないと強調する。

孫社長は、こうした買収提案について、追随してくる企業が出てくることは予測済みであり、しかもこれらの点から、ソフトバンクの方が優位であることを強調する。「これまで沈黙を守ってきたが、満を持しての説明」と孫社長は述べ、Sprintの株主に対して、「現実的に比較してもらいたい」とアピールしている。