衛星放送会社の米Dish Networkが、米携帯電話第3位のSprint Nextelに対して255億ドルの買収提案を行ったことが話題になっている。Sprintといえば、昨年2012年に日本のソフトバンクが200億ドルで同社の買収合意に達したことが知られているが、今回のDishによる買収提案がSprintとソフトバンク両社にとってどういった意味を持つのか、その背景を含めて考察する。

Dish Networkとはこんな会社

まずDishについて背景を振り返る。日本ではなじみのない会社だが、地上波TV放送のカバーエリアの問題を抱える米国では、Dishは衛星を使ったTV放送サービスを提供する企業としてメジャーな存在の1つだ。米国では地上波TVは地元密着型の放送局であり、全米規模をカバーするTVネットワークの視聴にはCATVまたは衛星TVを契約するのが一般的だ。

米国で衛星放送を提供するDish Network

CATVにはComcastやWarnerなどの大手に加え、地元で提供されるローカルCATVサービスなどがある。DishやDirecTVなどの衛星放送各社は、1980年代から1990年代ごろにかけて大々的なプロモーション活動を展開。これらライバルから多くの顧客を獲得して高成長を実現していた。

ところが2000年代に入りインターネット普及が本格化すると、CATV各社やDSLプロバイダ各社はTV放送にインターネットのブロードバンド回線接続サービスを付与するバンドル戦略を打ち出した。一方、広域放送に特化したDishら衛星TV会社は自前回線もなくこうしたバンドル戦略が打ち出せず、ブロードバンド戦略で取り残される形が続いていた。しかも業界のトレンドは携帯電話やタブレットなどモバイルデバイスへと移行しつつあり、さらに長引く不況からTV契約のサブスクリプションを解約するユーザーも増加し、TVサービス各社の業績はしだいに悪化の様相を見せつつある。このあたりはAP通信のレポートにも詳しいが、それによればDishは過去3年間で業績はほぼ横ばいで、TVサービス事業者としての成長はほぼ頭打ちになっていることがわかる。

こうしたなかで最近になりDishが打ち出したのが「携帯電話事業への参入」だ。自前で無線周波数帯域の購入を行っているほか、以前のレポートにもあるように自社の通信衛星の帯域の一部の携帯電話事業への流用のほか、(事実上Sprint傘下にある)Clearwireへの買収打診を行っている。Clearwire買収提案は現在のところ実を結んでいないが、以上の経緯から周波数帯域獲得と携帯電話事業への参入は本気だと考えられる。一見すると異業種による突然のSprint買収提案に驚くが、実際には次なる成長ドライバを探す過程で一連の買収が順当に浮かび上がってきたというわけだ。

DishによるSprint買収提案の狙いとは?

今回の買収提案について米Dish Network会長のCharles Ergen氏は、DishによるSprint買収が両社の価値を最大化し、さらにユーザーが携帯電話やタブレットを使ってモバイル環境で自在にTV放送を楽しめるサービスを提供できるとコメントしている。つまり、既存の携帯電話サービスにTVサービスをバンドルする戦略だ。

このDishによるSprint買収におけるメリットについて、わかりやすくまとめたQ&AがUSA Todayに掲載されている。調査会社の米IDCのアナリストCarrie MacGillivray氏らのコメントをまとめたものだが、同氏はソフトバンクによるSprint買収が短期的には米国ユーザーにとって直接的なメリットがないのに対し、DishによるSprint買収は前述のような「TVバンドル戦略」という形で返ってくると評価している。