日立エンジニアリング・アンド・サービス(日立ES)は2月7日、2012年12月7日に発表した原子力災害対応用小型双腕重機型ロボット「ASTACO-SoRa」に続く第2弾として、宇部テクノエンジの協力を得て、除染地域での焼却対象物の焼却および減容化を目的とした原子力災害対応移動式焼却設備「Hermit Crab」を開発したことを発表した。

画像1。Hermit Crabの外観(展開時)

画像2。会見を行った、日立ES プラント本部 原子力サービス部部長の北井浩一氏

現在、福島第一原子力発電所の周辺では、拡散した放射性物質が付着した、木質チップ、バーク(樹皮)、剪定枝や稲わら、堆肥、牧草などの除染対象物が多数存在している。環境省の発表によれば、保管されているそれらは東北・関東地方を中心に約50万tに達するという。

それらを効率よく保管するためには減容化が必須で、焼却を行えば、体積を約1/10にまで減容することが可能だが、その際の課題となることの1つが、それら焼却対象物の焼却設備への運搬である。焼却対象物を既存の焼却設備へ運搬するとなると、その経路となる地域にとっては、よその地域の焼却対象物が通過することを望まないこともあると考えられるからだ。

また焼却したとしても、付着している放射性物質が安全になるわけではない。よって、原子力対応の焼却設備でなければ、焼却対象物が灰になって減容化には成功しても、今度は放射性物質が飛散しやすくなってしまうという問題が生じてしまう。

そこで、こうした課題や問題を解決するために日立ESが考え出したのが、通常のトレーラーを用いて一般道路での走行も可能な40フィートコンテナ(全長1万2192mm×全幅2438mm×全高2896mm、付帯設備含めた重量は約21t)に、原子力対応の焼却設備一式を収納した移動式焼却設備Hermit Crabというわけである。

画像3。トレーラーで牽引されている状態

これなら焼却対象物をはるばる運搬する必要もなく、また放射性物質の付着した灰の飛散を心配する必要がないというわけだ。なお、Hermit Crabとは「ヤドカリ」の意味で、コンテナを貝殻に見立て、コンテナごと移動することからつけられたという。

Hermit Crabを実現できたポイントの1つは、いうまでもなく40フィートコンテナに原子力対応の専用設計の焼却設備一式が収まるコンパクトさだ。このコンパクトさを実現するため、日立ESは、焼却用の技術として省エネルギーでコンパクトな「浅層流動床燃焼技術」を有する宇部テクノエンジと共同開発を行った。

流動床燃焼技術は、最上部に燃焼室、その下に砂による流動床、さらにその下に空気層という3層構造を持つ。燃焼の仕組みとしては、流動床の底部に複数の穴があり、空気層から空気と助燃料の燃焼ガスを噴き上げる。そして流動層に投下された焼却対象物を巻き上げられた砂層と一緒に流動燃焼させるという仕組みだ。砂による蓄熱量が大きいので、雨などに打たれて湿分が高くなっている焼却対象物の燃焼にも適しているのである。

ちなみに一般的な流動床は深層流動床と呼ばれており、流動床の厚みが1mある。そのため、流動床の砂の噴き上がりが高くなり、必然と燃焼室も高くせざるを得ず、結果として焼却設備自体が大型化してしまう。

その一方で浅層流動床の場合は流動床が30cmしかないため、砂の噴き上がりが低いことから燃焼室の高さを低くでき、コンパクト化に適しているというわけだ。

また深層流動層の場合は、砂の噴き上がり速度が速いために壁面の摩耗が大きく、結果として砂の粉化が早いことから、砂の補給量が多くなる。さらに、深層のために圧力損失が大きいのでファンの動力も大きくなる(15~20kPa)、砂の保有量が多いために起動時の燃料消費が多いといったエコロジーやランニングコスト、手間といった点で短所があった。

しかし、それが浅層流動床の場合は、砂の噴き上がり速度が遅いので壁面摩耗が小さく、結果として砂の粉化も少ないから砂の補給量も少なくて済むほか、浅層のために圧力損失が小さいからファンの動力も小さくて済み(5kPa)、砂の保有量が少ないので起動時の燃料費が少なく、深層流動層に比べて経済的なのである。

画像4。流動床の仕組みと、深層式と浅層式の違い(浅層式の有意な点)

そしてコンテナ内の焼却設備一式の構造だが、画像5の通り。コンテナの2階部分に焼却物投入場所があり(移動時はコンテナ内に収納されている)、そこにはテントが設置される。そこで焼却対象物を投入すると(画像6)、まず燃焼系(画像7)を経て、まずは1次灰処理系で灰が回収される形だ。

燃焼ガスは続いて冷却系に入り、続いて集塵系へ。ここで燃焼ガスに混じっていた細かい灰が2次灰処理系で処理され、さらにバグフィルター(集塵系)→3次灰処理系へ至る。つまり、合計3回の灰回収が行われるというわけだ。

そして、最後には集塵系のHEPAフィルター(高性能エアフィルター)が用意されており、念には念を入れて安全無害な燃焼ガスが放出される。ちなみに灰はドラム缶に入れられて、コンテナ正面(画像8)から取り出される。このドラム缶は、放射線遮蔽率95%という高いものを利用する形だ(国の方針で、この放射性廃棄物を収納したドラム缶などの容器は、どこに保管されるのかまだ決まっていない)。

画像5。コンテナ内の焼却設備の構造。焼却物の投入はコンテナの2階から行う形

画像6。焼却物投入場所。焼却対象物はあらかじめ一定のサイズに細かくしておき、ザラザラと流し込む感じ

画像7。燃焼状況を確認することが可能

画像8。コンテナの正面。ここから焼却灰を入れるドラム缶を出し入れする

Hermit Crabの放射性物質飛散防止の安全対策について説明すると、3つの対策が施されているという。1つ目は、誘引ファンと換気ファンにより、コンテナ内の気圧を負圧に保ち、放射性物質が外に漏れ出さないようにしている点。要は、常にコンテナ内や設備内の気圧の方が低いため、コンテナ外から内へと空気が吸い込まれていき、放射性物質の付着した灰が万が一設備からコンテナ内に漏れたりしても、コンテナ外までには飛散しないということである。

2つ目は、バックアップとして非常用発電機が用意されている点だ。常用発電機が停止した場合にも、ファン類が停止してしまう心配がなく、コンテナ内の負圧を維持できるのである。

最後の3つ目は、排ガスモニターにより、排ガス中の放射性物質濃度を簡易測定して、大気放出される排ガスを常時監視しているという点だ。焼却を行って発生した排ガスに放射性物質が混じっていないかどうかがきちんと確認できるというわけである。

それからHermit Crabの焼却設備としての能力だが、多種多様な焼却対象物に対応している点がポイントだ。稲わら、剪定枝、パーク、は専用の小型チッパーで細分化する必要はあるが、多種多様な焼却対象物の単独燃焼が可能となっている。

しかも、前述のとおり、雨などの影響で湿っている焼却対象物でも燃焼力が強いので燃やすことが可能だ。通常の乾いた状態のものなら、燃やせる量は1時間当たりに30kg程度。湿っているものによって20kg程度になることもあるという。

なお、40フィートコンテナに燃焼設備一式は収まっているわけだが、実際に運用する際にはさすがにそれだけでは無理で、画像9のように、もう1~2台のトラックなどを利用して、いくつかの装備を運ぶ必要がある。

それら装備として、主なものは焼却対象物を細かくチップ化(一定サイズに揃えるため)するための稲わら用とパーク・剪定枝用の2台の小型チッパーや、灰ドラム缶保管庫、ディーゼル発電機、焼却物投入場所のコンテナ2階へ上るための階段、管理・操作要員などの居室などだが、それでもスペースは17m×21mで間に合うため、それほど大きなスペースは必要としないので済むという。

画像9。Hermit Crabの運用の際に必要となる全設備は、17m×21mのスペースに収められる

画像10。焼却対象物を細かくチップ化して、投入しやすく、なおかつ燃えやすくしてから投入する

Hermit Crabの開発における日立ESと宇部テクノの役割分担は、画像11のようになっている。日立ESは原子力システム設計技術をベースに、コンセプトの立案、概念設計、パイロット試験機による場内焼却試験計画、放射線モニタリング計画という具合である。

一方の宇部テクノは、焼却システム設計技術をベースに、日立ESの概念設計を受けての詳細設計、計画を受け手のパイロット試験機による場内焼却試験を実施し、放射線モニタリング計画も含めてフィードバックして実機製作に至っている。

開発工程としては、2012年1月から6月まで開発設計が行われ、同年3月から12月まではパイロット試験機による場内焼却試験(稲わら・バーク・剪定枝)、同年7月から2013年2月初旬までは実機の開発設計・製作・工場試験という具合だ。そして、この後は3月から約1カ月の福島県内での実証試験(詳細な地域は調整中)、4月以降は実際の活用を予定している。

画像11。日立ESと宇部テクノの役割分担

画像12。Hermit Crabの開発工程

なお4月以降の活用の仕方は、無償というわけではなく、リースなり販売なりの形で自治体の希望に対応し、さらに要望があれば運用要員5名(裁断要員、焼却要員、放射線管理者など)も日立ES側で用意することも可能という。費用は、1億から2億円とした。

また、会見を行った日立ESの北井氏はHermit Crabについて、同社の社員は福島県出身者も多いことから「福島県の役に立ちたいと思い、ASTACO-SoRaと共に開発しました」とコメントしている。