また次期iPhoneに関して、以前に買収した指紋認証システムのMicrolatchとAuthenTecの技術を組み合わせNFCを使ったモバイルペイメント技術を採用する可能性があると指摘する意見もある。端末ロックの解除に指紋認証(バイオメトリクス認証)を用いること自体は不思議ではなく、AuthenTec買収を実施した時点でiPhoneの今後いずれかの世代で指紋認証を採用するのは時間の問題だと考える。だが、これを使って何を実現するかはまた別の話だ。

一般に、携帯端末を使ったモバイルペイメントサービスでは、支払いに用いる携帯端末の中に個人を特定できる証明書のようなものを記録しておく必要がある。おサイフケータイでいうFeliCaチップであり、SIMカードに秘密裏に記録されたデータがこれに該当する。こうしたセキュリティ情報保持の仕組みを「セキュアエレメント(SE)」と呼ぶ。これをNFC技術を使って読み取り端末ならびにサーバと通信させることで、本人の確認と信用情報の照会を行い、実際の決済が行われる。だが現在のiPhoneはNFCに対応しておらず、SEも搭載していない。仮に指紋認証で端末をロックしたとして、セキュアな情報をどのように保持するかが問題となる。

SEを使わずに端末内のストレージに暗号化情報を直接保存するのか、あるいは実際に他のNFC端末と同様にSEをサポートするのか。もし前者の場合、Passbookなどと組み合わせてサービスを展開する可能性もあるが、出来ることはあくまで限定的だ。後者のSE搭載の場合、AppleがどのようにSEを実装してくるかが問題となる。関係者の話によれば、1年半前にiPhone 4Sをリリースするにあたり、AppleはNFC搭載を検討し、実際に携帯キャリア各社らに交渉を持ちかけたという。だがAppleが示したSE内蔵方式(GoogleがNexusシリーズで採用しているのと同じ方式)に対し、SIMカードへのSE搭載を望む欧州キャリアらが反発を示し、NFC搭載計画が流れたという話がある。おそらくAppleが従来の自社の実装方法を進める限り、携帯キャリアらとの溝は埋まらず、Google Walletがそうであったようにパートナー各社らの協力を得られずにサービスが頓挫してしまう可能性がある。SEやNFCを使わず、アプリが個々に実装していた仕組みをまとめただけのPassbookは、パートナーとの摩擦を避けつつ似たようなサービスを提供できる、ある意味で中間ソリューションだといえるかもしれない。

最終的に、どのような製品で登場する?

現時点で筆者がiPhone次世代モデル(ここでいう「iPhone 5S」)について予測できるのは、プロセッサが(少しでも)強化される可能性があること、新しい通信技術やバンドに対応すること(LTEやWi-Fi)、そしてまだ改良の余地のあるカメラ機能がアップデートされる可能性だ。また指紋認証技術を搭載してくる可能性があるが、次のモデルでは筐体を大きく変更する可能性は低いとみられ、実装スペースの都合で次期モデルまで見送られるかもしれない。またNFCについても、筆者が把握している範囲でiPhoneを使った大規模なフィールドテストが行われている気配はなく、仮に搭載したとしても、そこで使える機能は非常に限定的なものだと考える。実際にはNFC搭載スペースが現行シャーシのままでは非常に厳しいとみられるため、来年以降の課題になる可能性が高い。

そしてもう1つ、廉価版iPhoneについては、iPhone 5の基本スペックをある程度踏襲しつつ、一部部品のコストを下げ、販売価格を携帯キャリアの販売推奨金なしでも200~300ドル程度の水準に落とし込もうとしてくるはずだ。Apple製品の販売価格に対するBOM比率は6割程度だと筆者はみているが、もし販売価格が300ドルであればBOMは180ドル前後、200ドルであれば120ドル前後となる。iPhone 5のBOMが200ドル前後だったとすれば、プロセッサやディスプレイなど基本部品のスペックは大きく引き下げられないため、せいぜい160~200ドル程度が限度だとみられる。これにもろもろの諸経費を上乗せすると、だいたい300~330ドル程度がターゲット価格だと予想する。BGRは投資家らの予想価格として329ドルという数字を紹介している。また廉価版とはいえ、Appleが実際にそのようにマーケティングする可能性は低く、おそらくは前者のように「若者向けのスポーティでファッショナブルな新しいiPhone」のようなキャンペーンを打ち出してくるだろう。ここで訴求するのがカラーバリエーションで、「低価格ではあるが新しい方向性」という製品が現実的だと考える。