「ネットワーク研究第一人者 東大 関谷准教授が語る! ネットワーク運用管理セミナー ~2013年にネットワーク管理者のやるべきアクションとは?~」が2月1日、東京・竹橋のマイナビルームにて開催された。ここではネットワーク管理者必見のその講演内容を紹介しよう。

ネットワーク研究第一人者、東京大学情報基盤センターの関谷勇司准教授

東京大学情報基盤センターの関谷勇司准教授は、「2013年に求められるIT技術とその管理スキルとは」と題し、2013年に注目を浴びるネットワーク技術動向と、ネットワーク管理者に求められるスキルについて講演を行った。同氏はこれまで、Interop ShowNet NOCチームジェネラリストとして、年ごとに台頭する新しい技術の利点や課題、応用分野を見極めてきた。また、東大のネットワーク運用管理の責任者として数々のケースに対応するなかで、「痛い思いをしてきた」と、参加者とその課題を共有した。

ネットワークの進化と多様化するユーザーの"わがまま"

東京大学の場合、Extended Star型でネットワークを構築し、各学部の自治に任せて運用をしてきた。そのためL3集中型はなるべく少なくし、ほとんどをL2としているという。そのようななかでユーザーは、「Aというセグメントに属する建物の特定の部屋だけに、Bのセグメントと同じネットワークを敷設してほしい」、あるいは「一時的に大量のデータ転送をしたい」、「無線につながらない」と全体構成を考慮することなく、さまざまなリクエストを挙げてくるという。

関谷氏は自身の経験に触れ、セミナーの本題を改めて強調した。

「BYODも促進されるなか、こうしたユーザーの"わがまま"を叶えるには、ネットワーク機器を仮想化し、複数に分割してユーザーごとに使えるよう構築するのが理想です。しかしながら、2次元から3次元へ移行した際には、障害があった場合に原因が突き止めにくくなっているという課題もあります。この管理を社内で対応するのか、委託するのかという選択も当然のごとく発生します。ついては、このようにセキュリティと導入・運用コストを鑑みた場合、どのようなネットワークを選定し、どのように構築していけばよいか、さまざまな観点から見極めていかなければなりません」。

2013年に普及が期待されるネットワークの利点と課題

ネットワーク管理者は、社内からの要求や社外への責任を実現するため、最適なネットワーク構成を考えていかなければならない。そこで関谷氏は、「2013年に普及が進むネットワーク」として一例を紹介し、その利点と課題を挙げた。

●10GBASE-T
最大100mまで10Gbpsの速度で接続できる規格であることから、サーバ仮想化の促進や配線コストの削減により、一気に導入が進むと見られている。

●Ethernet Fabric
すべての回線を使い切ることができ、回線の有効利用につながる。自動的な冗長化や管理コスト削減などのメリットが挙げられる。

●Overlay Network
これまでのP2Pからさらに多層化し、構造が複雑化していくと見られる。下位ネットワークのトポロジーを意識することなく管理ができるが、諸刃の剣で、障害が起きた際に、何が原因かを突き止めるのに時間がかかることが課題と考えられる。

●VXLAN(Virtual eXtensible Local Area Network)
L2のマルチテナント環境を実現できる。最近、搭載した製品がどんどん発表されており、今後の普及に注目する。

●Virtual Chassis
離れた拠点に複数のスイッチを束ね、複数のハードウェアを論理的に1台として扱うことが可能となった。

SDN/OpenFlowは「なんでもできる」が「何もできない」

前述の技術や定義に加え、現在多くの注目が集まっているのがSDNであり、制御するための技術がOpenFlowだ。関谷氏はInterop ShowNetをはじめ、数々のセミナーなどでSDN/OpenFlowをテーマとして取り上げたところ、いずれも問い合わせが殺到し、注目の高さを肌で感じたという。

SDNは、制御部とデータ転送部を分けてとらえ、外部のコントローラーから制御部に対して制御を行う、いわばシステム全体が一つのスイッチのように動作する形態で、個々のデバイス側はデータ転送のみを担う。複雑化したシステムをワンストップで集中管理でき、コアバックボーンの上に仮想的に論理ネットワークを構築することで、インフラに手を加えることなく、サービスを作り出すことができるという。

「指示さえすればなんでもできる」。
 関谷氏はSDN/OpenFlowに対する評価に、さらにこう付け加える。
「指示をしなければ、何もできない」。

これまでのネットワークでは、「これを実現したい」と思ったときに、用途に合わせた技術やプラットフォームがあったが、用途が多様化した今では、全体像を構想したうえで、組み合わせたり構築していかなければならない。そうした点でSDN/OpenFlowは、工場の機器管理などではオートフォーメンション化によりパフォーマンスを発揮するが、だからといってすべてお任せというわけにはいかない。そのフローを決めるのは、ほかでもない人間だからだ。

関谷氏は、現在のネットワーク技術を「限界」と指摘したうえで、これから必要となる考え方をこう述べている。

「仮想化のうえに仮想化を重ね複雑化してきた。もはや監視ツールだけでは障害に対応しきれない。これからは、部分的に仮想化したり専用ネットワークを構築したりと、全体をデザインしたうえで適切な技術を見極める必要がある」。

2013年、ネットワーク管理者に求められるスキル

複雑化・多様化したネットワークを管理運用する担当者にとって、これから担う責任は一層重大となる。関谷氏は、ネットワーク管理者に求められるスキルをこう定義した。

●従来の運用管理技術
現在のネットワーク技術は、さまざまな既存技術の組み合わせである。だからこそ、基盤となる運用管理技術は必須といえる。

●技術を選定する力
ベンダ依存が高まると、導入した技術に縛られてしまう。すべてをSIerに依存するのではなく、自身の知識と経験をもって技術を選定していく必要がある。そうした点では、SDNも例外ではない。

●集中と分散を見極める力
大規模障害に備え、用途や利用範囲を見極め、集中と分散を分けて考えていく必要がある。仮想化に仮想化を重ねていくことで、何が分散で何が集中かわからなくなっている状況を脱しなければならない。

●ネットワークを作る力と創る力
既存の技術が成熟した今、これからは、SIerにすべてを依存するのではなく、何をしたいかを明確に示す、すなわち「欲しいものを創る」という発想が必要である。そのため、「創る」をサポートするSIerの登場が期待されるだろう。

このように、関谷氏はネットワーク管理運用担当者の意識改革を示したうえで、コストバランスを考えた選定や運用方法を考えていく必要があると締めくくった。