――平野さんがラムを演じることになった経緯は?

平野「当時、私は深夜放送のディスクジョッキーをやっていたんですけど、ファンの方から『文さん、アニメの声をやったらどうですか?』というハガキをいただいたんですよ。声によって自分をいろいろなものに変化させるというより、たとえばイントロの曲紹介のように、決められた時間内にキッチリ収めるといった“1秒以下のセンス”がすごく好きだったので、特に口パクというところに興味を持ちました。アニメなら何か面白いことができるかもしれない、そう思って事務所の方にお願いしたところ、最初に話をもらったのがラムちゃんのオーディション。当時は怖いもの知らずでしたね(笑)」

――声のイメージはすぐに掴めましたか?

平野「オーディションは原作の見開きがコピーされたものを読む形だったんですけど、そのときは、オーディションを受けられるということだけで楽しくて仕方がなくて(笑)。特に練習もせず、何も悩まず、ちょっと声を高めにして可愛らしく演じただけでした。ただ、ハガキを読むときもそうですが、文章によって読み方って変わるじゃない? それと同じですよね。キャラを見ただけで、こんな感じなのかなって。ただ、実際の収録になると、スタジオの中はベテランの方ばかり。私なんかは見学者の一人みたいな感じでした(笑)」

古川「ボクだってそうですよ(笑)。永井(一郎)さんとか肝付(兼太)さんとか八奈見(乗児)さん、あとは神谷(明)さんに千葉(繁)さん……一癖も二癖もあるような人ばかりで、ボクだけでしたね、普通だったのは(笑)」

平野「周りの方々のレベルが高くて、アフレコも15分を一気に録っちゃうんですよ。ものすごい緊張感の中、マイクの使い方もそうだし、ノイズを出さないような気の遣い方、そこにプラスして演技をしなければならないわけですから、一回一回が本当に真剣勝負でした。そうすると、絵を作る方も、役者がここまでやるなら次はこんなことをやっちゃおう、みたいな感じでさらにすごい絵が出来上がってくる。それに応えて私たちもさらに頑張る。本当に絵と声とが互いを高めあっていたような気がします」

――ちなみに、古川さんからみて、平野さんの演技はいかがでしたか?

古川「文さんの演技は、今までに見たことも聞いたこともないような、すごく新鮮なものでした。パターンにはまった演技じゃないからすごく新鮮。斯波さんの先見の明というか、よく平野さんを発掘したなって、ちょっと驚きました。声優のタイプとしては平野さんは新しいタイプだったと思います」

――平野さんが初めてラムの絵を見たときの感想はいかがでしたか?

平野「やはり可愛いなって思いました。お話を聞くと、ラムちゃんは“現代の妖精”ということだったので、もう何も考えずにピュアに声を出せばいいんだなって思って演じていました。周りの方々が上手くフォローしてくださったので、私の演技について、監督さん(音響監督の斯波重治氏)からは何にも言われなかったです(笑)」

――古川さんのあたるに対する印象はいかがでしたか?

古川「二枚目でありつつ、三枚目。その間を行ったり来たりするキャラなんですよ。二枚目はやったことがあったんだけど、三枚目はどうやって演じていいのかわからない。めちゃくちゃセリフは速いし、表情は千変万化するし、展開も二転三転する。真面目な顔をしていると思ったら、次の瞬間には大きな口を開けて笑っていたり。一行のセリフの中でも、前半は真面目に喋っているのに、後半は三枚目でふざけている。ものすごく難易度の高いセリフが多くて、本当に大変でした(笑)」

平野「よく蹴られたりして飛んでいくようなシーンってあるでしょ? 放物線を描いて画面の外にフェードアウトしていくような。その描写を古川さんはご自分の声だけで表現なさるんですよ」

古川「ドップラー現象みたいにね(笑)」

平野「ご自分の声だけでフェードイン・フェードアウトしちゃう、そんな技術を披露してくださるので、本番中は笑いを堪えるのが大変で(笑)」

古川「吹き出さないようにするのが大変。役者仲間に仕掛けられて、吹いちゃうのは屈辱的なんですよ。だから、面白くても知らん顔をしていようと思うんだけど、やっぱり笑わされちゃう。中でも文さんが一番吹き出してました(笑)」

平野「本当に役者というより見学者みたいでした。笑うのを全然我慢できなくて」

古川「肩が震えているのが見ていてわかるんですよ(笑)」

――そういう意味でも大変そうな現場ですね

古川「みんなが狙ってましたから。千葉さんも神谷さんも永井さんもみんな業師なんですよ」

平野「杉山佳寿子さんもね」

古川「普段ならまずやらないような人たちもやってくるから大変です(笑)」

平野「普通なのはラムちゃんだけよね?」

古川「文さんは、役に合わせようとしないんですよ。“平野ラム”って僕は言ってたんですけど、本当にそのまんま。そうするとだんだん絵のほうが平野文に近づいてきちゃう(笑)。それもまた新鮮でした。あまりそういった役者さんはいらっしゃらなかったので」

――そういった表からは見えないやりとりも作品の魅力になっていたんでしょうね

平野「ラムちゃんが魅力的なのは、自分が可愛いとか色っぽいとかモテるとか、そういったことを一切自覚していないところだと思うんですよ。だからこそ現代の妖精なんですけど」

古川「常に追いかける側で駆け引きはしないんですよね」

(次ページへ続く)