HTCといえば、昨年2012年春に「Facebook携帯」を発売していたことを覚えている人もいるだろう。HTC ChaCha (Status)とHTC Salsaの2機種だ。HTC ChaChaはQWERTYキーボードを備えたAndroidスマートフォンで、メッセージング機能を頻繁に利用するユーザーを主なターゲットとしている。最大の特徴は本体下部に「Facebookボタン」を備えている点で、これを押すといつでもFacebook機能(アプリ)を呼び出せるようになっている。

HTC ChaCha

HTC Salsaはタッチスクリーン専用端末で、機能的にはChaChaとほぼ同じ。Facebookボタンも備えている。だが、このFacebook携帯が一般に受け入れられたとは言いがたく、実際に好調なセールスを実現したという話は聞いていない。こうした経緯もあり、当初「Facebookが専用のAndroid端末をリリース」という話が出たときに否定意見が多かったものと考えられる。おそらくは、このときの反省をFacebookとHTCも持っており、それを改善すべく開発したのがFacebook Homeとみられる。

HTC Salsa

HTC Firstでは、以前の2機種が持っていたFacebookボタンこそ排除されているものの、Facebook Homeの採用により、スマートフォン利用中のFacebook機能の呼び出しや連携はよりスムーズに行えるようになっている。物理ボタンではなく、ソフトウェア的な統合を強めた印象だ。またFacebookとHTCが認めているように、HTC Firstに搭載されたAndroidには特別な"最適化"が加えられており、通常のAndroid OSとは異なるものになっているようだ。これにより、通常のアプリだけでは実現できない「OSを含む他のアプリの通知メッセージのFacebook Homeへの統合」を可能にしている。ただTechCrunchによれば、Facebook側では「Fork (手を加える)」という表現は認めておらず、あくまで「Extended (拡張)」とするにとどまっている。このあたり、「Facebookはあくまでプラットフォームであり、どの機種でも利用できる」といった表現との矛盾を避けたいという狙いがあるとみられる。

モバイル化で出遅れるFacebook

Facebook Homeは試みとしては面白く、過去のHTCのFacebook携帯での反省を活かし、ユーザーインターフェイスの改良とプラットフォームのアプリ化で訴求していこうという点で一歩前進したといえる。さまざまな可能性を模索したいHTCに、新たな商材がほしいと考える携帯キャリアを除けば、今回の発表の背景にはモバイル戦略で出遅れるFacebookの苦悩がある。Pew Research Centerのデータが示すように(New York Timesのレポート)、米国民のおよそ3分の2がFacebookをアクティブに利用しているにも関わらず、実際にはその利用時間はどんどん減少している。もともとクローズドなWebサービスとしてスタートしたFacebookはPCユーザーの割合が多く(FacebookアプリがFlashベースだったという背景もある)、人々が急速にモバイル端末にシフトするなかで、その利用時間が減少していくという現象は想像に難くない。また若年ユーザーほどFacebook離れの傾向がみられるという話も出ており、モバイル戦略の強化は昨今のFacebookにとって至上命題となっている。

こうした背景を踏まえてリリースされたのがFacebook HomeとHTC Firstだと考えると、その狙いがおおよそ見えてくる。まず減少しつつあるユーザーのFacebookサービスでの滞留時間を増やすために、従来のFacebookアプリ以上の施策が必要になる。そこでスマートフォンのホーム画面をFacebookのアップデートで埋め、他の機能を呼び出すためのランチャーとして活用してもらうことで、利用時間を増やす。さらに主に若年層をターゲットにFacebook利用機会を促すため、便利な専用端末を用意する2段構えの戦法を採る。HTC Firstのカラーバリエーションが4種類あり、さらに2年縛りという条件ながら比較的ハイエンドに近い端末を99.99ドルで提供するというのは、こうした層を意識したものだと考えられる。

だが本当に若年層をターゲットとしているのであれば、外観がファッショナブルかどうかはさておき、「Facebook統合が本当に訴求ポイントになるのか」という点、そして「2年契約で本体価格が100ドルは妥当なのか」という2点が筆者としては非常に気になる。若年層でのFacebook離れが本当であれば、そもそもFacebook携帯というのはセールスポイントにはならない。さらにサービスを広く利用してもらうという意図があるのならば、むしろ端末は「無料で配る」くらいの施策は必要だと考える。もともとAT&Tは米携帯キャリアでも月額料金が高いため、サービス中心に広く利用してもらうためには「端末を安価に」かつ「プリペイドなど低料金プラン」での提供が必要だろう。現時点では「Facebookのヘビーユーザー」相手くらいにしか訴求ポイントがない。おそらく多くのスマートフォンユーザーは適時相手やシチュエーションに応じて各種SNSを使い分けている状況だと思うが、この中で「Facebook中心の仕組みがどこまで受け入れられるか」が注目ポイントになる。 Facebook Homeに関してもう1つ気になるのが、Android以外での対応だ。なぜAndroidなのかという質問に対し、Zuckerberg氏はそのオープン性を挙げている。All Things DigitalでIna Fried氏も言及しているが、Facebook Homeのような仕組みがWindows Phone、ましてやiPhoneで認められることはないだろう。BlackBerry 10やUbuntuなど、新しい世代のモバイルOSではFacebook Homeと同様のアイデアで、スムーズなタスク切り替えやアップデートの確認機能などがすでに標準実装されている。ある意味でAndroid向けの機能だといえるかもしれない。