自動運転・隊列走行実用化のロードマップと各種技術

また、自動運転・車間4mの隊列走行の実用化(商用化)に向けたロードマップも発表された。何度も前述しているが、道交法の問題などもあって、技術的に完成したからすぐに機器の販売ができるかというと、そういうわけにはいかない。よって、法令との適合性に加え、安全性、社会受容性も考慮した、X、Y、Zの3段階の隊列走行コンセプトを順次導入していくとする。

Xの制御レベルは運転支援で、実用化時期は2020年まで(早ければ2018~19年ぐらいが目標)、省エネ化率は2~3%とする。Yは高度運転支援(部分自動)ということで、10%、2020~30年。ここまでは、一般車混在レーンにおいて実現することを目標にしている。そして最後のZは専用レーンにおいて、後続車が無人(実際には非常時のため、手動運転要員は乗ると思われるが)の自動運転、15%、2030年以降という具合だ。時速80kmによる車間4mの隊列走行は、つまるところ2030年以降の実用化が目標なのである。また、今回の技術は都市高速道路を除いた幹線高速道路でのトラック輸送が対象だ。

前述したように、15%の燃費というのは、数値流体シミュレーションを用いて、3台隊列走行時(定積時)の省エネ効果を予測した結果だ(画像4)。燃費だけのことを考えたら、半分の2mまで詰めると25%とさらに向上するのだが(画像5)、現状、フルブレーキ時は2mまで間隔が詰まることもあるので、現時点では4mよりも詰めるというコンセプトはない(もちろん、より短い車間で走れるように研究は行われているはず)。

そして隊列走行の各コンセプトにおける機能・性能だが、(1)隊列形成機能、(2)車間距離制御機能、(3)車線維持制御機能、(4)衝突回避機能の4点がより高度になっていく。Xでは、(1)は走行中の形成、(2)は時速80kmで車間22m、(3)と(4)はなしとなっている。Yでは、(1)はXと同じく走行中の形成、(2)は時速80kmで車間10m、(3)は白線およびトラッキング、(4)は自動ブレーキ。Zでは、(1)が停止(駐車場)での形成、(2)が時速80kmで車間4m、(3)が白線およびトラッキング、(4)が自動ブレーキに加えてレーンチェンジとなる。

隊列形成の走行中というのは、隊列を組みたい同じ方面へ向かう同じ会社のトラックなどが、目的地へ向かいながら、高速道路上で走りつつ、隊列を整えていくということである。車線維持の白線とは、高速道路上の白線を頼りにレーンを維持するというもので、トラッキングは白線認識できない場合に、レーザレーダを用いて車間距離を測り、先行車の背面の距離と角度を検出して、その情報を基に先行車の走行軌跡を追従するというものである。

ちなみに、プロフィア3台エルフ1台の編制は、コンセプトY、Zに対応の車両だ(正確には、エルフはコンセプトZの一部に対応し、逆にプロフィアにはない機能もいくつか搭載されている)。4メーカーによる4台編制の方はコンセプトXに対応車両で、「CACC(Cooperative Adaptive Cruise Control:協調型車速/車間制御システム)」車両と呼ばれる。CACCは、速度やブレーキの減速Gなど、車の走行状態を前後の車両で通信して共有することで、車速や車間距離をスムーズに制御するシステムのことをいう(2台目以降の車両がCACC車両で、先頭車両はACC(車速/車間制御システム)と呼ばれる)。要は、このCACCがコンセプトY、さらにはZにおける自動運転・4m車間の隊列走行のカギとなる技術というわけだ。

また各種要素技術についてだが、まずは高精度な車線維持制御技術について。車両の側方2箇所に画像認識型の白線検出センサが下向き(路面と垂直な向き)に設置されており、そこからの横位置情報を用いて高精度な車線維持制御を行う(画像20~22)。センサが2箇所あるのは、白線と平行に走っているかどうかを検出するためだ。

画像20。コンセプトZ仕様の日野プロフィアの左側面。こちら側に白線認識用カメラが備え付けられている

画像21。前方のカメラの取り付けられている箇所は、運転席のドアのすぐ上部

画像22。後方のカメラの取り付け位置はここ。製品化する際は、さらに空気抵抗を考慮するようなデザインが必要だろう

なお、なぜ白線認識用のセンサが側方に設置され、しかも下向きになっているのかというと、これは降雨や降雪、豪雨でカメラの視界が妨げられてしまい、機能しなくなってしまうのを防ぐためである。また、太陽光の向きや角度や強さ、日陰やトンネルへの進入といった照度変化、さらに前走車の影響を受けないようにするためでもある。スバルのEYESIGHTのように、車内にカメラを取り付けるという方式もあるのだろうが、白線検出に関して今回は、今回は側方で真下に向けて撮影し、そこから白線を撮影して認識するという方法が採用された(画像23)。

画像23。カメラからの白線をとらえた画像

もちろん、真下にカメラを向けた場合のデメリットも存在する。前方向きに設置されている場合は、視界さえ確保されていれば、遠方まで認識できるので、高速度で移動していても白線を認識しやすい。実線、破線、太実線、ゼブラゾーンなど白線も多数のパターンで描かれているので、全体的に見られる前方向きの方がやはり認識そのものはしやすい。真下だと視野が狭く、高速で流れ去ってしまうため、どのパターンか認識するのがそれだけでも大変なのだ。

そこで、どのような工夫がなされているかというと、GPSで現在地がどこかを確認して詳細地図と照合することで、そこにどんなパターンで白線が描かれているのかを確認し、実際に撮影された映像と比較するというわけだ。また、白線認識に関する各種センサや制御ECUなどのつながりは、画像24の通りだ。ちなみに白線認識の後に車線を維持するための自動操舵機構はこちら(画像25)。

画像24。カメラを含む車線維持制御技術の回路ブロック図

画像25。ステアリングの自動操舵機構

次は、高精度な車間距離制御技術について。隊列内の車間距離の安全性と先頭車急減速時の安全性を確保するため、車車間通信を用いた高精度な車間距離制御技術が開発された(画像26)。車車間通信には5.8GHzと光通信が使われ、通信周期は20ms。そして距離計測に関しては76GHzのミリ波レーダと2Dレーザレーダ(IBEO)が使われている。車車間通信に無線と光通信の2系統が用意されているのは、もちろん冗長構成のためだ(画像27~29)。

画像26。車間距離制御技術の回路ブロック図

画像27。コンテナの後端にあるのが5.8GHzの無線用アンテナ。送信用が2本、受信用が1本となっている

画像28。コンセプトZプロフィアの前面に後付けされたITS用機器。上からレーザレーダ、光通信送受発光器、ミリ波レーダ

画像29。バンパ部分の黒四角が光通信の送受発光器

そして安全性・信頼性向上技術について。コンセプトXからZまでを実現するには、以下の4点が必要だ。(1)走行制御ECUのフェールセーフ化、(2)車車間通信の高信頼化、(3)白線認識性能の高信頼化、(4)障害物認識の高信頼化である。(1)については、2CPUを搭載してお互いを比較させるというフェールセーフ型走行制御ECUが開発された。(2)は、前述したように無線と光通信で冗長構成化。(3)は、前述したような形で、太陽光や照度変化の影響を受けない白線認識技術となっている(コンセプトZ車両に搭載)。(4)は、遠赤外線ステレオカメラによる障害物認識技術と、レーザレーダとミリ波レーダのフュージョン技術が開発されている(コンセプトZ車両のエルフに搭載)。なお、コンセプトZのプロフィアとエルフに装備された各種機器は、画像30と31の通りだ。

画像30。プロフィアの装備

画像31。エルフの装備。コンセプトZでも、プロフィアにはないものが多数搭載されている

またコンセプトZの車両に関しては冗長度が上げられる形だ。センサ系が白線検出装置がカメラおよびレーザレーダの2重化、車間距離・障害物検出装置は76GHzミリ波レーダ/レーザレーダの2重化。アクチュエータ系は操舵制御装置がPM同期モータで、ブレーキ制御装置がEBS(Wabco社製)を2つ備える。車車間通信は5.8GHz無線通信/光通信の2重化、制御ECUは前述したようにフェールセーフECUの2重化としている。

そして実際に隊列走行を行っての各種評価と、燃費性能などの数値も公表された。時速80kmでの車線維持の値は以下の通り。直線においてが±10cm以下(目標は±15cm)、1000Rのカーブでは±20cm以下(目標は±20cm)。平地での車間距離は、時速80kmの定常走行で±0.5m以下(目標は±0.5m)、0.2Gの減速で-1.0m以下(目標は-1.5m)、0.5Gのフルブレーキングは前述したように-2.0m以下(目標は-3.0m)となっている。燃費は、空積で3台10m車間、時速80kmという条件では13.7%(目標は13%)、車間だけを4.7mにした場合、15.9%(目標18%)という具合だ。唯一、車間4.7mでの燃費が目標を下回ったという結果となった。