なんだか恒例化してきた海外牛丼事情。なにしろ牛丼チェーンの海外進出ぶりが目覚ましく、渡航先にあるのだから試さずにはいられない。やはり同じお米を主食とするアジアでは強いのか、フィリピンでも吉野家がマニラを中心に事業展開していた。しかし、「マジメな老舗」吉野家のイメージを覆すなんともフィリピンな店舗に「吉野家に、いったいなにが……?」と思ってしまったのである。る。

フィリピンから一度撤退した吉野家、リベンジに成功

テラス席まである「モールオブアジア」内の店舗。おしゃれエリアにも居を構える

吉野家といえば、同じく海外進出目覚ましい「すき家」と比べ"マジメ"なイメージだ。いや、すき家だってマジメに商品開発をしているのだろうが、清々しい失敗を重ねつつもおもしろい海外ご当地メニューが次々に登場するところを見ると、なんとなく遊びがあるような気がするのである。だが、フィリピンの吉野家に入ってみて、そのマジメイメージはがらりと変わった。

このところ、日本の外食チェーンやコンビニエンスストアがどんどんフィリピンに進出している。吉野家は10年ほど前に一度フィリピンに進出したものの、フィリピン人に味も価格も受け入れられず、数年で撤退したという過去を持つ。それが、再びフィリピンに再上陸してすでに1年以上。今度はフィリピン人にも受け入れられ、順調に店舗を増やしているという。

フィリピン、とりわけマニラの経済状態や日本人渡航者数、居住者数の上昇も今回の成功の一因ではあるが、なによりも「メニュー展開でフィリピン人の心をつかんだことが大きいのでは」とは、現地でオペレーター業を営む日本人男性の弁。ほほう、いったい吉野家にどんなご当地メニューがあるのだろうか。そんな期待を胸に訪れたのは巨大なショッピングモール「モールオブアジア」に入居する店舗。テラス席があるあたり、ちょっと南国のカフェ風だがカウンターで注文してお金を払い、料理を受け取るというスタイルは普通にファストフードのそれである。

このメニューの多さ、ファミレス並み。売り切れ商品も多かった

さて注文。と、カウンター上部に掲げられたメニューを見てみてびっくり。牛丼メニューをしのぐほどでかでかとお弁当やサイドメニューが幅をきかせており、牛丼は数あるメニューのうちのひとつ、といった印象だ。

ビーフラーメンのスープは……?

牛丼の並は115ペソ(約230円)、大盛り149ペソ(約300円)。日本より安い

牛丼屋には牛丼を食べにくるのが筋だと思うが、ここではそうとも限らない。とりあえず、牛丼はマストとして、迷いに迷って選んだのは「ビーフラーメン」と「カリフォルニアロール」。実は、2種類の丼をひとつのプレートにおさめた「ジャンボプレート」が気になるのだが、これは食べきれないのが明らかなのであきらめる。ちなみに、「つゆだく」を頼んでみたが、単語自体は通じず「extra soup」ということになるらしい。「5ペソ(約10円)です」とニコニコ笑う店員。フィリピンではつゆだくが無料サービスではないという驚愕の事実。もとが安いのでまぁいいけど……。

従業員は丁寧かつにこやか、フレンドリーで気持ちがいい。料理が運ばれてくるまでに要した時間はほんの数分と、ファストフード店らしく仕事も早い。いよいよ食してみる。が、牛丼は牛丼である。やはり日本のものより甘みが少ないと感じる。ごはんのもっちり感が少なく、もう少しつゆがほしいところ。とはいえ、日本の味に近く、おいしくいただける牛丼ではあった。

お次はビーフラーメン。読んで字のごとく、牛肉入りのラーメンということだが、牛丼のつゆをだしかなにかで割ったものの中にラーメンが入っているというシロモノで、なにも工夫をした形跡がない。ラーメンのスープのベースに使うには牛丼のつゆは甘く、なんとなくぬるくてゆるい味付けのラーメンである。具は牛丼のものなので、つまり牛丼のごはんの部分がラーメンになって著しくつゆだくなだけなのだが、これをメインに注文となると不完全燃焼になりそうと感じるのは私だけだろうか。

ビーフラーメンの並は115ペソ、大盛りは179ペソ(約360円)。ほかに、天ぷらラーメンもあった

カリフォルニアロール、マンゴー入り!

そして、巻きずし。こちらは味に想像がつくのである意味つまらないチョイスではあるが、南国ではマンゴーが入っていると聞いていたのでそれを期待してのオーダー。牛丼やラーメンより作るのに手間がかかるようで、しばらくしてから運ばれてきた。天つゆか? と思われるほどたっぷり入った醤油とともに。

彩り美しい巻きずしはサイドメニューなので59ペソ(約120円)と安い

つぶさに観察すると、おお! 確かに、マンゴーが入っている! かんぴょうの代わりなのだろうか。フィリピン人に聞いてみれば、「フィリピンでは年中マンゴーが採れますし、フィリピン人はマンゴーが大好きなのです」とのこと。いや、だからといってすしに入れるというのはいかがなものか。と思いつつ食してみればまぁ思った通りの味である。外国で食べる巻きずしの味。ちょっとごはんがパサついていて握りすぎだが、可もなく不可もなく、こんなものかなという感じだ。と、ここでマンゴーが入っているのに「普通だ」と思ってしまったことに気づく。マンゴーは意外と味を主張しないものなのである。肩すかしではあるが、大きな発見だ。

ふと周りを見回すと、そろそろランチタイムだからかお客さんがたくさん入ってきていた。オフィス街などではOLが持ち帰り弁当を求めて並ぶこともあるというので、吉野家、人気のようでちょっとうれしい。……しかし。フィリピン人、吉野家が牛丼屋であることを果たして知っているのだろうか。大盛りラーメンを半分こして食べるカップル、揚げ餃子にエビかつ、天ぷらセットと揚げ物づくしの兄さんなど、見渡す限り誰一人牛丼を食べていない。それでいいのか、吉野家!? っていうかフィリピンのみなさん、牛丼を食べてくれぃ! と叫びだしたい気持ちを抑えつつ、店を後にした。