「App Central」で機能拡張

ASシリーズが備える特徴として紹介したいのが「App Central」だ。個人用NASが市場に出回り始めた当初、筆者は某社製NASを購入したものの、機能的に不満が残る部分が多くて閉口した記憶がある。同NASは海外ベンダーのOEM版だったため、同ベンダーのファームウェアを入れて使っていたが、App Centralのような仕組みがあれば「安物買いの銭失い」となることはなかった。前置きが長くなってしまったが、同機能はLinuxでは一般的なパッケージ管理システムを用いて、ASシリーズに好みの機能を追加するというものだ。

初期状態でもいくつかのアプリケーションがインストールされており、「Download Center(BitTorrentやHTTP経由でダウンロードを行うアプリケーション)」や「iTunes Server」「UPnP Media Server」は有効操作を行えば使用可能になる。執筆時点(2月上旬)で登録されているアプリケーションは86種類。ブログサーバーとなる「WordPress」や、同名のオンラインストレージサービスとリンクするする「Dropbox」など豊富なアプリケーションがそろっている。

この他にも「Perl」や「Python」、「Ruby」といった言語から、Javaの実行環境である「JRE(Java Runtime Environment)」、サーバサイドのJavaScript環境である「Node.js」などのフレームワークも用意されているため、独自のサーバアプリケーションを組み込むことも可能だろう。なお、ASシリーズにはsshサーバが組み込まれているため、各種ターミナルエミュレータ経由でログインすることができる。ただし、bashなど一般的なシェルは使用できず、現時点では最小限の機能を提供するBusyBoxを使用しなければならない。海外情報を収集してみたが、シェル環境の拡張に成功しているユーザーは執筆時点で発見できなかった。使用可能なアプリケーションはWebページから確認できるので、興味のある方はご覧いただきたい(図14~15)。

図14 初期状態で複数のアプリケーションがインストールされているが使用するには有効にしなければならない

図15 「App Centerral」からインストール可能なアプリケーション群

ここでいくつかのアプリケーションを試してみよう。「Dropbox」は、同名のオンラインサービスと同期を行うアプリケーションで、コンピュータ用クライアントと同じく自動同期が可能になる。オンラインストレージの容量と相談しながら、現在作業中のプロジェクト用フォルダなど、特定データのバックアップ先に用いると便利だろう。ただし、Windows OS向け最新クライアントのように、特定のフォルダを同期対象から除外することはできなかった。このあたりは今後のバージョンアップに期待したい(図16~18)。

図16 ASシリーズで使用できるアプリケーションの一つ「Dropbox」

図17 アプリケーションを有効にし、サインインするとDropboxで使用可能なデバイスの一つとして登録される

図18 Dropboxフォルダーが作成され、オンラインストレージの内容が同期される

先ほど紹介したWebページを眺めていると「Media Player」というカテゴリがある。メディアサーバを備えるNASは増えているが、最近の流行は家庭用テレビなどにデータを直接出力するメディアプレーヤーなのだろう。ASシリーズが用意した「Boxee」はHDMIケーブルでテレビとASシリーズを接続し、NASに保存した写真や音楽、動画を直接再生するというものだ。問題は操作方法だが、ASシリーズにUSBキーボードやUSBマウスを接続するか、iOS/Android向けアプリを使用する。特に問題なくデータの再生は可能だったが、気になるのがバージョン番号だ。

「AS-604T」シリーズにインストールしたBoxeeは、バージョン0.9.28.0165。公式サイトを確認するとデスクトップバージョンの開発とサポートを中止し、テレビに直接接続する「BOXEE TV」に集中している。そもそもBoxeeはフリーのメディアプレーヤーアプリケーションである「XBMC」を拡張するところから始まっているが、2012年にはすべてのデスクトップバージョンの開発とサポートを停止。Google Projectで確認できる最終版のソースコードは、バージョン1.5.0.23596である。なぜ古いバージョンを使用しているのか不明だが、ASUSTORにはバージョンアップもしくは異なるアプリケーションの提供を期待したい(図19~21)。

図19 NASに格納したデータをテレビなどに出力する「Boxee」

図20 コントロールはUSBキーボードやUSBマウス以外にも、iOS/Androidアプリが使用可能

図21 こちらがテレビにつないだ状態。今回はiPhoneを使用したが応答性は悪くなかった

さて、今回試用した期間は一週間程度と短いものだが、ASシリーズは冒頭で述べたTurboNASシリーズやReadyNASシリーズといった多機能型NASに肩を並べるだけのポテンシャルを持ったNASであると感じた。筐体(きょうたい)も質実剛健といえる風格を備えるが、ハードディスクトレイのラッチは下部に並ぶボタンを押して外す形式のため、HDDの取り付けに戸惑うかもしれない。

その一方でNASの利便性や有用性を高めるには、ユーザーコミュニティの力が必要だが、公式フォーラムを読むとリリース直後ながらもそれなりの意見交換が行われている。先行するTurboNASシリーズやReadyNASシリーズのフォーラムと比べると投稿数は少ないものの、ASUSTOR製アプリケーションやサードパーティアプリケーションの情報は、ASシリーズを導入したユーザーには役に立ちそうだ。

ASシリーズが先行組へ追い着くには、OS(ファームウェア)の機能拡張や、アプリケーションの充実度を高める必要がある。元QNAP Systemsのプロダクトマネージャーで現ASUSTORのマネージャーを務めるJames Wu氏によると、既にバグ修正とマイナーな拡張を行うベータ版OSを開発中であることを明かしているからひとまず安心だ。ASシリーズの登場は、これまでTurboNASシリーズもしくはReadyNASシリーズを選択してきたユーザーに新たな選択肢が増えたと言える。

阿久津良和(Cactus)