日本マイクロソフトは3月5日より3月8日まで東京ビッグサイトにて開催しているリテールテックJAPAN 2013にて、同社が組み込み向けOSとして展開しようとしているWindows 8ベースの「Windows Embedded 8シリーズ」を用いたPOSソリューションなどを紹介している。

同OSを活用することにより、組込機器にどういった変化がもたらされるのか。MirosoftのBusiness Group Lead, Asia Pacific, Greater China and Japan、Windows Embedded BusinessのJohn Boladian氏に話を聞く機会をいただいたので、その模様をお届けしたい。

リテールテックJAPAN 2013における日本マイクロソフトブースの風景

Windows Embedded 8シリーズは一般的な組込機器向けに「Standard」、一般的なPC向けWindowsと同等の機能を有する「Pro」、そして小売業界向けに最適化された「Industry」の3種類が用意されている。こうした組込機器の中でも、インテリジェントシステムとして同社が期待するのが小売りを中心とした店舗での活用分野。OSとしてはIndustryがカバーする分野だ。

従来のWindows Embedded 7シリーズからWindows Embedded 8シリーズへとラインアップが変更される際に、Standardはそのまま名称を引き継いだが、それ以外のEnterpriseはProへ、POSReadyはIndustryへとそれぞれ名称が変更された

MirosoftのBusiness Group Lead, Asia Pacific, Greater China and Japan、Windows Embedded BusinessのJohn Boladian氏。昨年11月にも来日してWindows Embedded 8に関する会見を開催しているが、その時から若干役職名が変更している

Boladian氏はインテリジェントシステムの定義を、「ネットワーク上にあるデータを集め、それを蓄積し、実際に自分たちのビジネスに有効な情報へと変換し、それを元に行動を起こすことを支援するもの」とする。そうした意味では、消費者の購入履歴などが逐次蓄えられていく小売店舗は、まさにそのデータの宝庫であり、それを活用して、より売り上げを伸ばしたいという思惑につながる経営層は少なくないはずで、「我々はパートナーと協力して、クラウド経由でビッグデータを活用するというインテリジェントシステムをソリューションとして提供しようとしている」とする。

ちなみにWindows Embedded 8 Standard/Proの製品出荷(General Availability:GA)は2013年3月を予定しているが、Windows Embedded 8 Industryだけ2013年第2四半期にGAというロードマップになっている。これについて同氏は「別に遅れているわけではなく、StandardやProにはない4つの要因を満たす必要があるため」と説明する。

Windows Embedded 8シリーズのロードマップとWindows Embedded 8 Industryに求められる4つの要件

1つ目は「Fixed Platform」で、カスタマがOSイメージを活用してプラットフォームを構築し、さまざまなサービスを提供できるようなエコシステムを構築できるようにすることを指す。2つ目は「Device Lockdown」。ソフトウェアのイメージをセキュア領域に展開することで、変更をできなくする機能であり、チャームなどの機能をDisableできるため、その端末に必要な機能だけを使わせる、といったことが可能となる。3つ目は「Retail Peripheral Compatibility」で、USBを中心とした周辺機器との相互接続性の確保。そして4つ目が「Streamlined OS Installation Experience」で、対象機器へのOSの実装を容易化することで、開発の容易化を促進するものとなっている。

「インテリジェントシステムに求められるのは、すでに小売店舗が有しているデータに対応できるシステムを構築し、それを情報として分析し、洞察を引出し、これからのビジネスを進める上で最適な選択肢を提供するということ」であり、具体的には、実際の核店舗の在庫レベルがどの程度あるのかといったことや、どの地域でどういった商品が売れているのか、などをリアルタイムで分析し、その結果を小売業者に提示し、タイムセールなどにつなげるといったことを実現できるようなシステムであり、リテールテックJAPANの同社ブースでも日本のパートナー各社とそうしたことの実現に向けて進めている取り組みを見ることができる。

例えば富士通と共同で進めているWindows Embedded 8 Industry(CTP版)を搭載したPOSでは、キーボードなどは省略され、すべてタッチパネル上で処理することが可能であったり、ユーザーインタフェースも基本的には通常のWindows 8と同じであるため、操作したことがある人であれば、改めて細かなトレーニングをする必要がないほか、ライブタイルを活用することで、店舗スタッフでもマネージャーでも分け隔てなく、リアルタイムで同じ情報を共有することが可能になるため、その店舗では、その時間、これをメイン商材として売りたいということを端的に知らせることができるといったような運用なども可能になるという。

富士通が開発したWindows Embedded 8 Industry搭載POS端末。すべての操作をタッチパネルで完結することができるほか、リアルタイムに各種情報をライブタイルで得ることができるといったことも可能になる

また、POS、サーバ、複数のデジタルサイネージを連携させたようなシステムでは、デジタルサイネージを介して、例えばレジ、バックヤード、客それぞれに応じたサービスの提示や作業指示などをリアルタイムで提示することが可能となる。これはクラウドとの連携により、店舗単位ではなく、地域のフランチャイズ全体に対して一気にプロモーションを仕掛けるといったことなどにも活用できるという。

右下がPOS、左下がサーバ、上がデジタルサイネージ。このデモシステムでは最大8枚のデジタルサイネージに接続が可能で、それぞれが独立した情報を表示できる

POSシステム単体とデジタルサイネージに表示される各種の情報。リアルタイムに購入データなどを処理して、その結果などを反映した情報などを表示することなどが可能

「我々の強みはPOS単体ではなく、その先にあるサーバ、データベース、クラウドといったものまで単一の規格かされたプラットフォームとして提供できること。これによりシステム管理者の管理負担を減らしつつ、セキュリティの確保も可能となるほか、導入も一気にすべてのシステムを入れ替えるというのではなく、一部ずつ順に行っていくということも可能になる」。同氏はMicrosoftだからできるPOSという末端機器からクラウドまで一貫したソリューションとしての提供にこそ強みを発揮できることを強調する。また、「ソリューションとしての提供ができるようになったことはこれまでのOS単体を提供するというビジネス形態から大きな変革をもたらすようになってきている」とも語る。これまでは、ユーザー側から、あれが欲しい、これが欲しいといったニーズが来ても、そのすべてに対応することが技術的に難しかったという。しかし、Windows 8の時代になり、提供できる技術がそうしたニーズを上回るようになった結果、ユーザー側が、そうした技術の中から自分たちが使いたいものだけを選択して使うことができるようになり、それにより、パートナーも含めて新たなビジネス戦略が構築できるようになったとする。

とくに日本の小売市場は世界的に見ても規模が大きく、そして成熟しており、技術的な要求も他の地域に比べて一歩進んでいるという。その結果、パートナーたちもCTPの提供時から、対応するアプリの作りこみを進めており、すでに高い完成度を誇るものが多々出来上がってきているとのことで、製品版の提供を機に一気に普及することが期待できるとしている。

なお、Windows Embedded 8 Standard/Pro/IndustryならびにWindows Embedded Compact 2013のそれぞれの開発は順調で、公表しているスケジュール通りに提供ができる予定だという。