放送終了から10周年を迎えたTVアニメ『オーバーマン キングゲイナー』のBlu-rayメモリアルBOX発売記念として、「東京国際アニメフェア2013」にてトークイベントが開催された。出演者は総監督の富野由悠季、シリーズ構成の大河内一楼、メカニックデザインの安田朗、キャラクター&メカニックデザインの吉田健一の4名。トーク内容は作品の内容によく似合う、非常に楽しいものだった。

左から大河内一楼、富野由悠季総監督、安田朗、吉田健一

多くの才能が作り上げた非富野作品(富野総監督談)

4人の中で一番オシャレな服装で現れた富野総監督は「この人たちに総監督をさせられてしまった富野です」とまずあいさつをし、現場を仕切ったのは彼らで「富野作品ではないよね」と早々に富野節を炸裂させる。吉田、安田、大河内らは「富野総監督と仕事をする」ということに並々ならぬ意欲と覚悟を持って臨んだらしく、吉田「富野さんが次に何をするのかリサーチしていて、まだタイトルが『ゲインゲイナー』と呼ばれていた時点でやる気になっていた」、安田「オファーを受けた時点で歴史に確実に残るので、やるしかないと。うまくいけば永野護さんのようになれるかもと思った(一同笑)」、大河内「スタジオで富野さんのデスクの隣に(嫌な顔をされるのを承知で)席を決めた。一番プレッシャーのきつい環境でやりたかった」など、それぞれに当時を回想する。

オーバーマンの特徴である「オーバースキル」は大河内のアイデアだったそうで、3話で出して、(富野総監督に)怒られるの覚悟だったと言うと、富野総監督は「オーバースキルの演出がうまくできなかった。反省している」と反省モードに。当時、若い人たちの作る現場の空気に乗ろうと思っていたが「もっと自由に、大きく広がっていく作り方ができなかったので、今こうしてこの作品について語るのはちょっと憂鬱なんです」と自作に厳しい富野総監督らしい評価を告白。自分の色を出すことと、総監督としてスタッフの才能を引き出した上で作品としてひとつにまとめることは両立が難しいことであり、この作品ではどちらかというと自分の色を出すより才能の発露に比重を置いていたことがうかがえる。

同時に「もっと面白くできたはずだ」という後悔の強さと、『キングゲイナー』をしてなお「アニメの面白さってこんなもんじゃねえぞ」と確固たる自信を持って語る還暦を過ぎたおじさんがいるというのは、これはとんでもなく面白いことなのだ。もはやアニメオタクという人種の先駆者は平気で50代に突入していて、今回会場に集まったファンもどう見ても平均年齢30オーバーだったが、今やアニメが好きな大人はおかしい、恥ずかしい、みっともない、と笑うのはナンセンスな時代である――と言うと一番怒るのは「大人はアニメなんか卒業しろ」と言い続けてきた富野由悠季その人なのだが、それに関しては少し面白いエピソードが出てくるので、後半まで読み進めていただきたい。

キングゲイナーという作品は、当初もっとシリアスな作品になる予定だったらしく、シベリアの大地から逃げ出す暗くハードなお話で、吉田も最初にキャラクター設定の表情が"シリアス用"のものを作っていた。ところが実際にはどのキャラも大騒ぎだったわけで、スタッフに「(キャラ設定の)表情が足りない」と言われる始末。どうして初期の構想から真逆の方向に進んでしまったのか、富野総監督は意外な人物の名を犯人として挙げた。

富野総監督:「田中公平っていうちょっと素っ頓狂なおじさんがあの歌詞に対してあんな曲を出してきたんです。まさかこんなものを出してくるとは、という。そういう(田中の)才能に対してこちらがそのまんま(シリアスでいくんだという意向で)応えるというのはものすごく腹が立つ。だから(田中を)黙らせると。黙らせるにはオープニングの絵コンテでやるしかなかった。で、ダンスを入れたり、オーバーマンだからアイススケートを入れたりと、そうやって田中公平に対して"返す"ということをやった。だけども作品の中で、吉田さんや安田さんや大河内さんたちの才能に対して同じように返せなかったのは問題だった」

このエピソードからいろいろなことが判明する。まず歌詞が先で、それに作曲の田中公平があの一度聴いたら死ぬまで忘れなさそうな曲を出してきた。改めてオープニング映像を見るとわかるが、おそらく曲が上がる前にオープニングの絵コンテ作業は進んでいて、最初のゲインが銃を担いで歩いてくるシーンなんかはシリアスをやる気満点だ。ところが「君と出会って胸を合わせば」のあたりからもうおかしくなってくる。ゲイナーの内向的ゲーマーイメージはそのままだが、彼の真面目な表情が逆におかしみを感じさせる変な勢いが出てきて、そこにオーバーマンのロボらしくない踊るような動き、さらに間奏の「キン・キン・キングゲイナー」のモンキーダンスへ続く。気づけば最初のゲインのパートが浮いているという有様だ。そして歌詞が先だったということを考えると、おそらく間奏の「キン・キン・キングゲイナー」のコーラスは田中公平氏が勝手に入れたとしか思えない。……続きを読む